大阪市で開かれた主要国(G8)財務相会合は、原油や食料の価格高騰を安定成長への「重大な試練」と位置付け、世界的なインフレ圧力が高まることに強い危機感を示した声明を採択し、閉幕した。
米サブプライム住宅ローン問題を受けた金融安定化策で合意した四月の先進七カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)当時に比べ、原油や食料高騰問題も加わり、世界経済は一段と深刻な局面になっているとの認識を示したといえよう。
声明では、世界経済を脅かしている原油価格高騰の原因について「金融的要因」も作用しているとの難解な表現で、投機マネーの影響力を認めた。
その上で「商品先物市場を検証し、必要に応じ適切な措置を講じるよう求める」として、原油市場に流入する投機資金への監視強化を打ち出した。国際通貨基金(IMF)と国際エネルギー機関(IEA)に実需・金融両面の要因を分析して報告するよう要請する。
産油国に増産と投資拡大を促し、消費国は省エネに取り組み、在庫情報などを開示し透明性を図ることも明記した。
食料問題では、輸出規制をやめさせ、食料を原料としないバイオ燃料の開発を優先することを盛り込んだ。低所得国への緊急援助や農業生産強化への支援が重要とした。
今回の財務相会合の焦点は、原油と食料価格の高騰がもたらす世界的なインフレ懸念への対応だったが、経済安定へ向けての有効な処方せんは描けなかった。声明では景気停滞とインフレの同時進行が心配される現状について、「われわれの政策選択をより複雑にする状況」と、協調が難しくなっている現状を率直に認めただけだ。「各国は経済の安定と成長を確保するため、個別あるいは共同で適切な行動を取る」としたが、具体策は一枚岩になりそうにない。
インフレ抑制には金融引き締めが有効な政策だが、日米欧の金融政策は協調が困難になっている。欧州では、来月にも欧州中央銀行が利上げする意向であるのに対して、米国は住宅問題など景気の先行き不安から早期利上げは難しい状況だ。
日本も四―六月期の実質成長率がマイナスに転じるとの観測が広がる。日銀は政策金利据え置きを決めたばかりで、利上げには慎重な姿勢を示す。
今回の財務相会合で各国が危機感を共有した意義は大きい。インフレに火が付けば世界経済へのダメージは計り知れない。インフレへの危機感を政策協調に生かさねばならない。
日本人宇宙飛行士の星出彰彦さんら七人が搭乗した米スペースシャトル「ディスカバリー」が、約十四日間の飛行を終えて無事に帰還した。
初飛行の星出さんは、日本の実験棟「きぼう」の中心施設となる船内実験室を国際宇宙ステーションに取り付ける重要な任務を果たした。ロボットアームを使った高度な技術が要求されたが、見事にこなした。快挙をたたえたい。
今回の飛行は大半の作業がきぼうの建設関連だった。帰還した星出さんは会見で「乗員が積極的に手伝ってくれ、それほど難しくなかった」と述べた。謙遜(けんそん)もあるだろうが、優れたチームワークの下で自分の役割を完ぺきに遂行したとされる。今は重圧から解放され、充実感に浸っているに違いない。
きぼうの建設は三回に分けて行われる。第二便となった今回は、船内実験室の取り付けに加え、三月に土井隆雄さんらが仮設置した保管室を本来の場所に移設した。来春以降、第三便として打ち上げられる船外実験装置をセットすれば完成する。
船内実験室には通信システムが組み込まれている。きぼうの完成を待たず、日本国内からの遠隔操作で今年八月にも細胞培養分野などで実験が始まる。
日本の宇宙利用は新たな局面を迎えるが、前途洋々とは言い難い。宇宙ステーションをめぐっては、米国の関連予算が二〇一五年までしか確保されておらず、その先の見通しは不透明だ。日本でも、きぼうの運用経費が年間四百億円もかかるため、長期運用には賛否がある。
きぼうの機能を生かした有益な成果が求められる段階に入った。それを踏まえ、費用対効果を中心に幅広い観点から長期運用の是非を本格的に議論する必要があろう。
(2008年6月17日掲載)