February 24, 2008
東アジア選手権を終えて 岡田JAPANを個のディティールから斬ってみよう
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「人財」とコンセプトの乖離
すなわち、「オシム化」というスタイル実現のために、高い技量を持つ選手の代わりに千葉系の選手を多用するなど、チームとしての限界値を自ら下げてしまっていた。それが、アジアカップ4位敗退の決定的素因の1つとなったわけである。
一方、岡田氏になってからの試合を見るに、監督が標榜するスタイルと日本の「人財」との相性は相対的に良いように思える。おそらくは岡田氏も、我々が感じているような違和感を覚えていたのではないか。
しかし、現状ではオシム時代のメンバーを承継しているため、今度は選出されたメンバーと標榜するサッカーが食い違っているように見え、同様に限界を感じる。中央はシンプルにし、サイドに量的過剰を作り出すのではなく、3センター中心に連続的なトライアングルの形成をなし、ショートパス中心のサッカーをしたいのであれば、もう少しファーストタッチが優れ、パスフィーリングが豊かで、スモールフィールドで力を発揮できる技術的水準の高い選手が必要となる。メンバーの入替えは必至であろう。
もっとも、離脱者が相次いだ東アジア選手権は、食い違い以前に使えるメンバーが不足していた。これまで攻撃の核であった高原、中村俊、駒野も不在であった。ゆえに、チームとしての真価・戦術的真価を見るのは、アジアカップのようにベストなメンバーを揃えられた時まで待つことにしよう。
そこで、現状で気になるディティールを考察してみることにする。
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「ポリバレントCB」について
韓国戦の失点シーンを見て、既視感を覚えたのは私だけではないはず。オシム時代から、同じようなパターンのクロスからの失点が非常に目立っている。サウジ戦の阿部、韓国戦の今野のように、本職ではないCBが対応に遅れ、相手FWに出し抜かれてクロスから失点するというパターンだ(中盤の守備の問題も深く関わっているが、その点は捨象して考える)。確かに、相手がゴールに背を向けている状況など、余裕を持って対応しているうちは「ポリバレントCB」の問題は表面化しない。彼らはマークに強くボール奪取能力も高く、両足を使えるから、CBとしての起用も合理性があるように一見感じられる。
しかし、ゴール前でのクロスの対応というのは、ほぼDFの専属事項といえ、もともとMFだった選手には経験の蓄積がない。独特の駆け引き、急激な角度の変化、アンティシぺーション(予測)、敵との距離感、ポジショニングなど、付け焼き刃ではどうにもならない難しさがある。加えて、彼らにはタッパがないから、ポジショニングで遅れを取るとその時点で厳しい。
もし、ゾーンディフェンスを採用し、ボールのラインに応じて各ラインが等間隔性を維持しながらポジション移動を繰り返す組織的な守備が整備されていれば、穴は空けにくくなるのだが、オシム氏および岡田氏からその気配は見えないし、宮本恒靖のように、主体的に最終ラインをコントロールしていく豊富な戦術的知識やリーダーシップを持つ選手もいない。
それに加え、効果的な攻撃展開が「ポリバレントCB」から生まれているシーンは稀であり、現状ではあまりメリットを感じないというのが正直なところだ。
チームというのは、適材適所に選手を配置することで個々が長所を出して相互に補い合い、全体として最大限の力を発揮できる仕組みになっている。CBの起用法は改善の余地があろう。
個人的には、三浦淳宏、柳想鐵(ユ・サンチョル)などが好みだ。簡単にボールを失わない技術の高さ、的確な状況解析力、肉体的強さを有するバランスの良い選手が多い。
左利きの選手の必要性
攻撃においては、予測不可能性・意外性という要素が非常に重要となる。ひたすらサイド攻撃や狭い攻撃を繰り返していても相手は慣れてしまうし、対応策を立てやすくなる。そして、敵にとって「予測不可能」な攻撃を繰り出すためには、攻撃の引き出しを多く持っていなければならない。いくつかの攻撃の引き出しを予め持っていることで、それらを手を変え品を変え提示し、敵に恒常的にプレッシャーをかけることができる。
この点は、やはりチームとして練習を積んで、覚え、選択肢を増やしていくしかないが、これに間接的に関わるものとして、左利きの選手の有用性を挙げておきたい。ボールの持ち方が変われば、空間的視野が変わり、それによりボールの循環経路もまた変わってくる。それが攻撃に多様性と拡がりを生み出すことになるし、何より左利きの選手は創造力に優れる選手が多い。
東アジア選手権直前の親善試合を見ていて、ここで左利きの選手がいれば、と思ったことが何回もあった。画面を見ていると何と全員が右利きであったのだ。展開が狭い要因の1つであろうし、日本の伝来的長所である左サイドの攻撃の良さが減殺されている。
中村俊輔だけではなく、玉田、柏木、アレックス、相馬崇、本田、中田浩らを適度に組み込めば、面白くなる。幸いなことに、前監督時代は重用されたが代表に選ばれる技術的資格を欠くように見える選手に対し、岡田氏は見切りをつけはじめてるように見え、そこの枠が徐々に空くことになるだろうから、期待できよう。
誰が監督でも、長所をさらに伸ばしていくこと
個人的には中村が最も際立っていた。視野が広く、技術が非常に高い。マーカーのグレラは早い時間で退場しても不思議でないほどファウルを頻発したが、ゲームをコントロールした。
中田英はこのレベルでは、決してフィジカルが強いタイプでないのにピッチ上で常に戦っていた。」
by アルセーヌ・ヴェンゲル
いろいろ考えを巡らせてみると、肉体派オーガナイザー(組み立て屋)たる中田英を失ったことは痛いかもしれない。2006年W杯で優勝したイタリアのように、中盤の下がり目(ピルロ)と上がり目(トッティ)に2人の好パサーがいると前にボールを運びやすくなるが、現状でボランチというポジションに耐えうる強さのある組み立て屋が見あたらない。
しかし、中田英は選手としての最後のピークを2005年のコンフェデ杯で迎えていたように見え、仮に引退しなかったとしてもいつまでも頼ることはできなかったし、従来のタレントに加え、本田、柏木など、面白い「人財」はまだまだ多いし、小笠原も鹿島で健在だ。彼らをうまく組み合わせれば、精緻な中盤の構成力を武器に戦えるチームを作ることは可能である。
予選が迫っているからこういうことは言いにくいのだが、チーム発足後たった1ヶ月である。もう少し長い目で見守ろうではないか。
個人的には、山瀬のプレーをコンスタントに見られるだけでも、観戦モチベーションは上昇中である。
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January 04, 2008
天皇杯決勝 鹿島アントラーズが伝えるサッカーの本質
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今年の天皇杯決勝は、昨年のJ1において1位の鹿島と15位の広島の対戦だった。結果は2−0で鹿島の勝利。広島の佐藤寿人、駒野らは局面の1対1の勝負で互角に張り合っていたものの、システムの権衡、戦術の多様性、勝負の駆け引きや抜け目なさ、サイドチェンジのボールの質など、様々な点で両チームの差は歴然としていた。
時代を超えた正統 鹿島の強さ
では、鹿島の強さの秘訣とは何か。それは、「ファミリー」たるチームの精神的連帯を土台としつつ、時代性や、「○○サッカー」などという一過性のブームに左右されない、正統を貫いているところにあると考える。そこに、若手の成長等による戦力の充実が相俟って、二冠という素晴らしい成果に結実した。まず、汎用性の高いオーソドックスな4−4−2(4−2−2−2)が骨格となる。そこに、安定した技術と判断力を持つ個人を、彼らが最も力を出せるように、すなわち「適材適所」に配置する。それゆえにボロが出にくい。
極端に走ることを強調した不自然なサッカーでもなく、あるいは技術や才覚をひけらかすようなスカしたサッカーでもない。各自が自分の持ち場を守り、自信と責任感を持ってプレーする。適材適所に配置された選手が、自らのポジションに求められる仕事を安定した技術で外連味(けれんみ)なくこなしていく。個々が攻守ともに1対1の勝負で負けないという気持ちの強さを押し出し、ボールを奪い、ボールをキープし、ボールを前に進め、大事なところで創造性を発揮する。そういった1つ1つのプレーの質的差異の蓄積が、チーム力の差異となって現れる。
そして、小笠原、本山、野沢など技術のある選手が集まっているからこそ、速いテンポで正確にパスをつないでいくことができる。準決勝から、しびれるようなパス・スピードで、味方の足につけるパスが連続する光景を何度か見せてもらった。ジーコやレオナルドはいないが、全員の技術レベルを平均すれば歴代でも最高レベルにあろう。
そもそも、ゆっくりやってできないことは、スピードを上げたらさらにできなくなる。技術が高ければ高いほどハイスピードのボール処理にも、劣悪なピッチコンディションにも対応できる。昨年のアジアカップに見たように、自らの技術を制御できる限度を超えたスピードで、いっぱいいっぱいのプレーをしている選手は、必然的帰結として結局最後のプレーでミスをしてしまうわけだ。
日本が失いつつあるものを体現する小笠原
もちろん、小笠原満男の加入も大きい。視野が広くゲームを動かすことができ、タッチ、コントロール、キックといった一連の技術も水準が高く、精神的にも落ち着いている。「オシム路線継続」という使命を背負い、予選を間近に控える現段階での招集は難しいかもしれないが、本来ならば当然、日本代表候補に名を連ねるべき選手である。どのチームにも、こうした核になる中心選手は必要だ。思うに、名波、中田英、小野、中村といった、チームの心臓たる中盤のオーガナイザーが日本最大の武器として君臨していた時代が、最も日本代表が強い時代だった。イタリアから糧を持ち帰った名波が中村と組んだ2000年アジアカップ、最後のピークを迎えた中田英が中村と組んだ2005年コンフェデレーションズ・カップなど。イタリア帰りの小笠原に機会を与えてみても面白いのではないか。
小笠原はイタリアに行ってから、とりわけ1対1でのボール奪取能力、守備時のポジショニングが明らかに向上した。それが現在彼の主要な長所にすらなっている。「またボールを取ったのは小笠原か」と試合中に思った人も多いことだろう。「日本化」も結構だが、鎖国化のような政策を推し進めていては、日本は世界からどんどん取り残されるだけだ。カズ、中田英、中村のように、10代のうちから積極的に海外に挑戦する野心を持ち、高い意識で日々の鍛錬に励む選手が増えること大事であり、結局彼らのような選手が日本サッカーのレベルを引き上げていくのである。
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浦和のワシントンが教えてくれたように、「得点力」とは、(1)得点をするための"技術"の集積と、(2)得点への強い"執念"の発露により形作られる。総体的に技術が高くても、(1)得点をするための(得点に直結する)技術が低く、(2)得点への執念が薄弱な選手は、FWとしては生き残りにくくなっているのではないか。
4−4−2をフルに生かしたサイドチェンジの多用
さて、鹿島アントラーズの戦術面の具体的特徴を1つ挙げるとすれば、「サイドチェンジの多用」が筆頭に来るのではなかろうか。攻撃的SBを置いたブラジル流の4−4−2の利点を生かし、ポゼッションに入れば敵のウイークサイド攻略を常に意識して頻繁に中盤からサイドを変え、そこからドリブルや、ワンツー、壁パス、オーバーラップといったコンビネーションで敵の守備網に揺さぶりをかける。片方のサイドでパスを回している際、絶妙の高さで逆サイドのSBがポジショニングを取り、サイドチェンジに備える。そこにボールを蹴る技術の高い小笠原などから正確なロングパスが通る。3−4−1−2の広島に対し、SBがフリーになりやすい利点を最大限生かしてサイドチェンジを相当使っていた。
このSBの位置取りが高すぎると敵のサイドハーフに近すぎてパスを送れないし、低すぎるとサイドを変えてから有効な攻撃をスタートできない。両SBの位置取りは攻撃のビルドアップの局面において一般的に重要項目の1つであり、SBをやっている人は敵との距離、味方CBの距離・角度を考えながら微調整することが大事である。
また、内田、新井場とも、守備よりは攻撃に秀でたアウトサイドの選手であり、サイドチェンジのパスを受けてから攻撃が行き詰まりにくい。サイドチェンジのパスを受けて1点目を決めた内田のファーストタッチの良さは、試合を通して印象に残っている。逆に、ここに守備専業的な選手が置かれると、守備は安定するが攻撃で有効な判断・プレーができず、スムーズに次の攻撃に遷移しにくくなる。ポゼッションが不安定化し、試合の主導権争いにも累を及ぼしかねない。
一方、広島のような3−4−1−2の場合は、サイド・プレーヤーが高めの位置で孤立しやすく、中盤からウイークサイドへロングパスを送って、一発でサイドを変えるのは相対的に難しい。SBよりもWBは相対的に高い位置を取るが、その位置ではサイドチェンジをしても敵のMFまたはSBにケアされる確率が高いから、それを忌避するため結局3CB間の無駄なパス交換が増える。その間に敵の陣形が整う。しょうがないので結局WBは下がってパスを受けるのだが、先細りの陣形のためトップ下やFWが外に流れないと形が作れない。この日は機動力のあるトップ下柏木がいないから、なかなか安心して出せるところがない。で、結局CBにボールが戻る。そして焦れたCBが、通る蓋然性が低い縦パスを出しては鹿島の守備陣にカットされる。前半の広島の悪循環の一因は、こうした構造的問題にもあったようにも思う。
また、オーバーラップはペネトレーション(崩し)の手段として有効なものであるが、3−4−1−2の場合はサイドがWB1枚となる事情ゆえ、サイドでオーバーラップを用いるとすれば「追い越し役」はCBとなることが多くなろう。しかし、本質的に守備者であるCBがオーバーラップしても実効性は低くなる。一方4−4−2の場合は、「追い越し役」はサイドの職人たるSBが主に担当するから、オーバーラップ後のクロス、ラストパスなど、攻撃の実効性は高くなるし迫力がある。また、コーチ的には図で示すように(後ほど追加)いろいろと攻撃パターンが作りやすいのである。
もっとも、常に3−4−1−2が4−4−2より不利だと言っているわけではない。この日の鹿島と広島については、こうしたシステム的権衡という視点からも、鹿島の方が上回っていたということである。
個の強靱さが要求される国際試合 ACLで勝てるか
以上、鹿島の美点をあげつらってきたわけだが、現時点ではACLを勝ち抜けるかどうかは不明である。率直に言って、ACLで優勝した浦和レッズと比べると個の「強さ」・「強靱さ」で劣っており、国際試合を勝ち抜くにはそれが最重要項目とも思えるがゆえに、微妙なところではある。しかし、得点に素直に喜びを爆発させ、表彰台に立つ選手をウルウルした目で見つめ、サッカーの楽しさ・喜びを身を持って伝えてくれるオリベイラ監督のような人を見ていると、鹿島サポーターでなくても、また最高の結果が出たらいいなと思ってしまう元日なのであった。
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December 15, 2007
浦和レッズ対ACミラン 「個の強さ」をベースにした浦和だからこそあれだけ対抗できた
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浦和対ACミランの試合は例によってワンセグ視聴。人それぞれの見方があろうが、これまで情報を遮断していた私に浦和の戦いぶりはどう映ったか。率直な感想としては、日本でやれる利点が大きいとはいえ、浦和が「私の事前の予想よりも」ずっと高いレベルでミランに対抗できていたことに正直驚いた。そして中盤での叩き合いを見ていても、「個の強さ」をベースにした浦和だからこそ、あれだけミランに対抗できたのだと思うし、浦和には、オジェック続投とかいう意味ではなくて、現在の路線を継承発展させてほしいものである。
さらなるスキル向上と国際経験が求められる
守備の局面というのは、抽象的にいって複数人で敵のボール保持者に圧力をかけていくことになる。それに対して攻撃の局面においては、逆にボール保持者となった者は複数人の物理的・心理的圧力を敵から受ける立場になるし、より強い主体性が求められる。
すなわち、特に中盤より後ろの選手にとっては、守備の局面よりも攻撃の局面の方が、プレッシャーを強く感じ、心理的萎縮を生みやすい局面なのである。特に相手が格上ともなると試合前から心身ともにガチガチになっている。相手の物理的圧力の強度を差し引いてもミスが多くなるのはこういった理由によると思う。
では、どうすればこの問題は解決できるか。個が弱いからどうたらこうたらと、小手先の「逃げ」の解決を考えることは可能だが、根本的な解決にはならない。やはり(1)オン・ザ・ボールのスキルをさらに向上させること、(2)国際経験を積むなどして物理的・心理的プレッシャーに慣れること、この2つ以外に根本的解決法はない。具体的に考えてみよう。
(1)としては、まずは全般的なオン・ザ・ボールのスキルを上げていくことが根本的なことだろう。オン・ザ・ボールのスキルとは、要するにボールを持ったときの技術。トラップ、コントロール、敵のブロック、パスなどすべてを包含する。
まず、サッカーにおいてボールコントロールはすべての基礎になる。ボールコントロールが乱れた場合、必ずパスの強さ・コース・角度も乱れる。そうするとパスの受け手は敵のプレッシャーを受け、潰されやすくなる。ゆえに、質の高いファーストタッチ、素早いボールの処理、味方の立場を考えたパスのフィーリングが重要になってくるのである。(パスの名手が揃ってテクニシャンなのはなぜか、考えてみよう)
また、カカやセードルフは、必ずといっていいほどファーストタッチで敵の逆を取って、敵からボールを遠い位置に置き、時間的・空間的余裕を自ら創出していた。一昨年の野洲高校の選手たちはファーストタッチの逆取りの点で非常に工夫があり、鹿実の激しいプレスが出鼻をくじかれる局面が何度もあったことを思い出す。
技術的水準の高さは、「ボールを簡単に失わず、タメを作れるキープ力」、「敵がアプローチに来ても慌てない精神的落ち着き」を生み、一人一人が安定してボールを動かしていくことで、攻撃は漸進的にビルドアップされていく。ミランの選手たちは、浦和の選手に囲まれても非常に落ち着いた様子で、ボールを扱い、キープし、味方にパスを送っていた。そこに世界との差がある。「本調子の」小野伸二がいれば、また話は違ったであろうが。
他には、敵のプレッシャーに動じないために、素早くボールを処理する技術を高めること、すなわち、いわゆる「ハンドリングスピード(ボール処理速度)」を上げることも重要であろう。handleとは「処理する」ことを意味する。
繰り返すが、サッカーにおいてボールコントロールはすべての基礎になる。そして、ゆっくりやってできないことは、速くやったらもっとできなくなる。まずは確固たる技術を身につけることが大事で、その後に通常のスピードから段階的に処理速度を上げていく。最終的には、敵のプレッシャーより早く絵を描き、素早くボールコントロールをし、丁寧にパスを出していけるようにする。
そして、全盛期の中田英が得意としたボールと敵の間にしっかり体を入れてボールを守るスクリーニングの技術など、身体を使う技術、フィジカルの強さもやはり本質的な問題であろう。
(2)としては、やはり普段から激しい物理的・心理的プレッシャーを受けながらプレーする環境に身を置かなければ厳しい。具体的には、海外のクラブチームに移籍し、多くの選手が国際経験を積むことだ。そうすることで、自信を身につけ、ハンドリングスピード、脳の処理速度たる判断速度も上がるだろうし、既述の通り一人一人のボールコントロールの安定がチーム全体の攻撃構築の安定をもたらす。
この点、中田英以外は国内組の選手が多かったトルシエ時代までの日本代表は、欧州で試合をすると攻撃面では本当にすぐボールを失い、ほとんど有効な攻撃ができないことが多かった。2001年のフランス戦、スペイン戦、2002年のノルウェー戦などを思い出していただければよかろう。
それに対し、トルシエ末期からの海外移籍政策もあって多くの選手が欧州クラブに移籍したジーコ時代には、選手たちが日常的に欧州でプレーすることでそういったひ弱さを感じさせなくなっていた。中村、小野、稲本らが力強いポゼッションでチームを牽引した2004年のイングランド戦など、欧州でも強豪相手に動じない戦いができるようになっていた。
最近は、オシムによる国内組中心のチーム構想が、代表選手の国外移籍を躊躇させ、海外移籍の野心をそいだ面があり、その点はオシムの構想には疑問があった。ここに来て、ようやく長谷部、本田圭佑らが海外移籍の希望を強く主張しはじめたのは肯定的に捉えている。
以上、長々述べてみたが、実際プレーしていた選手がもっと簡潔に上記の内容を的確に表現している。これを事前にみていれば、こんなに長い文章を書かなかったのだが・・・。
あとはやっぱりボール・コントロールの差。それからミランは判断が速かった。フィジカルは強かったですね。やれたところもあるし、まだまだというところもある。
ボールを前に進めるという意味では、『相手が来ても取られない』、そこを身につけていかなければ厳しい」
ACミランの蜘蛛の巣のようなオーガナイズ
以前欧州サッカーをよく観ていた頃、視聴の中心はリーガ・エスパニョーラだったため、セリエAやプレミアの試合をたま〜に観ると、 それぞれの国が持つ個性の違いに驚いたものである。そしてCLで異国のリーグ同士の対戦ともなると、ミラン、インテル、ユベントス、ウディネーゼなどイタリアのチームならイタリアのチームに共通する性質(通有性)が、イングランドのチームならイングランドのチームの通有性が際立ち、それがCLを観る1つの楽しみだった。イタリアのチームは、やはり蜘蛛の巣のようなオーガナイズが特徴的。今回のミランも能動的な「ボールの規制のかけ方」はさすがだった。誰かが走り回るのではなく、均等なスペースを受け持って有機的な「網」を形成する。1人がボール保持者にプレッシャーに行けば、蜘蛛の巣のように全員がほぼ等間隔を保ちつつポジションを微調整する。そしてプレッシャーに行った選手は味方が次のボール方向を予測できるようボールに規制をかけ、その先で奪っていく。あたかも蜘蛛の巣に獲物がかかるように、ボールは吸い取られていく。
そして攻撃の局面でもポジショニングが手堅い。 ボールのラインより前に送り込む人数を局面によって制御し(通常5人)、ボールを前に入れるときは必ずビハインドを形成する。これにより、ボールを失った瞬間にディフェンスに入れるため、浦和のカウンターのチャンスに見えても、すぐに潰されることが多かった(それでも浦和は何回か有効かつ素晴らしい攻撃の形を作ったと思う)。
みんなで前に行け〜走れ〜ではなく、全員がお互いのポジションを意識しつつプレーするため、バランスは倒壊せず、無駄に選手が重複することはない。そして、分厚い中盤によってピッチにトライアングルないしダイヤモンドが張り巡らされ、いつでもチェンジサイドを行い、いつでもオープンスペースに上がってくるSBにボールが運べるルートが保持される。
最後は、強引な個人突破からのプルバック(マイナスの折り返し)という形でゴールを決められたけれども、ミランの選手たちが描いた絵通りの攻撃を許すことはあまりなかった。来年の浦和には、今度は攻撃面で、ボールポゼッションの向上など成果を見せてほしい。
最後にボカ・ジュニアーズ
ダイジェストで見られるように、いかにも南米らしいサッカーのエッセンスのようなゴールだった。ラストパスを出した選手に「巧」。パスを通すためにいかにして敵を食いつけるかを考え、少しドリブルで持って2人目が食いついた瞬間に、最高のタイミングでその2人の間を絶妙な距離と角度でノールックパスで通し、2人目が食いついたことで生まれたスペースに走り込んだ選手がゴールにつなげた。
たらい回しのごとく、すぐボールを離しては味方は楽にならないし、スペースも生まれない。抜かなくてもいいからドリブルで敵を2人食いつければ、そこにスペースと数的優位が生まれるのだ。その辺りのアルゼンチンチームの技術の精妙さを解説者には伝えてほしいところである。
以上。出先より走り書き終わり。
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