Trends Glycosci.Glycotechnol.8:315-325


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ミニレビュー

インテグリン依存性のフィブロネクチンマトリックスアセンブリー

Wu, Chuanyue

Department of Cell Biology and The Cell Adhesion and Matrix Research Center, University of Alabama at Birmingham, Birmingham, AL 35294-0019, USA, FAX: 1-205- 975-9956, E-mail: cwu@cellbio.bhs.uab.edu

Key Words: extracellular matrix assembly, bronectins, integrins, signal transduction

要 約

フィブロネクチン(Fn)マトリクスアセンブリーは動的な細 胞現象であるが、その過程で可溶性の二量体 Fn は会合してジスルフィド結合によって安定化された不溶性の線維性高分子マト リクスを形成する。Fn がマトリクスアセンブリーするためにはFnに特異的に結合するインテグリンが必要である 。Fn マトリクスアセンブリーに関与するインテグリンとしては α5β1、 αIIbβ3、 αVβ3 などが同定されている。細胞はこれらインテグリンの細胞表層発現量を調節したり、あるいは Fn や細胞骨格系タンパク質とインテグリンとの結合を制御することによって 、Fn マトリクスアセンブリーをコントロールしている。細胞外で生 じる Fn マトリクスアセンブリーが、細胞表層のインテグリンや細胞内の情報伝達分子によってどのように制御されるかを明ら かにすることが今後の研究課題となろう。

A. はじめに

Fn は細胞接着性の糖タンパク質で、胚形成、創傷治癒、癌転移、繊維化、血栓形成などの多くの生理的あるいは病的な生 物過程において重要な役割を果たしている(1)。器官形成の過程 で Fn は細胞外マトリクス構成成分の大半を占めているが、哺乳 動物の胚形成においてこのFnが中心的役割を果たすことが明ら かにされている(2)。 Fnマトリクスアセンブリーは動的な細胞現象であるが、その過程で可溶性の二量体 Fn分子は会合してジスルフィド結合によって安定化された不溶性の線維性高分子マト リクスを形成する(3、4)。マトリクス体としてのFnは、細胞接着、移動、あるいは分化を促進することから機能的な存在形態 であるといえる。 Fnのマトリクスアセンブリーは in vivo では時間・空間の両面から制御されている。例えば、成熟哺乳動物で はほとんどのFnは肝で合成され、主に可溶性のタンパク質とし て血漿中に高濃度(約 300 mg/ml)存在している。Fnが局所で産生され細胞外マトリクスへ取り込まれるのは、創傷時あるいは 止血時においてだけである。細胞はFnマトリクスからのシグナ ルに応答するのみならず、 Fnマトリクスの形成そのものにも積極的に関与する。細胞表層に存在する特異的Fn 結合性インテグリンが、 Fnマトリクスアセンブリーの開始および制御に重要な役割を演じていることを、最近の研究結果は示唆している。本 稿ではインテグリン依存性のFnマトリクスアセンブリーの分子機構に関する我々の考えを簡単に紹介したい。

Fig. 1. Fn domain structure

B. Fn マトリクスアセンブリーに関与するフィブロネクチンドメイン

Fnはマルチドメイン構造を有する分子量約 500,000 ダルトンの糖タンパク質であり、3種のタイプ(タイプ I、 II および III) の繰り返しモジュールから構成されている(図1)(1)。 Fn 分子はジスルフィド結合でつながった2本のよく似たサブユニットか ら構成されているが、それらには RNA スプライシング、糖付加あるいはその他の翻訳後修飾などによる違いがみられる(1)。 Fn 分子のジスルフィド結合を介したこの二量体構造は、 Fn マトリクスアセンブリーにおいて重要な意味を持つ(5、 6)。更に、N末端の5つのタイプ I 繰り返しモジュール(29 kDa マトリクスアセンブリー部位、 図1)(5、 7-9)、最初の5つのタイプ III 繰り返しモジュール(Homophilic Interactive Site、 図1)(10、11)および Arg-Gly-Asp(RGD)配列を含むインテグリン結合性ドメイン も Fn マトリクスアセンブリーに重要である(3、4、12)。 Fn のこの5つのタイプ I 繰り返しモジュールは、マトリクス形成に関与する細胞表層成分が高いアフィニティーで結合するための Fn 分子上の結合部位となっている (13-15) 。このドメインを含む Fn フラグメントは線維芽細胞のマトリクス形成を阻害し(7, 8, 12)、そ の結果、短い Fn 線維が細胞上のα5β1 インテグリン受容体と結合しているという特殊な形態を示すようになる。この5つの タイプ I モジュールは、リコンビナント Fn が細胞外マトリクスへと取り込まれる時にも必要な部位である(5, 9)。始めの5つのタイプ III モジュールを認識する抗体は、 Fn の線維芽細胞への結合およびそれに続くマトリクスアセンブリーを阻害す る(10)。しかし、タイプ III モジュールを欠損した リコンビナント Fn でもマトリクスへ取り込まれる(5, 16)ことから、この領域は Fn マトリクスアセンブリーに必ずしも必須であるとはいえな い。N末端の5つのタイプ I モジュールは初めの5つのタイプ III モジュールのいくつかと結合するが、この結合は Fn 同士の相互作用の調節に関わっているのではないかと考えられてい る(17)。実際、この初めの5つのタイプ III モジュールに由来するペプチドは、in vitroの系でFn のジスルフィド結合による高分子化を誘導する(11,18)。しかしながら、このペプチド配列を含む Fn フラグメントが生体中に実際に存在していることの証明はなさ れていない(18)。更に、この5つのタイプ III モジュールは熱変性すると Fn の 70kDa のアミノ末端フラグメントに結合するが、変性していない場合にはそのような作用を示さないことが in vitro の実験系を用いて示されている(19)。これらの結果から、培 養系でもin vivo でもFnマトリクスアセンブリーに際しては、 初期の何等かの引き金によってFn 分子中に隠されたホモフィリックな結合部位が露出される必要がある、ということが示唆され る。培養細胞系でFnマトリクスアセンブリーを誘導する最も初 期の引き金としては、 Fn分子内のRGD を含む細胞結合ドメインとそれに対するインテグリンの相互作用に基づいたFnの細胞表 層への結合が考えられる(20-22)。RGD を含む細胞結合ドメインや細胞結合ドメインを含むFnフラグメントに対する抗体は線維 芽細胞のFnマトリクスアセンブリーを阻害し、その結果、あま り長くない Fn 線維が多少形成される程度にとどまるが、このことは、線維芽細胞のマトリクスアセンブリーの開始においてFn 分子内の細胞結合部位が一定の役割を果たしているという事実 と一致する(1223)。

C. Fn 結合性インテグリン

インテグリンはαβヘテロダイメリックな膜貫通型糖タン パク質であり、細胞外分子(またはもう一方の細胞の表層分子) や細胞内の細胞骨格系あるいは触媒作用を持った情報伝達タン パク質と相互作用する(24-26)。インテグリンは細胞-細胞ある いは細胞-細胞外マトリクス相互作用を媒介し、これにより胚 形成、創傷治癒、炎症、癌などの多くの生物過程あるいは病態 現象に関与すると考えられている。α5β1、 α4β1、 αVβ1、 αIIbβ3、 αVβ3 といったインテグリンが Fn と結合するが、ほとんどの Fn 結合性インテグリン(α5β1、αVβ1、αIIbβ 3、 αVβ3)は RGD を含む細胞結合ドメインを認識する。共通性の高い RGD 配列に加えて、RGD 配列のアミノ末端側に位置する協働領域のような配列も Fn と α5β1 インテグリン(27, 28) あるいは αIIbβ3 インテグリン(29, 30)との結合に寄与する。α5β1、αVβ1、αII bβ3、 αVβ3 とは異なり、α4β1インテグリンは Fn の選択的スプライシング領域であるIIICS(または V)内の CS1(または V25)部位を認識する(図 1)(31-33)。

インテグリンのリガンド結合アフィニティーは細胞環境に よって変化する。例えば、CHO 細胞では α5β1 インテグリンは Fnと高いアフィニティー(Kd 〜 0.1 mM) で結合するが、ヒトK562 赤白血病細胞では α5β1 インテグリンの Fn に対する結合アフィニティーは低い(Kd> 1 mM)(34)。もう一つの Fn 結合性インテグリンであるαIIbβ3 が CHO 細胞では低いアフィニティーしか示さない(34)様に、インテグリンのリガンド結合 アフィニティーに及ぼす細胞環境の影響はインテグリンのタイ プに依存する。このことは、循環血中の血小板のαIIbβ 3インテグリンでも同様で、このインテグリンは通常非常に低い結合状態にある。インテグリンのリガンド結合アフィニティーは細胞 の中からコントロールされうる("inside-out signaling") (25, 2635)。インテグリンの細胞質側ドメインは "inside-out" シグナル伝達を媒介することが最近の研究によって証明された。"Inside- out "シグナル伝達という点で最も盛んに研究が行われてきたの はαIIbβ3である(36)。インテグリンに特異的な結合アフィニ ティー状態はαサブユニットの細胞質ドメインによって規定さ れる。CHO 細胞のαII bの細胞質ドメインを、違うαサブユニット(例えばα5)の細胞質ドメインと置き換えてやると、高いリ ガンド結合性を示すようになる(34, 37)。更に、αIIb の細胞質ドメイン内の高度に保存されたアミノ酸配列である GFFKR のアミノ末端側を切り詰めて行くと、αIIbβ3 インテグリンが活性化されることが明らかになっている(カルボキシ末端側を切り 詰めていっても活性化は見られない)(37)。αII b 細胞質ドメインと VGFFK 配列を欠損させた変異 αL の細胞質ドメインを入れ変えても、αIIbβ3 インテグリンのリガンド結合作用は活性化される(34)。これらの結果は 、 GFFKR 配列がαIIbβ3 のリガンド結合アフィニティーに関しては逆作用を有していることを示唆 している。βサブユニットの細胞質ドメインは、αIIbβ 3 のリガンド結合アフィニティーを調節する上においても必須の役割を果 たしている。最近の研究によると、αII bサブユニットの細胞質ドメインの膜近傍領域にある R995 とβ3 サブユニットの細胞質ドメインの膜近傍領域にある D723 の間に塩の架橋ができる可能性があり、それが インテグリンの低アフィニティー状態を規定しているらしい(38)。加えて、 β3 サブユニットの細胞質ドメイン中の Ser752 の Pro への変異は グランツマン血小板無力症のバリアントにみられるαIIb β3 活性化欠損と関連していることが示されている(39)。

D. インテグリンー細胞質分子相互作用

インテグリンは様々な細胞骨格系タンパク質あるいはシ グナル伝達タンパク質と相互作用することができる(図2)。イ ンテグリンの主要な細胞骨格タンパク質結合部位はβサブユ ニットの細胞質ドメインに存在している(40)。キメラインテグ リンやβサブユニット変異体を用いた解析によって、インテグ リンを 接着斑 に集積させる上で(40, 41)、またおそらくインテグリンが細胞骨格タンパク質と相互作用する上でも、βサブ ユニットの細胞質ドメインが必須であることが明らかにされて きた。α-アクチニン(42, 43)とタリン(44)の2種のアクチン結合タンパク質が、βサブユニットの細胞質ドメインと特異 的に結合することが in vitro の結合実験によって確かめられた。α-アクチニンとの結合に関与する β1 サブユニット中の第一の領域は 細胞質ドメイン内の FAKFEKEKMN 配列である(図2)(45)。β1 サブユニットのカルボキシ末端近傍には二番目のα-アクチニン結合部位が存在することも明らかにされている(45)。 タリン結合部位はβ1サブユニットのカルボキシ末端側の α-アクチニン結合部位の近くにあるようだ(46-48)。また、インテ グリンが接着斑へ集積する上で、α-アクチニンとタリン結合 領域内の多くのアミノ酸残基が必須であることがβ1 サブユニットの変異体の解析によって明らかにされている(49)。

Fig. 2. Integrin-cytoplasmic molecule interactions. The dashed line represents a potential salt bridge between the highly conserved R and D residues in the membrane proximal regions of the integrin α and β cytoplasmic domains (38).

α-アクチニンとタリンに加えて、いくつか他の細胞質分 子が αまたはβサブユニットの細胞質ドメインと相互作用する ことが明らかにされてきた(図2)。核ホルモン受容体活性 (50, 51)の調節に関与していると考えられているカルシウム結合タンパク質 である calreticulin は、αサブユニットの細胞質ドメイン内の GFFKR 配列に結合する(52)。Calreticulin のインテグリンとの結合はインテグリンの機能を調節する上で重要な役割を果たし ているらしい(53, 54)。Focal adhesion kinase(FAK)や paxillin に対する結合部位はβ1 サブユニットの細胞質ドメインの膜に近い領域に局在している(55)。最近、βサブユニットの細胞質ド メインに結合性を示す2種の新たなタンパク質が酵母ハイブ リッドスクリーンシステムを用いて同定された。うち一つはβ3- endonexin でβ3サブユニットの細胞質ドメインと特異的に結合する(56)。もう一方は β1 integrin-linked kinase(ILK)でインテグリン依存性のシグナル伝達に関与することが推測されるセリン/ スレオニン系キナーゼである(57)。

E. インテグリンによる Fn マトリクスアセンブリーの開始

細胞表層インテグリンの Fn への結合が Fn マトリクスアセンブリーの開始に重要であることは、多くの研究によって明ら かにされてきたことである。 RGD依存性インテグリン結合部位を有する Fn フラグメントまたはインテグリン結合部位を認識する抗体は、培養細胞系での Fn マトリクスアセンブリーや両生類の胚の発達を阻害する(1221, 2258)。また、β1 インテグリンを認識する抗体は、線維芽細胞の細胞外マトリクス中への Fn の取り込みを抑制する(α5 インテグリンを認識する抗体はあまり顕著な作用は示さない)(2359, 60) 。α5β1 インテグリンの Fn マトリクスアセンブリーへの関与は、もっぱらチャイニーズ ハムスター卵巣(CHO) 細胞を使って研究が行われてきた。CHO 細胞にα5β1 を過剰発現させると、細胞外マトリクス中への Fn の取り込みが増大する(61)。CHO B2 細胞株はα5β1インテグリンを発現しておらず、このため Fn 基質上で目立った細胞移動 が観察されないことからも特に有効なモデルであると言える (62) 。CHO B2 細胞ではその細胞外マトリクス中への血漿性 Fn の取り込みは観測されない(20)。ヒト全α5 鎖をコードした cDNA を CHO B2 細胞にトランスフェクトしてα5β1 を強制発現させると、線維状の Fn マトリクスの形成が顕著に観察されるようになる(20)。また、 α5β1 インテグリン結合部位を欠損した Fn 変異体でも Fn マトリクス中へ取り込まれることから(5)、 Fnマトリクスアセンブリーにおけるα5β1インテグリンの主な 役割はアセンブリーを開始することにあるのではないかと考え られる。

Table I. Fn matrix assembly activities of integrins in CHO cells.

α5β1 インテグリンが Fn マトリクスアセンブリーに関与することについては明確な証拠があるにもかかわらず、 α5β1 なしで もFn がマトリクスを形成する機構が存在している。α5 インテグリンがほとんど発現していない変異胚由来の線維芽様 細胞 (63) のような細胞は、α5β1 がなくても Fn マトリクスを形成する。 Fn マトリクスアセンブリーに関与する他の Fn 結合性インテグリンを同定するために、我々は α5 を欠損しているCHO B2 細胞にα3β1(64)、 α4β1(65)、 αIIbβ3(21)、αVβ3(22) を強制発現させた。Zhang 等は、もう一つの Fn 結合性インテグリンであるαVβ1 を CHO B2 細胞に発現させている (66) 。 各 Fn 結合性インテグリンの Fn マトリクス形成促進活性を表Iにまとめた。 CHO B2 細胞にα4β1 を発現させると、その細胞は Fn 基質に接着しその上を移動 するようになるが、 Fn マトリクスの形成は観測されない (65) 。一方、αVβ1 を発現させた CHO 細胞は Fn に接着はするものの、 Fn 基質上を特に移動することはないし Fn マトリクスアセンブリーも観測されない(66)。 α3β1を過剰発現させた場合には、細胞は Fn には接着しないが エンタクチンに接着するようになり、細胞外マトリクス中へのエン タクチンや Fn の取り込みは劇的に上昇する(64)。この Fn の取り込みはおそらく、エンタクチンを介してα3β1 によって間接的に誘導されたのであろう。活性化したαIIb β3 インテグリン(wild type αIIbβ3ではなく) を CHO B2 細胞に発現させると、 Fn マトリクスアセンブリーが観察されるようになる(21)。同様に、 αVβ3 の活性化によっても Fn マトリクスアセンブリーは誘導される(22) 。これらの結果は、細胞の Fn マトリクスアセンブリーの誘導は、 α3β1 とαVβ3 インテグリンの存在およびそれらの活性化状態によって制御されていることを示している。

我々は最近、我々の結果と他の研究グループからの知見を 総合し、 インテグリンによるFn マトリクスアセンブリー開始機構に関するモデルを提唱した(図3)(21)。このモデルは以下に 示す重要な特徴を持っている:

i. 多くの Fn結合性インテグリンが Fnマトリクスアセンブリーの開始に関与しうる。

ii. インテグリンは Fn分子内の RGD 配列を含む細胞結合ドメインと高いアフィニティーで結合し、これにより Fn マトリクスアセンブリーを開始する(インテグリンを 活性化すると高いアフィニティーで Fn と結合するようになる)。

iii. インテグリンと Fnの高親和性結合は Fn マトリクスアセンブリーにおける必要条 件ではあるが十分条件ではない。一方、インテグリン-細胞骨格間の相互作用は Fn マトリクスアセンブリーに必須である。

iv. 細胞外の Fn や細胞内の細胞骨格タンパク質とインテグリンの結合は Fn - Fn 相互作用を誘導すると共に Fn 線維の伸張を促進する。

Fig. 3. A model of integrin mediated Fn matrix assembly.

Fig. 4. Hypothetical cellular signalling pathways that regulate Fn matrix assembly.

F. Fn マトリクスアセンブリーの制御

多くの細胞内外分子が Fnマトリクスアセンブリーに関与すると考えられる(図4)。細胞によるFnマトリクス形成の調節 において、インテグリンの細胞質ドメインが重要な役割を果た していることが最近の研究から推測されている(20-2238)。インテグリンの細胞質ドメイン内の少なくとも3つの領域が Fnマトリクスアセンブリーの制御上重要である。この3つの領域と は、i)インテグリンαの細胞質ドメインの膜近傍の GFFKR 配列、ii)インテグリンβの細胞質ドメインの膜近傍領域、そして iii)インテグリンβの細胞質ドメインの膜から少し離れた領域、 である。αとβの細胞質ドメインの膜近傍領域は、インテグリ ンと細胞外リガンドの結合親和性の制御に関与している (inside-out signaling)。αIIb(37)またはα5(C. Wu、 未発表データ) の膜近傍領域の GFFKR 配列が欠損すると、インテグリンの細胞外リガンドに対する結合アフィニティーが上昇し Fn マトリクスアセンブリーを促進する(20, 21)。更に、αIIb の細胞質ドメインの GFFKR 配列内の点変異(F992 → A)あるいはβ3 の細胞質ドメインの膜近傍領域の点変異(D723 → R)を行うとリガンド結合性が上昇し、それによりαIIbβ 1 インテグリン(38)やαVβ3インテグリン(22)の Fn マトリクス形成活性が亢進する。このように、細胞が Fn マトリクスアセンブリーを調節する機構の一つは、インテグリンの Fn 結合アフィニティーを制御することにある。実際、抗β3 抗体によってαIIbβ3インテグリン(38)や αVβ3 インテグリン(22)の Fn 結合アフィニティーをより高い状態へと活性化すると、 Fnマトリクスアセンブリーが亢進する。αIIbβ3 インテグリン を持っている CHO 細胞に R-ras を発現させると、αIIbβ3 インテグリンのリガンド結合活性が上昇し、その結果、細 胞外マトリクスへの Fn の取り込みが数倍増加する(67)。

Fn の高いアフィニテイーでの結合のみならず、Fn結合性インテグリンとアクチン骨格間の相互作用もFnマトリクスアセ ンブリーには必須である。 Fn線維がアクチン骨格と並行している像がよく観察される。アクチン骨格を破壊する薬物は Fn線維も破壊して細胞表層から培地への Fnの遊離を引き起こす(1)。インテグリンβの細胞質ドメインの膜近傍領域にはアクチン結 合性の数種のタンパク質に対する結合部位がある(図2)。インテグリンβの細胞質ドメインからこれらの結合部位を欠損させ ると Fn マトリクスアセンブリーも観察されなくなる(21)。細胞骨格タンパク質結合部位を持った β1、β3 の細胞質ドメインを培養細胞に発現させると、 Fn マトリクスアセンブリーは阻害される(41)。更に、抗β1 抗体を細胞内に注入すると、 in vivo での Fn マトリクスアセンブリーは阻害される(68)。従って、細胞による Fn マトリクスアセンブリー制御のもう一つの機構として、アクチン骨格の構築およびインテグリン-アクチン骨格相 互作用の制御が考えられる。低分子GTPase(Rho、 Rac および Cdc42)の Rho ファミリーのメンバーのうち幾つかは、アクチン骨格形成およびおそらくインテグリン-アクチン骨格相互作 用も制御することから(69-72) 、低分子 GTPase の Rho ファミリーが細胞外の Fnマトリクスアセンブリーを制御しうるかどうかを明らかにすることは非常に興味深い。

 Fnマトリクスアセンブリーを制御する多くの細胞内外因 子が同定されている。活性化血小板の産物である リソホスファチジン酸はその一つであるが、細胞に対して多様な作用を示す。 リソホスファチジン酸は Rhoを介した伝達経路を経て、無血清培地で培養した線維芽細胞のストレスファイバー形成や接着斑 形成を迅速に誘導する (69)。また、 Fnや Fnのアミノ末端フラグメントの細胞への結合及び Fn マトリクスアセンブリーも促進する(73,74)。他の Fn マトリクスアセンブリー調節因子としてプロテインキナーゼC(PKC)阻害剤がある。リソホスファチ ジン酸とは異なりPKC 阻害剤はストレスファイバーや接着斑形成を阻害するが (75)、 Fn やそのアミノ末端フラグメントの細胞との結合は速やかに減少させる(76)。このことは、PKC が Fn マトリクスアセンブリーの制御に関与していることを示してい る。 Fn マトリクスアセンブリーを制御するシグナル伝達経路の解明が今後の重要な課題であろう。

東京理科大学薬学部・臨床病態学
深井 文雄訳

References

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