悩める現代人への最良の人生指南書
「道は開ける」を読む
D・カーネギー著、香山晶訳、創元社版より
たえずこの本を開いてほしい。本書こそ、悩みを克服するための座右の手引き書と言ってよい。そして皆さんが試練に直面したとしても、決して興奮したり無思慮な衝動的行動はするな。それをすればたいていは悪い結果に終わる。試練に直面したときは本書を開いて、あなたが線を引いた部分を再読するがいい。それから新しい試みに挑み、それがあなたに劇的な効果をもたらしてくれるのを待とう。(カーネギーの言葉)
第1部 悩みに関する基本事項
第1章 今日一日の枠の中で生きよ
われわれ現代人の生活に対するさも恐ろしいことの一つは、病院のベッドの半数が、累積した過去の重荷や、不安に満ちた未来に押しつぶされた神経症や精神障害に悩む患者達によって、占められているという事実であろう。しかも、彼らが「明日のことを思いわずらうな」というキリストの言葉や、「今日一日の枠のなかで生きよう」というウイリアム・オスラーの言葉に注意さえ向けていたら、彼らの大部分は今日も幸福で実りゆたかな生活を送ることができたはずなのだ。
ある日、ふと読んだ文章によって、私は失意の底から立ち上がり、生きていく勇気を与えられました。その文章中の天の声のような一句に対する感謝の念は、終生、変わらないでしょう。その一句とは「賢者には毎日が新しい人生である」というものです。私はこの句をタイプで打って、自分の車の窓ガラスに貼り付けました。
さいわいなるかな、独りありて
今日をわがものと言いうる人は。
心安らかにこう叫ぶ
明日よ、あらんかぎりの悪をなせ、われ、すでに今日を生きたり
(ホラティウス、ローマの詩人)
これ主の設けたまえる日なり
われはこの日を喜び楽しまん
(聖書、詩篇)
第2章 悩みを解決するための魔術的公式
真の心の平和は、最悪の事柄をそのまま受け入れることによって得られる。
第3章 悩みがもたらす副作用
3分の1の会社重役は、45歳にも達しないうちに、心臓病、消化器系潰瘍、高血圧によって自分の肉体を破壊している。何と高価な出世の代償ではないか。しかも今なお代償を払い続けている。会社で昇進しても、胃潰瘍や心臓病にかかって、はたして成功者と言えるだろうか。全世界を手中に収めたとしても、健康をなくしては元も子もないのではないか。全世界を自分のものにしても、眠るにはベッド一つで十分だし、食事は1日3回でよいのだ。
医師の犯している最大の過失は、心を治療しようとせずに、肉体を治療しようとしていることだ。しかし、心と肉体はひとつのものであり、別々に治療できるはずがない。
フランスの哲学者モンテーニュが故郷の町ボルドーの市長に選ばれたとき、彼は親しい市民にこう告げた。「私は諸君の問題を喜んで我が手に引き受けるつもりだが、肝臓や肺にまで及ぼすつもりはない」
第2部 悩みを分析する基本技術
第4章 悩みの分析と解消法
1、悩んでいる事柄を詳しく書き記す。
2、それについて自分に出来ることを書き記す。
3、どうするかを決断する。
4、その決断をただちに実行する。
第5章 仕事の悩みを半減させる方法
1、問題点は何か。
2、問題の原因は何か。
3、幾通りの解決策があって、それはどんなものか。
4、望ましい解決策はどれか。
第3部 悩みの習慣を早期に絶とう
第6章 心の中から悩みを追い出すには
悩みに対する治療法は、何か建設的な仕事に没頭することだ。
惨めな気持になる秘訣は、自分が幸福であるかどうかについて考える暇を持つことだ。
忙しい状態でいること。悩みを抱えた人間は、絶望感に負けないために、身を粉にして活動していなければならない。
第7章 カブト虫にうち倒されるな
人生は短すぎる。小事にこだわってはいられない。この言葉は私の苦難に満ちた多くの試練に際して、いつも心の支えとなった。私たちはしばしば、忘れてもかまわない小さなことがらのために、自分自身を台無しにする。私たちがこの地上に生きるのは、わずか数十年にすぎない。それなのに、一年もすれば皆から忘れられてしまう不平不満を悩みながら、かけがえのない多くの時間を無駄にする。もう、ごめんだ。私たちの人生を、価値ある活動、感覚、偉大な思想、真実の愛、永久の事業のために捧げよう。とにかく、小事にこだわるには人生はあまりに短すぎる。
私たちはまれに襲ってくる人生の嵐や、雪崩や、雷鳴にはなんとか生き延びて行くが、ただ悩みという小さな虫、指でひねりつぶせるほどの小さな虫によって、心を食い破られていないだろうか。
第8章 多くの悩みを締め出すには
記録を調べてみよう。ししてこう自問するのだ。不安の種となっている事柄が実際おこる確立はいったいいくらくらいだろうか。
第9章 避けられない運命には従え
私たちは長い人生を歩むあいだに、どうにもならない不愉快な立場に立たされることが多い。それはどうしょうもない。選択は私たちの自由である。そういう立場を天命として受け入れ、それに自分を順応させることができるか、あるいは、一生を台無しにしてまでも反抗し、神経衰弱になるかのどちらかである。
ここに私の尊敬する哲学者ウイリアム・ジェームスの名言がある。「ものごとをあるがままの姿で受け入れよ。起こったことを受け入れることが不幸な結果を克服する第一歩である」
私たちはだれもが災難や悲劇に耐えることができ、勝利を得ることができる。そんなことは不可能だと思えるかも知れないが、私たちは驚くほど強靱な潜在能力を秘めており、私たちがそれを用いて初めてその恩恵に浴せるであろう。私たちは想像以上に強靱なのだ。
盲目であることは悲惨ではない。盲目状態に耐えられないことが悲惨なのだ。(ジョン・ミルトン)
いざ立ち向かわん、夜に、嵐に、ひもじさに
嘲笑、厄災、妨害に
樹木や動物達のごとく
(ウォルト・ホイットマン)
初期の頃のタイヤ製造業者はタイヤを作る際に道路からの衝撃に耐えうるものを作ろうとした。そのタイヤはぼろぼろに裂けてしまった。次ぎに彼らは道路からの衝撃を吸収してしまうタイヤを作った。このタイヤはよく耐えた。私たちも人生の難路につきものの衝撃や動揺を吸収する方法を学びさえすれば、より長く、より快適なドライブを楽しむことができるだろう。
第10章 悩みに歯止めを設けよう
実のところ私は、価値に対する正しい判断力こそ真の心の平和をもたらす鍵であると信じている。そして私たちがいわば個人の金本位制、人生という尺度で測る際に絶対的な価値基準なるものを確立しさえすれば、私たちの悩みを半減させることができると信じている。
悩みに対して「ストップ・ロス・オーダー」という歯止めを用いよう。一つの問題に対してどの程度まで気にかけるかを決めて、その限度を超えたら忘れてしまうこと。
第11章 オガクズを挽こうとするな
オガクズは挽いたカスなのです。過去についても、これと同じことが言えましょう。すでに終わったことについてクヨクヨ悩むのは、ちょうどオガクズを挽こうとしているだけなのです。
第4部 平和と幸福をもたらす精神状態を養う七つの方法
第12章 生活を転換させる指針
「われわれの人生とは、われわれの思考が作り上げるものに他ならない」
(マルクス・アウレリウス)
私は35年にわたって成人クラスで教鞭をとった結果として、自分の考え方を変えさえすれば、男女を問わず、悩みも恐怖も、どんな病気でも追い払うことができ、生活を刷新できることを知っている。
私が痛感していることは、私たちが日常生活で得られる心の安らぎや喜びは、自分の居場所や持ち物や、身分によって左右されるのではなく、気持の持ちよう一つで決まるということだ。
心こそ己の居場所 そのうちに
地獄に天国を 天国に地獄を作る
(ジョン・ミルトン)
「政治的な勝利、地代の値上げ、病気の全快、長い間留守にしていた友人の帰還、この他さまざまな外部的な事象は人間の精神を高揚させ、幸せな日々が到来するような予感を抱かせる。これを信じてはならない。そんなことは決してない。自分に平和をもたらすのは、ほかならぬ自分自身なのだ」
(エマソン「独立独歩」)
「快活さを失ったとき、他人に頼らず自発的に快活さを取り戻す秘訣は、いかにも楽しそうな様子で動き回ったり、しゃべったりしながら、すでに快活さを取り戻したようにふるまうことである」(ウイリアム・ジェームズ)
行動を変えれば、感情の方も自然に変わるだろう。
人が事物や他人に対する態度を変えると。自分に対する事物や他人の態度も変わってくることを発見するだろう。自分の考え方を根本的に変えてみよう。するとその結果、生活の外的条件が急変してしまうのに驚くだろう。
「たいていの人は、自分で決心した程度だけの幸福を手に入れる」
(リンカーン)
第13章 仕返しは高くつく
私たちの憎悪は少しも敵を傷つけないばかりか、かえって私たち自身が、日夜、地獄の苦しみを味わうことになる。
キリストが「汝の敵を愛しなさい」と言ったのは、単に道徳律を説いただけではなく、20世紀の医学をも説いていたのだ。「7たびを70倍するまで許しなさい」と説いたキリストは、高血圧症、心臓病、胃潰瘍、その他の病気の予防法について語っていたのだ。
私たちは聖者と違って、自分の敵を愛するのは無理かも知れない。けれども、自分自身の健康と幸福のために少なくとも敵を赦し、忘れてしまおう。これこそが賢明というものだ。
「怒れない人は馬鹿。怒らない人は利口」(諺)
「野菜を食べてお互いに愛するのは、肥えた牛を食べてお互いに憎むのに勝る」(聖書)
「結局のところ、人間はだれも自分の過ちに対して償いをさせられる。このことをよく知る人間は、だれにも腹を立てず、だれも恨むことなく、だれの悪口を言うこともなく、だれも非難せず、だれも不快にすることなく、だれも憎まないであろう」(エピクテトス)
「あなたの敵を愛しなさい。あなたを憎む者に善を行いなさい。あなたをのろう者を祝福しなさい。あなたを侮辱するもののために祈りなさい」(聖書)
第14章 恩知らずを気にしない方法
「怒れる人は毒に満つ」(孔子)
「感謝の心はたゆまぬ教養から得られる果実である。それを粗野な人々の中に発見することはない」(サミュエル・ジョンソン)
キリストは、ある日の午後、十人のライ病患者をいやした。だが、そのうち何人が彼に礼を言っただろうか? たった一人であった。「ルカによる福音書」で確認していただきたい。キリストが弟子達に「他の九人はどこにいるか?」とたずねたとき、彼らは皆、逃げてしまっていた。一言の礼も言わずに姿を消してしまった! そこで皆さんに質問したい。私たちにしても自分たちのささいな好意に対して、はたしてイエス・キリストが受けた以上の感謝を期待してもよいものだろうか?
この世で愛される唯一の方法は、自分から愛を要求しないことであり、返礼を期待せずに愛情を振りまき始めることなのだ。
幸福を発見したいと願うなら、感謝とか恩知らずなどと考えずに、与えるという内面の喜びのために与えるべきである。
感謝する気持ちを子供に植え付けるためには、私たちがまず感謝の気持ちを持つ必要がある。
第15章 百万ドルか、天与の財産か?
「私たちは自分に備わっているものをほとんど顧慮せずに、いつも欠けているものについて考える」(ショーペンハウエル)
「人生には目標とすべきものが二つある。第一は自分の欲するものを手に入れること。第二はそれをたのしむことである。数ある人間のうちでも、第二のことを実践できるのは賢者だけでしかない」
第16章 自己を知り、自己に徹しよう
皆さんはこの世で何かしら新しさを持っている。それを喜ぶべきだ。自然が与えてくれたものを最大限活用すべきである。結局のところ、すべての芸術は自叙伝的なのである。あなたが口ずさむのは、あなたならではの歌であり、あなたが描くのは、あなたならではの絵に過ぎない。あなたは、あなたの経験や環境や遺伝が完成した作品であるべきだ。良くも悪くも人生というオーケストラのなかで、あなたは自分の小さな楽器を演奏しなければならないのだ。
第17章 レモンの効用
「人生で最も大切なことは利益を温存することではない。それなら馬鹿だって出来る。真に重要なことは損失から利益を生み出すことだ。このためには明晰な頭脳が必要になる。そして、ここが分別ある人と馬鹿との分かれ道になる」(ウイリアム・ポリン)
「窮乏に耐えるだけでなく、それを愛するのが超人である」(ニーチェ)
「我々の弱点そのものが、思いがけないほどわれわれを助けてくれる」(ウイリアム・ジェームス)
「人間が自己の責任を背負って立てば、環境が良かろうと悪かろうと中程度であろうと、気骨のある人間が育ち、幸福が必ずやってくる。だからこそ、北風がバイキングの生みの親となったのだ」(エマソン)
運命がレモンをくれたら、それでレモネードを作る努力をしよう。
第18章 二週間で鬱病を治すには
次にあげるのは、偉大な精神分析医アルフレッド・アドラーの筆になる驚くべき報告である。彼は憂鬱症の患者に対して、決まって同じ事をいった。「この処方箋どおりにしたら、二週間できっと全快しますよ。それは、どうしたら他人を喜ばすことができるか、毎日考えてみることです」
「善行とは他人の顔に歓喜の微笑をもたらす行為である」(モハメッド)
「私の患者の3分の1は臨床的には本当の神経症ではなく、生き甲斐のないことと人生のむなしさとに苦悩しているのだ」(アドラー)
「他人に対して善を行うとき、人間は自己に対して最善を行っているのである」(ベンジャミン・フランクリン)
「おのれのために生命を得る者はこれを失い、わがために生命を捨てる者は、これを得るであろう」(聖書)
第5部 悩みを完全に克服する方法
第19章 私の両親はいかにして悩みを克服したか
「悩みに対する最大の良薬は宗教的信仰である」(ウイリアム・ジェームス)
「浅薄な哲学は人の心を無神論に傾け、深淵な哲学は人の心を宗教へと導く」(フランシス・ベーコン)
彼は新しい宗教を説いた。彼は、宗教は人間のためにあるのであって、人間が宗教のためにあるのではないこと、安息日は人間のために定められたもので、安息日のために人間がつくられたのではないことを説いた。
キリストは、宗教に二つだけ大切なことがある、それは心から神を愛することと、隣人を自分同様に愛することだと述べている。
「宗教的人生観を取り戻していない人々は、本当の意味でいやされたとはいえない」(カール・ユング)
「人間と神との間には相互取引がある。ありのままの自分を神の力にゆだねれば、われわれの最も深遠な運命が成就される」(ウイリアム・ジェームス)
「荒れ狂う海面の荒波も、大洋の底まで騒がすことはない。広大でかつ永久的な視野で現実を眺めている人にとっては、個人的な絶え間のない浮沈は比較的無意味なものに見える。したがって、真に宗教心のある人は動揺せず、平静に満たされている。そして時がどのような義務をもたらしても、静かな心構えができている」(ウイリアム・ジェームス)
第6部 批判を気にしない方法
第20章 死んだ犬を蹴飛ばす者はいない
不当な非難は、しばしば偽装された賛辞であることを忘れてはならない。死んだ犬を蹴飛ばす者はいないことを思い出そう。
第21章 非難に傷つかないためには
現在の私は、一般の人々が他人のことなど気にかけないこと、また、他人の評判などには無関心であることを知っている。人間は朝も昼も夜も、そして夜中の12時過ぎまで、絶えず自分のことだけを考えている。他人が死んだというニュースよりも、自分の軽い頭痛にたいして千倍も気を使うのである。