死因究明制度でシンポ(2)弁護士側「刑事裁判では真相究明できない」
<弁護士側の主張>
【今回のシンポジウム関連】
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■「被害救済は感情からの解放」
医療問題弁護団・安原幸彦弁護士 安原氏は、実際に被害を受けた人だけでなく、「自分が被害に遭った」と思っている人も救済対象とした。その上で、被害者側の感情を▽憎しみ▽あだ討ち▽後悔―の3つに整理。「医療被害は死亡や重大な後遺症などを招き、結果が重い。これに強い憎しみの感情を抱く。自分の痛み・苦しみと同じ思いを相手にさせたいという『あだ討ち』の感情になる。弁護士として関与していると、被害の責任が自分にあるのではという後悔の感情も見える」と述べた。これらの感情が被害者を苦しめる「被害」そのものとして、この感情からの解放が被害救済のポイントと説明。損害賠償請求や刑事告訴もそのプロセスの一つとした。
解放のプロセスとして、「真相究明に思いをシフトさせることが第一歩」とした。交通事故などと違い、医療事故の場合はその場で法的責任を判定したり、結論を出したりできないため、「調査受任」から始まると指摘。「判定により、医療機関に責任はないという結論が出ることもあるが、それが被害者にとっても価値があるということを理解してもらうのが大事。それが(上記の)感情からの解放にとって価値があると確信している」と述べ、医療機関に責任があると最初から決め付けている被害者の場合、調査は受けないとした。次のプロセスが「再発防止」で、「医療側が真摯(しんし)に被害と向き合うことが無用な紛争をなくす。わたしが経験した31年間でも、『隠す、ごまかす、逃げる』がなければこんなになる前に解決できたのに、という医事紛争が多くある」と述べた。
医療安全調査委員会(医療安全調、仮称)については、「(医療事故調査を)警察や素人が一から担うのではなく、医療側が担うことに価値がある。そうして医師が不当な責任追及から解放されるプロセスになる」として、設置を「強く望む」と強調した。ただ、「事実調査と医学的評価を行う機関と理解している。(調査報告書は)責任追及の道具ではなく、判定の重要な資料」とクギを刺した。
医療者が自浄能力を発揮していかなければ、真相究明や再発防止につながらないと述べた上で、「(患者と医療者の)議論の状況を見ると、相互の不信をぶつけ合い、その連鎖が断ち切れない。しかし、医療事故の被害者側が不信をぶつけず、医療者側の自浄能力に期待したいと言っている時に、医療者側が患者に対する不信を大声で言い立てたり、あおったりすることがあってはならない」と述べ、相互の信頼が良質な医療をつくる道筋だとした。このため、原因解明のプロセスに患者側も入れるべきと付け加えた。
■司法による追及「真相究明から離れる」
大野病院事件弁護団・安福謙二弁護士
2004年に帝王切開手術中の女性が死亡した「福島県立大野病院事件」で、加藤克彦被告の弁護に当たっている安福氏は、「当初、加藤医師が問われるべき責任があったかどうか事実を知りたいと考えた。しかし、法廷であぜんとする思いをした」と述べた。体への侵襲行為があることから、医療事故における業務上過失は他分野と違って特殊であるにもかかわらず、法的責任を判断・追及する裁判所や検察庁などに疑念を感じたとした。「鑑定人、鑑定書の中身には疑問を感じ、難しいものと強く感じた。弁護側は最大限この人ならば、と考える人に鑑定人をお願いするが、医学的能力や正しさという意味では比較にならないと感じる。大学生レベルの議論を、小学生程度の知識で考えているということはないか」と述べた。 こうしたことに医療者側が反発すると、遺族からすれば「正直ではない態度」に見えて怒りを招くため、医療者と遺族との溝が深まるとした。また、「刑事裁判は、検察官が理解した事実関係に基づいて、『これなら有罪に持ち込める』と考えられた範囲での主張と証拠が出されているだけ。弁護側はそれに対する反論しかできないため、弁護側からの新しい無罪立証はあり得ない」と断言した。
?「無罪証明を求められているような焦りを覚えたことは事実。これを尋問することが真相究明にはぜひとも必要で、これを聞かねば何があったかの事実を知ることができない。検事は気付いていない、裁判所は考えようともしていない、しかしここをどうしても聞きたいと何度思ったかしれない場面がある。でもできない。刑事弁護人の『のり』を越えると思ったからだ。裁判は公開だが、捜査は徹底した秘密のもの。犯罪者の捜査だ。弁護側は捜査中に何が起こっているか分からない。公開された証拠で闘うだけ。真実とは比べものにならないものがある。出てくる調書は検察官が必要と判断したことだけが記載されている。真相究明からどんどん離れていくもどかしさを感じた。加害者や被害者など、そういう視点で医療事故を見ることを否定しないが、本当に一生懸命だった医療者が加害者という立場に立つことがある。その心に反して、十分に言いたいことが言えない環境がある。特殊な例外かもしれないが、(そういう医療者は)加害者でなく、犠牲者と呼びたい」
こう述べた上で、「いつまでも過失の概念で事実究明や医療安全調について考えるのは限界がある」と、第三次試案の内容が現実にそぐわないと指摘した。また、法的責任追及の場面では、「医療者が納得できない事実を突き付けられて、医療者側に虚脱感だけが残ってしまうため、医師が現場から去ってしまう一つの理由になっている」とした。さらに、「医療者が本当に物を言える環境を与えてほしい。だから、非難を受ける覚悟でかつて申し上げたが、限られた業務上過失の部分で、カルテ改ざんや証拠隠滅行為は含めないが、医師の刑事免責ということも十分議論の対象になっていい」と明言した。
裁判や弁護士には限界があるとして、「医療者に十分闘って本当のことを言ってもらい、質が悪く心掛けのない医師に退場してもらう。その仕組みをつくるのは、司法ではできない」と締めくくった。■「刑事裁判は真相究明しない」
後藤貞人弁護士
刑事弁護が専門の後藤氏は、「刑事裁判が真相究明することはあり得ない」と断言。「刑事裁判のテーマは検察官の主張である『こういう犯罪を起こした』ということを合理的な疑いを超えて証明できたかどうかであり、そこしか明らかにならない」と述べ、真相が明らかになると考えるのは間違いだと指摘した。
また、捜査は秘密裏に行われており、警察官の科学的・医学的な捜査能力に疑問を呈した。警察官が医師や関係者などに話を聞いて作成する調書も密室で作成されており、「警察官が『わたしは』という一人称独白スタイルで作文する。無罪だと言っても必ずしもそう書いてくれない」と述べた。さらに、裁判になると▽事実があったかどうか(業務上過失の場合、法的に評価して過失と言えるかどうか)▽密室で作成された調書が本当に本人が言ったことかどうか―の二重の審理になるとして、「問題が複雑な上に調書ができ、真相究明が難しくなる」と述べた。
更新:2008/06/17 16:21 キャリアブレイン
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