<民博の群像>次代を担う(2)知の系譜「子」から「孫」へ

 
              
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<民博の群像>次代を担う(2)知の系譜「子」から「孫」へ

2008/06/11配信

      白川千尋准教授
      白川千尋准教授

「ぺルーにおけるパブリック考古学」を研究する国立民族学博物館(民博)の総合研究大学院大学(総研大)1年生、日系ペルー4世のサウセド・瀬上・ダニエル・ダンテの話を続けよう。居並ぶ教員から指導や助言の集中砲火を浴びる総研大名物「1年生ゼミ」に備えてダニエルは5月9日、予行演習に臨んだ。

 舞台は民博教授で先端人類科学研究部長の関雄二の自主ゼミだった。関はダニエルの指導教員を務めている。

 専門家の知見に偏りがちなアカデミック考古学を一般の人々に身近な存在にする方策を探るのがパブリック考古学だ。祖先の営為の結晶である遺跡と暮らす地域の人々の思いをくみ取り、遺跡の保全に生かすのも課題。生まれ故郷のペルーでの体験や見聞が原点なのだろう、ダニエルの発表には情熱があった。

 「パブリックの定義を明確に」「どんな立場で住民と接してフィールドワークするのか」と関は次々に注文をつけていく。民博名誉教授の藤井龍彦も出席して助言した後、「やりがいのある分野だな。がんばれよ」と励ました。

 アンデス考古学が専門の関の現在の研究テーマは「ペルーにおける世界文化遺産概念と国家・地域の文化遺産概念との相互作用に関する研究」。この分野の第一人者のひとりだから、ダニエルが指導を仰ぐのは分かるが、ゼミにはいろいろな大学の博士課程の人たちが集まる。なぜか。

 アンデス文明はペルーでインカ帝国以前に栄えた。民博創設の立役者のひとり、東大教授の泉靖一率いるアンデス学術調査団が古代文明史を書き換える発見をしたことはすでに書いた。ところが、東大は伝統の「アンデス考古学講座」を廃止してしまった。

 アンデスの講座は埼玉大、山形大、東海大にもあるが、埼玉大、山形大には博士課程がない。関は東大出身で泉の系譜を引き、フィールドワークの経験も豊富。関のもとに研究者の卵たちが集うのは当然だ。藤井は泉調査団の一員。アンデス考古学の伝統は民博が継承しているのだ。

 副館長の田村克己は1989年、民博に総研大の専攻が置かれて間もなく着任、試行錯誤で始まった教育の最前線に長くかかわってきた。「民博の財産である多士済々の教員たちが多角的な視野から指導するのが総研大の最大のメリット」と田村は話す。

 修了生は100人を超え、大学の教員になった人たちも多い。田村は「総研大を巣立った『子ども』たちが今度は学生を教える。全国に民博の精神を受け継ぐ『孫』が増えているんです」と言う。

 代表が民博准教授の白川千尋だ。総研大の6期生で40歳。修了生で初めて民博に迎えられた。専門のひとつが「国際協力・開発援助と文化人類学の関係に関する研究」。院生の指導にも熱心だ。

 大学で文化人類学を学び、大学院では環境科学を選んだ。在学中に青年海外協力隊の一員として、南太平洋に浮かぶ島国、バヌアツ共和国に赴き、文化人類学の意義を再認識する体験をした。

 現地ではマラリア対策の活動を手伝った。マラリアにはワクチンがない。感染予防に効果的なのは、実は感染を媒介するマラリア蚊を防ぐ蚊帳だ。だが、援助チームが配った蚊帳が小魚を捕る網などに使われてしまう。

 先進国の援助スタッフたちは「マラリアに対する意識が遅れた人たちだから」と総括したが、白川は「違うな」と思った。なぜ蚊帳を使わないのか。自分なりに考え、手探りでフィールドワークのまねごとをするうち、いろいろな発見をする。=敬称略
(編集委員 中沢義則)
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