児童虐待を行う原因とは、何か、とテーマ化した場合、真っ先に囁かれるのが「虐待の連鎖」である。
しかし、実際の使用例をネットで調べてみると、観念的・思弁的なものが多いのが実情である。
たとえ具体的な事件例があっても、「虐待の連鎖」と短絡するものが多い。
たとえば、下のような被告の証言をニュースで知って、「虐待の連鎖」とブログの記事に書き込むケースが多々見られる。
>弁護側「何をしていた?」
鈴香被告「最初は仲居さんをしていたが、じきにコンパニオンのほうが収入がいいということで、コンパニオンに変わった」
弁護側「今度は父に連れ戻された?」
鈴香被告「父とおじが探しにきて、車で寝泊まりして探していると耳にし、自分から出ていった」
弁護側「なぜ探しにきた?」
鈴香被告「連絡しないで家を出たからだと思う」
弁護側「帰ってからはどのように暮らしていた?」
鈴香被告「1、2カ月は監視つきのような状況だった」
弁護側「具体的には?」
鈴香被告「たばこを買いに行くにも、家から100メートルなのに、玄関から立って見ているとか、買い物に行くときには連れていかれ、1人にならないようにという感じだった」
弁護側「仕事は?」
鈴香被告「しようとすれば自由になれると思い探し始め、能代のレストランでウエイトレスになった」
弁護側「そのほかの仕事は?」
鈴香被告「そこに集まる飲み屋のママさんたちに誘われ、夜ホステスのようなことを1カ月から2カ月していた」
弁護側「父に見つかったことは?」
鈴香被告「あった」
弁護側「具体的には?」
鈴香被告「帰宅時間はいつも同じ1時か2時で決まった時間なので、真っ暗な部屋に帰ってきたとき、『待て』と声をかけられ、びっくりした」
弁護側「それからは?」
鈴香被告「『お前な、ホステスしているのは分かっているんだ。芸者にするために育てたのではないんだ』と、殴るける、髪をつかんで引っ張り、引きずり回されたりしました」
弁護側「暴力はその後もあったか?」
鈴香被告「それが最後だったと記憶している」
弁護側「それからの生活は?」
・・・
【鈴香被告法廷ライブ(3)】仕事を始め、初めて楽しい生活…前夫は能代の浜で“逆ナンパ”
見られるように、未成年虐待のケースではない。というのは、その後は繰り返されてはいないし、それ以上に、娘の将来を案じる父親の愛情表現が伝ってくるが、どうだろうか。
>・・・
しかしそれでも この記事を見て思う。
子どもは親を選べない。
そして不幸な子どものほとんどが 虐待の連鎖を断ち切れない。
鈴香自身が虐待の被害者なのだ。
理不尽な虐待の中で育った彼女には 人の愛し方がわからない。
その結果が 倫理・感情の欠如を招き 犯罪を招いた。
http://shoko3848.blog33.fc2.com/blog-entry-427.html
かと思うと、「虐待の連鎖」とタイトルを出しながら、後で、看板を下ろすケースもある。
>■虐待の連鎖 専門家たちによると、自分の子どもを虐待する行為の背後には、親自身が子どものころに自分の親や大人から受けた心の傷が存在している場合が多い。そうした子どもは、その後の人生でも、対人関係やさまざまな日常行動の中で、1=「虐待的な扱い」を受ける体験を繰り返したり、2=立場を代えて逆に虐待する側に立つことで、自分の人間関係を「再現」してしまうことがあるという。美保や内縁男性について、この点は明らかになっていない。
「子ども虐待 家族間暴力の現場から 第2部7/心の傷・きょうだいに影響も」http://www.saitama-np.co.jp/main/rensai/kazoku/gyakutai/vol02/gyakutai2-7.htm
他には、「幼児的万能感」が関係しているにもかかわらず、エスカレートする幼児虐待を「虐待の連鎖」と処理されているケースが見られる。 <最初は、すごい抵抗感があったが、繰り返すうちにだんだん癖になってしまったんです>
これは昨年七月、三豊郡内で生後九カ月の長女をせっかんで死なせた父親(23)の供述調書の一節だ。「娘が懐かない、言うことを聞かない」などささいなことが暴行の理由だった。
ここ二年余りの間に、県内で摘発された幼児虐待事件は九件。被害者は生後二カ月から五歳で、三人が死亡、ほとんどが重傷を負った。ことし八月には丸亀市内で父親(25)が泣きやまない三カ月の女児を殴り、傷害容疑で逮捕された。女児は現在も意識不明の重体のままだ。・・・
●エスカレート
冒頭の三豊郡内のケースは、夫婦と女児の三人家族。生まれた時は「うれしかった」という父親が虐待を始めたのは、子供が四カ月になったころ。背中をつねったのが最初だった。
<いけないのは分かっていたが、腹が立つと止まらなかった。初めは二、三日の間隔だったのが短くなり、一日に二回もするようになった。
>暴行はエスカレートする。体中をつねる、たたく、かむ。両腕両足をひねり上げる。さらに両足を持って逆さづりにし、両手で首を絞めることもあった。女児の体には傷が絶えず、古いあざが消えては、新しいあざができたという。
生後七カ月で女児が病院に運ばれた時には、両腕両足が骨折し、一本の骨に何カ所も折れてくっついた跡があった。左右のひじは完全に伸ばせず、内側にもあまり折り曲げることができなかった。
父親も反省し、いったんは虐待も収まったかに見えた。が、女児は退院から一カ月もたたずに死ぬ。泣きやまないことに腹を立てた父親によって、胸を踏み付けられ、両手で首を絞められて。
>だが、父親は娘を嫌っていたわけではないと言う。<本当は、うんと懐いてほしかった。でも、嫁さんばかりに懐くので悔しさもあったんです>
父親の潜在的な幼児的万能感については、なんと言えばいいだろうか。
下の引用にあるように、それは男を酔わせる。
道を歩いていると、棒切れが落ちていたので、拾った。ふと気づいてみると、棒を振り回していた、というように、その間の記憶が欠落しているのが普通だ。
その間に、正視しがたい残虐なことが行われているものだ。
>―タンスに閉じ込めるなどの行為は信じられない。
橋本 何かやり出したときに歯止めが効かない現象がある。少年事件の例を引くまでもなく、相手を死ぬまでたたきのめすという行動が目に付くようになってきた。虐待も同じだ。ダメージを受けた子供を見るとやめるだろうと思われるが一端(ママ)、たたき出すとこれが止まらない。
―気持ちがいいのか。
橋本 なぐること自体に酔うんじゃないのか。
・・・
◇ ◇
はしもと・みか 愛媛大医学部卒。香川医大精神神経科学教室、馬場病院を経て、平成2年から現職。39歳。岡山県出身。
大西正明、山田明広、山下淳二が担当しました。
(1999年9月6日四国新聞掲載)
http://www.shikoku-np.co.jp/feature/tuiseki/065/index.htm
こうして消去して後に残ったのが、ネットでトップにランクインの「虐待の連鎖」。
http://www6.ocn.ne.jp/~kokoro/top/gyakutai/BNframe.html
しかし、私は勘違いだと思っている。確かに、氏の受けた親からの虐待は解離性人格障害を引き起こし、記憶傷害症を伴うはげしいものだとしても、やはり、 「虐待の連鎖」というものではないと思っている。
強いて言うならば、「世代間連鎖」ではないのか?
それでも必見の価値は十分にある、と思っている。