株価は少し持ち直してきたが、企業業績の先行きはむしろきびしさを増している。大きな要因は原油や資源の価格上昇を転嫁し難いことにある。突破口となる輸出も米欧向けから新興国へのシフトと、戦略的な転換が求められている。
これに対処すべく設備投資の意欲は底堅く、学卒の採用も増えている。米欧諸国の企業と比べると日本は省エネが進んでいるほか、過剰な設備や借り入れ、人員が少ないという「若さ」もあり、対応力は相対的に強い。しかし、その強みをどう生かすかにおいては危ういものがある。
その第一は企業の「人づくり」における変革である。例えば、製造会社の心臓部とも言える設備部門でさえ、まだ3割もが非正社員という大手企業もある。生産性を上げ、新しい分野や市場を開拓しようとするなら、目的を共有して個性を発揮できる「場づくり」が鍵である。コスト管理も大切だが、顧客や取引先、また下請け先の実態を共感をもってとらえる感性や協同力、また創造的な開発など質をどう高めるか、その縁をどうつくるかなどがより重要だろう。
いま一つは、中長期的にもまだ成長力を残している日本の企業力を世界のためにどう役立て、成果をどう国民に還元させるかについて、国としての定見や政策が乏しいことである。すぐれた要素やエネルギーも、それを収斂(しゅうれん)してゆく目標のある無しで具現力はまるで違う。
日本が得手とする環境保全技術や自然環境を大切にする精神風土を生かして、世界に役立つビジョンを立て、一貫した政策に結びつけることが今ほど必要な時はない。それが政・財界を通じて共通の認識になることが切に待たれている。(瞬)