6月13日のNHKテレビ番組『地域発!どうする日本』「止まらない少子化〜地域を支えるには〜」(*1)で、特に地方での出産・育児をサポートする環境が劣化している問題が取り上げられた。紹介されたのは次のような事例である。 (1)農村部のある自治体。これまで自宅近くにあった保育所が統廃合され、送迎には片道30分以上が必要となる。夫は長距離トラックの運転手で常時不在で、妻は生活のため地域に進出した企業でパート勤務をしている。合計で毎日2時間以上の送迎が必要となり、パートを辞めざるをえない。進出企業に同じ事情の女性が多数勤めており、退職者が続けば操業不能の企業も出る可能性があり、ますます地元経済が沈下する。 (2)北海道のある市。出産を控えた女性が予定日より前に破水・陣痛が始まった。地域に分娩のできる施設がないため、1時間30分も夫の運転する自動車で緊急に移動しなければならなかった。 番組では、出産・育児のための社会環境が整っていない現実と、それに対するいくつかの自治体の取り組みが紹介された。これは一方で重要な情報である。だが、より本質的な問題として、公的サービスの貧困をモータリゼーションで一時しのぎしてきた日本の社会が、いよいよ破綻に直面しつつあると考えるべきだろう。 国交省やその系列の学者が高速道路の必要性を主張する根拠の一つに「医療施設へのアクセスを良くする」がある。しかし、これから整備される高速道路は交通量の少ない地域であり、もともとこのような地域では渋滞がほとんどみられない。高速道路を作って短縮できる時間は「インターとインターの間」だけであり、「自宅から目的地まで」のトータル時間が速度に応じて短縮できるわけではない。 前述の北海道の事例で、ネット上ではあるが周辺の状況を調べてみると、もともと一般道で1時間30分のところを、仮に高速道路があったからといって、実質的な時間短縮は10分か20分程度であろう。道路が足りないのではなく、分娩施設が足りないのである。紹介された事例では幸いにも出産は正常にできたので良かったが、もし何か異常がありそのまま遠方の施設に収容されてしまったら、家族が通うにも大変な困難が生じることになる。 人口の希薄な地域では、人々が分散して住んでいる。自宅からインターまで遠い人の比率が大きく、インターまでアクセスする一般道の所要時間は同じだから利用のメリットは乏しい。緊急時には通行料金を惜しむ気持ちはないだろうが、通常時はわざわざ料金を払って高速道路を使う必要性もないから、ますますこうした地域の高速道路は使われなくなる。 そもそも、高速道路を飛ばしてゆけばいいという問題ではないだろう。そのような異常時に焦って自動車を運転すること自体が、ことによると第3者も巻き込んだ重大事故の要因にもなる。しかも、暮らしに必要な移動をますます自動車に依存しなければならなくなると、ただでさえ収入の機会の乏しい地方都市の人々に対して、昨今の燃料価格の高騰がますます負担となる。 子どもが少数しかいない保育所を運営するのは「非効率」だろうか。債務を膨らませながら不採算の高速道路の建設を続行するよりは、住民のQOL(生活の質)を向上させるのによほど効果的である。これは、出産・育児に限らず、すべての公的サービスについて同じことである。 いま、住民のQOLやCS(満足度)の側から、すべての税源・財源の再構成が求められている。統廃合すべきなのは保育所ではなく、政策の方だ。 関連記事:「市役所への遠い道〜平成の大合併」 (*1)NHK総合テレビ2008年6月13日 19:30〜20:45(首都圏) |
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2位マスコミの歪曲報道を...(194p)
3位秋葉原通り魔事件:親...(173p)
4位ぺ・ヨンジュン来日会...(124p)
5位橋下知事へ「府職員も...(99p)
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10位市民が主導、運動団体...(47p)
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