<民博の群像>次代を担う(3)道草OK、知の異種格闘技

 
              
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<民博の群像>次代を担う(3)道草OK、知の異種格闘技

2008/06/18配信

大森・立命大教授(手前中央)と総研大の院生や修了生たち(吹田市)
大森・立命大教授(手前中央)と総研大の院生や修了生たち(吹田市)

白川千尋は「紆余(うよ)曲折を経て文化人類学に目覚めた人たちが学べる場」と総合研究大学院大学(総研大)を評する。総研大6期生として国立民族学博物館(民博)で学んだ白川自身も回り道して、今は民博の准教授だ。

 道草を食った効用は大きかった。大学で文化人類学、大学院では環境科学を専攻。大学院を休学して青年海外協力隊員として、バヌアツでマラリア対策を手伝ったことは前回書いたが、感染防止用の蚊帳を漁に使う網に転用する現地の人がいるのに疑問を持って手探りで探求を始めた。

 援助する側が蚊帳が有効と決めると、援助される側の事情をあまり考えずに配ってしまう。こんなトップダウン型ではなく、住民の意を汲(く)んだ草の根型のやり方があるはず、と白川は考えた。

 有史以来、マラリアと付き合ってきた人たちだ。ある程度の免疫があるし、先進国の医療スタッフが思うほど恐怖心はない。地元に長く伝わる予防法や治療法もある。それを熟知した人類学者がもっと援助に加わるべきなのだ。

 そんな経験から再び文化人類学に目覚め1994年、総研大へ。研究とフィールドワークに精を出して博士号を取り、日本学術振興会の特別研究員を経て倉敷市の川崎医療福祉大学でバヌアツの伝統医療を研究した。先端医学が急速に進歩する一方で、古くから伝わる伝統医療が世界各地で見直されている。その後、白川は新潟大学に移り、研究を続けた。

 民博に迎えられた白川は国際協力と文化人類学の関係のほか、伝統医療の人類学的な研究も専門としている。いずれも注目される分野。活躍の場は広がっている。白川は言う。「文化人類学は学際的な分野。さまざまなテーマを持つ大学院生たちが多彩な先生たちに助言を受け、知の異種格闘技のような経験ができるのが総研大の魅力です」

 南出和余もそんな総研大で洗礼を受けた。神戸女学院大学で英文学を学び、大学院で人類学を専攻。2001年に総研大に入学した13期生だ。

 博士号を取って07年に修了。白川同様、日本学術振興会の特別研究員として京都大学地域研究統合情報センターに在籍する傍ら、兵庫県西宮市の聖和大学などの人文学部で非常勤講師をしている。

 南出はバングラデシュの農村でフィールドワークを続けている。対象は子ども。学校教育が普及し始め、子どもの世界はどう変わるのか。子ども同士、親や家族と子、地域社会の中の子ども……。自らつくった「子ども域」という概念のもとで調査研究に取り組む。

 通学を始めると家や地域で過ごす時間が減り、ほったらかしにされなくなった。日本の子どもほどがんじがらめではないものの、伝統的な生活パターンは大きく変わろうとしている。これからどうなるのか。

 民博で南出を「知の異種格闘技」に誘い込んだのは映像人類学の日本での草分け的存在の大森康宏。民博教授から立命館大映像学部学部長に転じた今も、民博で後進育成の一線に立つ。南出は「調査の手法として映像も有効なはず」と考えて、大森の講義を受けた。だが、映像が研究の幅を広げ、深化させた。

 06年、南出は第20回「パルヌ国際ドキュメンタリー&人類学映画祭」で科学ドキュメンタリー最優秀賞を受賞した。エストニアで開かれる、映像人類学分野の権威ある催しだ。バングラデシュの少年たちの通過儀礼である割礼の模様をビデオカメラで丹念に撮った作品が受賞作。南出は主人公の少年など現地の人々とともに受賞を喜んだ。

 最初に村に入ってから8年たった。少年少女たちは現地ではもう大人だ。映像も活用しながら息長くフィールドワークを続けたい。南出はそう考えている。=敬称略
(編集委員 中沢義則)
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