混乱だけ、というわけでもなかった。衆参「ねじれ」下の攻防だった通常国会は、参院での福田康夫首相への問責決議可決に伴う野党の審議拒否という不正常な状態のまま、21日に閉幕する。道路財源をめぐり2度にわたる衆院での再可決や、日銀正副総裁人事で繰り返された不同意など政治の行き詰まりを印象づけた国会だった。一方で、公務員制度改革に代表されるように、「ねじれ」が政策の新たな展開を可能とする効用もあった。
かねて私たちが主張しているように、首相は早期に衆院を解散し、民意を問うべきだ。ただ、選挙が行われても「ねじれ」は当面、続く可能性がある。国民本位で歩み寄れる点を探り、停滞を避けることが政治の成熟だ。今国会をその足がかりとしてほしい。
1月の召集当時、政界にはまだ、自民、民主両党による大連立構想の再燃を予測する見方があった。しかし「道路」攻防や、財務省OBが民主に徹底排除された日銀人事を通じ、融和ムードは消えた。最終的には史上初の首相問責決議が可決、次期国会の展望も開けぬままの幕切れである。
しかし、「やはり『ねじれ』ではだめだ」と言い切れるだろうか。今国会の政策決定過程では民主党の追及が与党に影響を与えた。道路財源問題は「マッサージチェア」など公費無駄遣いの暴露が世論の共感を呼び、首相はガソリン税の暫定税率復活と引き換えに一般財源化を表明した。日銀総裁人事は混乱したが、財務省OBではない白川方明氏の起用に落ち着いた。
縦割り行政の是正を目指す公務員制度改革では、与党と民主党が土壇場で法案修正で歩み寄った。今国会成立が困難視されたが、実績を上げたい首相と「改革つぶし」の汚名を避けたい民主党の思惑が一致したのだ。アスベスト被害者の救済枠を広げる法律など、数々の議員立法でも与野党は成果を上げた。
毎日新聞の世論調査では、今国会で民主党の対決路線を「評価する」人は47%で「評価しない」43%を上回った。ねじれ国会の追及がなければ道路整備計画も官僚の思い通り進んだ。そんな様子を国民は肌で感じ取っているのだろう。
ただ、あくまで論戦に取り組んだからこその一定の評価だ。次期国会まで審議拒否を持ち越せば世論の失望が一気に広がることを民主党は肝に銘じなければならない。
その意味で、首相と小沢一郎代表による今国会の党首討論が1回きりで終わるのは、極めて不本意だ。肝心の政策論争をないがしろにしたと言われても仕方ない。それほど討論に及び腰ならば、公明党や他の野党党首も参加できる制度に変更するよう、他党も自・民両党に働きかけを強めてはどうか。両党は「2大政党化」にあぐらをかいてはならない。
毎日新聞 2008年6月18日 東京朝刊