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2008年05月29日
表に出ない反対の声 裁判員制度 司法関係者の本音
「日本の司法制度史上最大の改革」といわれる裁判員制度の実施まであと1年。マスメディアでも取上げられる機会が増えているが、「一般の市民感覚を裁判に反映できる」と歓迎する論調がほとんどである。
国民から無作為に選ばれた裁判員が審理に参加するこの制度。だが司法関係者の本音を聞くと、その多くが制度そのものに疑問を持っているのが実態だ。
法務省や裁判所などが大々的に宣伝・推進する中、あえて現場の本音を紹介したい。
<写真=大きな看板が掲げられた福岡地裁の玄関>
「心配せんでも、早晩破たんするよ」。数年前、裁判員制度について話を聞くと、ある法務省関係者はこう答えた。この人物は当時、制度を推進する部署にいたにもかかわらず、である。
以来、多くの司法関係者にこの制度について率直な感想を聞いてきた。だがそのほとんどが反対・否定派で、本気でうまくいくと考えている者はいなかった。
プロは必要ないのか
「そもそも裁判所がだらしないからでしょ?なのになんでこっちまでとばっちりを食うのか」。ある検察関係者はこう憤る。
制度導入の理由の1つには、本紙で報じたロス疑惑での一審判決をはじめ、通常では考えられない判決が続いたために「裁判官には常識がない」などと批判が相次いだことがある。
そのためアメリカの陪審員制度のような「一般市民参加型」の裁判形式に改めることで、国民に身近でわかりやすい司法に変える―というのが大義名分だ。
「裁判に“素人”を入れて良くなるなら、われわれプロは必要ないってことになる」。
別の検察関係者はこう不満をぶちまける。
「人権や生命といった非常に重要な事柄に関わる、きわめて責任が重い仕事。だからこそ、厳しい司法試験によって選抜されているはずなのに」。
とはいえ、最近は検察内部でも風向きが変わりつつあるようだ。「本音では反対だったはずの人が『思ったよりいい制度かも』となって。上の人に多いが、まあ、彼らは現場に出ることはないからね(笑)」(前出の検察関係者)。
刑事事件の弁護 受けなければいい
「検事もしょせんは役人。国や役所がやろうとする方針には、最終的に従うでしょうね」。
こう話すのはある弁護士だ。
「ですが、弁護士の9割は制度に反対しているか関心がないか。賛成派は日弁連幹部をはじめとするごく一部の人たちです」。
現在、国選弁護人の登録数が減り続けており、弁護士会でも大きな問題となっている。裁判員制度は殺人、放火など重大な事件にのみ適用されるため
「多くの弁護士が『面倒に巻き込まれたくない』と、刑事事件を敬遠している」(同)のだという。
「どうせ自分は関わらない、だから関心がないという人が多いのです」。
日弁連が制度の旗振り役を務めているため、表立って反対を唱える弁護士は少ない。だが明確に反対する弁護士は口をそろえて「被告の権利を守るという視点が欠落している」と話す。
「そんなバカなことは止めろ」
多くの関係者が疑問視している新制度。それでは一体誰が、なぜ、推進しているのか?
「新制度が始まるという前提でやってきたから、根本的な問題について考えたことがない」(若手弁護士)
「ある年齢層の弁護士は『市民』という言葉に特別な感情を持っている。市民が参加すればとにかく良くなる、と。そんな連中が推進している」(中堅弁護士)
「現場を知らない学者の発想。間違いなく制度は破たんする」(検察関係者)
そもそも、なぜ裁判員制度なのか。この問いを多くの関係者にぶつけてきた。裁判官に問題があるとすれば、それは裁判所の構造、教育・育成システムの問題である。それが新制度で是正されるのか―。
だがこれまで、納得できる回答は得られなかった。
本当に司法が良くなるのか分からないまま走り出そうとしている裁判員制度。一度やると決めたら問題があると分かっていても最後まで止められない―「日本のお役所仕事の典型例」となる可能性は、否定できない。
最後にある法務省関係者の言葉を紹介したい。
「アメリカに研修に行った時、『日本でも陪審員制度のような新制度を導入する』と話すと1人の例外もなく全員が『どうしてそんなバカなことを』と驚いた。『すでに陪審員制度の限界は明らかになっている。それがこちらの常識。今からでも遅くない、止めた方がいい』と」。
* * *
裁判員制度については様々な問題点が指摘されている。市民を拘束することへの反発、裁判のスピード化に伴う弊害、裁判官による誘導の可能性。だがこうした個別の問題を検証するのが本稿の目的ではない。
これらの点については、別の機会にレポートしたい。
★<参照>法相までサイバンインコに 着ぐるみで裁判員制度PR
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