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【主張】豪首相提案 価値を軸に連携の拡大を
アジア太平洋には多様な国家、民族、宗教、文化がひしめき、中国、インドの台頭など経済、安全保障面の変化もめまぐるしい。先週、初来日して日豪首脳会談に臨んだオーストラリアのラッド首相が「2020年までに、アジア太平洋共同体を創設したい」との提案を表明した。
「アジア太平洋共同体」とは耳慣れない構想だが、ラッド首相によれば「日米豪に加えて、中国、台湾、インド、インドネシアなど地域主要国が政治、経済、安全保障などで包括的な対話と協力をする組織が必要だ」という。アジア太平洋経済協力会議(APEC)、東南アジア諸国連合(ASEAN)など既存の地域機構は数多いが、政治・安全保障協力などの分野で主要国を網羅した枠組みにはまだ程遠いのが実情だ。
最近は東アジア・サミットもあるものの、これには米国が参加していない。中国など一部の国々には米国の存在をアジアから徐々に排除したい狙いもうかがえる。
日豪は互いに米国と同盟関係を結び、民主主義の価値を共有している。昨年は外務・防衛閣僚による安保協議(2プラス2)を初めて開催した。日米豪3カ国の戦略対話も軌道に乗りつつある。
こうした流れをさらに生かしたい。アジア太平洋の平和と安全、繁栄を支える秩序づくりは今後も開かれた民主主義と自由、人権、市場経済などを柱にすべきだ。台湾などの声を反映させる工夫とともに、日米豪の協力はこれからも欠かせない要素となる。
ラッド氏は昨年末、11年ぶりの政権交代で首相に就任した。日米豪の連携を重視したハワード前政権と比べ、「中国重視」路線への外交シフトを心配する声もあったが、新提案が日米豪の連携を軸にした上で多国間の安保協力を進めるという構想ならば、十分に検討に値する。福田康夫首相の「日米同盟とアジア外交の共鳴」とかみ合う部分もありそうだ。
日豪は経済、通商、エネルギー分野でも重要なパートナーだ。ラッド首相が被爆地・広島を訪ねて核廃絶へ向けた提案を行い、地球温暖化対策でもさらなる協力を約束したことは歓迎できる。
アジア太平洋には地球人口の約半分が住み、世界のGDP(国内総生産)の6割を占める。価値を軸とした協調をこの地域に広げるために、日米豪の連携と構想力を活用していくことが大切だ。