競泳で新記録を連発した“魔法の水着”、英スピード社のレーザー・レーサー。だがあまりの人気の過熱ぶりに、競泳水着の専門店からは悲鳴が上がっている。一般向け水着で他社製品が売れないうえ、国内販売メーカーの経験不足も重なって、得意先への納期が間に合わない事態も起きている。
レーザー・レーサーは全身型で約7万円と高価で、一般向けには全国の専門店10社に計120着しか供給されていない。国内販売のライセンスを持つゴールドウイン(東京)によると、今から予約しても来年2月以降にしか手に入らないという。
だが、専門店にはレーザー・レーサーと同じ素材を使った一般向けの競泳水着に注文が殺到している。価格は9000~1万5000円程度。県内で唯一、全国10社の中に入っている「ヤマナミスポーツ」(静岡市駿河区)では、5月の連休明けから注文が増え始め、現在では1日約100件の注文の9割がスピード社製品。「シーズン前に大量に仕入れた国内メーカーの水着がほとんど減らない」とはけない在庫に頭を抱えている。
また、昨年からライセンスを得たゴールドウインに、競泳水着の販売経験がなかったことも、混乱に拍車をかけている。
競泳水着は水を吸わないことによる浮力が重要で、中学や高校の強豪水泳チームは、公式大会シーズンの5~8月は、試合ごとに新品の水着を使う。関係者によると、今年はチーム発注の水着がスピード社製品に集中しており、生産が追いつかないうえ、ゴールドウイン側での注文ミスや発注ミスで、大会直前の納期に間に合わないケースが続出しているという。ゴールドウインは「言い訳になるが、昨年6月から始めたばかりでまだ作業に不慣れな部分もある」と認める。
全国から年間約1000件のチーム注文を受けるヤマナミでも、既に10件ほどの納品が間に合わず、営業担当者が別メーカーの水着を持って謝罪に回っている。同店は「小規模な店では、納品遅れは命取りになる。日本代表でもない限り、スピード社と他社の製品に大きな差はないのだが……」と今回の騒動にうんざりした表情だ。【稲生陽】
毎日新聞 2008年6月18日 地方版