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NIKKEI NET

社説1 敵対的買収と防衛、双方の規律高めよ(6/18)

 企業の敵対的買収と防衛策を巡る議論が活発になってきた。上場企業で既に防衛策を導入したか、今月の株主総会で承認を求める会社は500社を超える。一方、欧米の有力機関投資家は日本企業の防衛策を厳しく批判している。

 M&A(合併・買収)の大半は友好的な交渉の末に成立するが、ときに買収者と現経営陣が対立する。こうした敵対的買収は経営者の交代を通じて企業の生産性を高め、産業再編を促して経済を活性化させる可能性を秘めている。

 だが会社や市場を食い物にする買収者が現れる恐れもある。敵対的買収の効用を生かすには、買収側と防衛側がそれぞれ守るべき規律を確立することが欠かせない。必要なら法制度も整備すべきだろう。

 まず防衛側の課題を考えたい。全上場企業に占める導入企業の割合は1割を超えたが、米国の4割弱に比べれば多すぎるとはいえない。だが日本企業は、経営者を監督する社外取締役が米国企業より大幅に少ない。このため株主から「経営者が保身のために防衛策を利用するのではないか」と疑われやすい。社外取締役を増やすか、株主総会で防衛策の承認を求めるなど、保身目的ではないことを示す姿勢が重要になる。

 防衛策の主眼は買収者の株式取得を一時止めさせ、現経営陣と買収者のどちらを支持するか、他の株主に判断するための情報を提供することにある。経営者が自社の事業計画を明示せず、買収者との交渉にもまともに応じないようでは一般株主にも見放されるだろう。

 買収側の規律も重要になる。大株主でもある買収者の言動は、その会社の経営や株価に影響を与えるためだ。思惑で株価をつり上げるような行為は市場を混乱させる。

 米国では州ごとの会社法で敵対的買収に一定の規制をしている。例えば買収者が取締役会の承認を得ずに一定の株式を集めた場合、数年間は合併を制限するといった規定がある。また英国では買収者がTOB(株式公開買い付け)で30%以上の株式を取得する場合、応募株をすべて買い付けることを義務づけている。日本は3分の2以上だ。

 日本には米英のように買収者を規制するルールが少ない。買収者の行動を予測しづらいことが経営者の不安をあおり、過剰な防衛策や株式の持ち合いに走らせている面もあるのではないか。外国の制度をつまみ食いしても機能しないが、先例として参考にしながら日本に適したルールづくりの議論を深めるべきだ。

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