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インテグリン阻害剤

2000年4月1日号 288

     最近開発されたインテグリン阻害剤(αIIbβ3)が、冠動脈硬化疾患の治療に対して大きな期待が寄せられています。

 動脈硬化症の進展に深く関与する要因の1つに血管平滑筋細胞の表現型の変化があります。血管平滑筋細胞はT型コラーゲンを含む細胞外マトリックス(基質、間質)に包囲され、収縮型の非増殖性の表現型を示しています。(関連項目:
MMPMMPの臨床応用

 インテグリンは細胞の表面に存在する接着蛋白で、細胞外マトリックスに対する細胞の接着をつかさどる受容体であり、この細胞機能調節作用が注目されています。

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 フィブロネクチンは細胞接着に関与する細胞表面蛋白質で、そのレセプターであるインテグリンと結合し、着床等の癌細胞の転移過程で重要な役割を果たすと言われています。
 動脈硬化症の発症・進展には血管構成細胞、特に平滑筋細胞の遊走・増殖が病因の一因子として重要です。しかしその引き金としては、血管内皮細胞の機能障害、血液中から血管壁に進入した単球・マクロファージ、リンパ球、さらには傷害された内膜に付着する血小板などの多くの細胞成分の活性化が関与することが知られています。

 血管の内部が凸凹してくると、血小板壁表面の凝集された血小板の細胞膜が引き続き起こる凝固系の活性化にとって最適な環境となり、血栓形成が引き起こされます。

 現在抗血小板療法として最もよく使用されているアスピリンは不可逆的にシクロオキシゲナーゼをアセチル化し、その結果、トロンボキサンA2放出を抑制します。内皮細胞はシクロオキシゲナーゼ再生できるためアスピリンの作用は可逆的であるが、血小板では不可逆的に作用することが知られています。しかし、前述した血小板凝集機序から考慮すると、アスピリンはコラーゲン・トロンビン・ADPによる血小板活性化に影響しないため、抗凝血作用は十分でない可能性があります。

 またパナルジンはADPによる血小板凝集を抑制することが知られており、アスピリンの代替薬として使用可能ですが、白血球減少の副作用に特に注意が必要です。その他、血小板内のフォスフォヂエステラーゼを阻害しcAMPを上昇させるペルサンチン、プレタールも抗血小板剤として使用されています。

 一方、動脈硬化症の進展過程で、内膜に進入したマクロファージなどから合成・分泌されるマトリックス分解酵素などによりマトリックス構造は変化し、平滑筋細胞は遊走・増殖能の亢進などの活性化された表現型を有するようになります。

 また内膜下に遊走した平滑筋細胞は、フィブロネクチン、ヴィトロネクチンなどの異なった細胞外マトリックスを合成・沈着するようになります。臨床的にも、PTCA後の冠動脈再狭窄は、血栓形成以外にこの平滑筋細胞の増殖・遊走能が深く関与することが知られています。

 平滑筋細胞増殖機構に関しては、インテグリンを介した細胞周期抑制蛋白の調節が重要な働きをしています。またフィブロネクチンの受容体であるα5β1およびαvβ1インテグリンは、細胞表面のフィブロネクチン繊維の形成に必要であり、さらに平滑筋細胞の増殖にも必須の働きをしています。

 一方、ヴィトロネクチン、オステオポンチンなどの受容体であるαvβ3インテグリンは、細胞遊走に必須と考えられており、ヒト動脈硬化病変部位でも、内膜の平滑筋細胞に発現が観察されています。

 またαIIbβ3インテグリン阻害剤は、αvβ3インテグリンの阻害作用も有しており、血管平滑筋細胞遊走の阻害剤としても使用できる可能性があります。

{参考文献}治療 増刊号1999


<医学用語辞典>

オステオポンチン
OPN                  北海道大学遺伝子病制御研究所分子免疫分野 上出利光

 オステオポンチンは、非コラーゲン性骨其質蛋白質で、分子内にインテグリン結合配列を有しており、細胞外マトリックスと分類されています。

 ウイルスや癌遺伝子による形質転換に伴い細胞が新たに分泌することから、transformation-specific secreted phosphoprotein、あるいはT細胞刺激後早期に発現誘導されることから、early T lymphocyte actibatin(Eta-1)とも呼ばれていました。

 関節リウマチ(RA)では、その活動期に血中OPN値が上昇し、RA患者の滑膜組織、特に軟骨を侵食するパンヌスの線維芽細胞に発現します。

 OPNは多くの免疫疾患の病態に関与しています。
NKT細胞(ナチュラルキラー細胞)による分泌されることが判明しました。
NKT細胞が高次免疫調節細胞として多くに免疫疾患に関与していることを考えると、その重要なメディエーターとしてOPNの機能が注目されています。

 さらにOPNは悪性疾患の予後判定因子、治療標的分子となる可能性を秘めています。

 この他にも組織再生、リモデリングでのOPNの機能が注目されています。

 OPNの役割は、メカニカルストレスでの骨吸収の亢進だけではなく骨形成の低下でも急激な変化を伝えるシグナルとして機能する可能性が示唆されています。

今後非荷重によるシグナルがどのようにOPNと関与するのか、細胞内のどのような分子群あるいはシグナル群を通じて細胞の遺伝子発現制御につながるのかについての検討が進展されることが期待されています。

  出典:医学の歩み 等 2004;210:228-230   



カリウム(K)

輸液を勉強する(3)

 術後回復液(4号液)はKイオンを含まないか、もしくは10mEq/Lに満たない1/4等張液と考えれば分かりやすいでしょう。したがって維持液同様に1Lあたり750mLの自由水を含みます。

 1号液(開始液)もKが入っていませんが、1号液の方がNa含有量が多く、4号液の方が低張となっています。

 また、Kイオンがフリーの4号液(術後回復液)は、適量の糖質を加えることで腎障害時の維持輸液として代用できます。

 輸液開始時には乏尿のことが多いので、腎不全による乏尿か循環血液量不足による乏尿か鑑別する必要があります。腎不全の場合は、高K血症にならないように、Kを含有しない輸液を用います。

 激しい下痢、嘔吐が継続し高張性脱水症の場合は、低張性輸液剤を使用しますが、輸液量が少ないときは、生体は体液の浸透圧を一定にしようとする機構があります。そのため点滴された水分の体内貯留が少なかったり、あるいは水分が血管外に移行して循環血液量の補給が不十分、また過量に点滴したときは浮腫を生じたり、低張性脱水症を起こすことも有ります。

 血清中のカリウムは体内総カリウム濃度の2%に過ぎません。また、この2%の領域を通して98%にあたる細胞内を満たさなければなりません。しかし、細胞外液中のカリウム濃度が倍になれば心停止を起こす危険性があります。

 カリウムの補給は可能なら内服で行うべきです。血液のpHや身体の衰弱によっても細胞外液中の濃度は影響を受けます。したがって、血漿K濃度を用いた補充量の算出は極めて危険です。

 カリウムを静注する場合、総与薬量よりも静注速度に注意する必要があります。腎機能が正常な場合、20mEq/hr以下に抑えると安全です。また血清カリウム値が正常値から0.5mEq/L減少した場合、欠乏量は100mEqとなり、さらに0.5mEq/Lずつ減少した場合200mEq、400mEqと2倍、4倍に減少しているといわれています。

 カリウム剤の与薬にあたっては予測欠乏量に安全係数(下記参照)として1/5〜1/10を乗じた量を補充量とし、1日の維持量に欠乏量を加えます。また最大与薬量は、2mEq/kg/day以内にすべきであり与薬速度は20mEq/hrを越えないように注意する必要があります。


<<安全係数>>

 一般に、輸液療法のモニタリングに用いられる計算式は、変化している病態のある時点でのバランスを予測した結果です。そのため、輸液剤の使用後に水分バランスの新たな平衡が成立し計算の基となったデータも変化します。

 このように、これらのデータは多くの誤差を含むことから、直接計算量を使用することは危険性が高く、患者に計算結果を適応する場合、安全のため一般的には計算量の1/2〜1/5に減らします。。

このときの計数を安全係数といい、計算結果に0.2〜0.5を乗じて用いられます。

追加記事

低K血症

一般にKの喪失は代謝性アルカリローシスを起こし、代謝性または呼吸性アルカリローシスは低K血症を起こします。

 低K血症では周期性麻痺や筋無力症を除いては、一般に細胞内Kの不足があります。
 低K血症は水分過剰やKを含まない輸液の大量与薬、嘔吐、下痢、消化管液の吸飲等により起こります。また尿中へのKの喪失、アルカリ塩の過剰投与、利尿剤によりK喪失が起こることもあります。

<低K血症の臨床症状>

 腹部膨満感、悪心、嘔吐、イレウス、四肢知覚異常、呼吸筋麻痺、意識障害、血圧低下、抹消チアノーゼ、不整脈、心筋障害

<低K血症をきたす疾患>

消化器:下痢、嘔吐、消化液吸引(胃・腸サクション)、腸瘻、肝硬変症、K摂取不足(神経性食欲不振症、飢餓)
腎臓:K欠乏性腎症、慢性糸球体腎炎、腎硬化症、ネフローゼ症候群、急性腎炎回復期
内分泌:原発性アルドステロン症、クッシング症候群、周期性四肢麻痺、続発性アルドステロン症、副腎皮質癌、甲状腺中毒性四肢麻痺
その他:慢性肺疾患(呼吸性アルカローシス)、糖尿病性アシドーシス(インスリン治療)、サリチル酸中毒、体腔性頻回穿刺、低体温麻酔
医原性:利尿剤、抗生物質(ペニシリン、カルベニシリン、アムホテリシンB、副腎皮質ホルモン、緩下剤、過剰の生食、Kを含まない輸液、蛋白同化ホルモン剤

<K欠乏量の算出法>

 Kは細胞内に多く存在するので、血清K濃度からK欠乏量を定量的に算出できません。したがってK欠乏量は血清K濃度から推定して、一応の目安とします。血清K濃度3.5mEq/L以下の場合はだいたい200〜400mEqの欠乏があると推定されます。

 血清K濃度が正常でも体液全体のKが欠乏しているとはいえません。

<治療>

 低K血症の治療は通常急を要しません。一般にまず原因薬剤の減量、若しくは中止とKの補給が行われます。

 血清K値が2.0mEq/L以下で麻痺や不整脈が存在する場合には、KCLの静注を行います。また、経口的にKCL徐放剤によるK補給が行われます。

 K欠乏の多くは低Cl性代謝性アルカローシスを伴うため、KはKClの形で与薬するのが合理的ですが、代謝性アシドーシスを伴う場合には、重炭酸イオンを産生するアスパラギン酸K、グルコン酸Kなどの有機塩を用います。

 日常生活の面では、K含有量の多い食品(豆類、生野菜、果物とそのジュースなど)を積極的に摂取するよう指導します。

 なお、ジギタリス中毒の際の急速なK与薬は、ジギタリスの作用によってKが細胞内へ移行しにくいため、高K血症や不整脈増悪を来すおそれがありますで慎重を要します。腎機能低下症例でも高K血症に対する注意が必要です。


薬とK

*インスリン、テオフィリンには細胞内にKを移行させる作用があります。
 カテコールアミンはβ2刺激作用により、サイクリックAMPを介してNa−KATPase活性を亢進させ、細胞外Kの細胞内への移行を促進させるとともに、インスリンの分泌も促進させます。

*緩下剤の長期乱用で消化管からKが喪失します。


<腎からのK排泄促進>

利尿剤(チアジド系、フロセミド)
甘草(グリチルリチン)はミネラルコルチコイド作用を示します。長期大量で低K血症
アムホテリシンB、ポリミキシンB、カルベニシリンなどは非再吸収性陰イオンとして遠位尿細管腔に存在することにより、この部位の電位差(管腔側が負)が増加し、陽イオンであるK排泄が促進されます。


非溶血性輸血副作用

 GVHD、溶血性副作用、ウイルス感染以外にも輸血により下記のような副作用が発生しています、

<副作用の種類と発生頻度>

* 輸血による副作用の発生頻度は通常の薬剤の10〜100倍です。

蕁麻疹〜48%
アナフィラキシー(様)反応〜4.7%   *注1
アナフィラキシー(様)ショック〜14.1% *注2
血圧低下〜3.7%             *注3
呼吸困難〜5.8%
発熱反応〜19.5%
その他  〜3.2%

注1:アナフィラキシー(様)反応:全身潮紅、蕁麻疹、血管浮腫(顔面浮
   腫、咽頭浮腫等)、呼吸困難等の全身症状を示したもの。
注2:アナフィラキシー(様)ショック:アナフィラキシー(様)反応に血圧低
   下を伴ったもの。
注3:血圧低下:皮膚症状、呼吸困難等の症状を伴わずに血圧低下を
   示したもの。

<使用製剤の種類>

血小板 〜 52.3%
FFP 〜 14.6%
MAP 〜 24.0%
全血 〜 1.1%
白血球除去赤血球 〜 1.0%
洗浄赤血球 〜 1.1%

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