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【社説】

日台関係 尖閣問題の再燃を防げ

2008年6月17日

 尖閣諸島沖で起きた日本の巡視船と台湾遊漁船の衝突事故で、台湾は抗議船や巡視船が日本領海に侵入するなど強硬姿勢を強めている。対立が高じれば改善した日中関係にも悪影響を与えかねない。

 十日に起きた事故で台湾の遊漁船は沈没したが乗員・乗客は全員救助された。石垣海上保安部は十四日、業務上過失往来危険の疑いで双方の船長を書類送検した。

 しかし、同諸島の領有権を主張する台湾は遊漁船船長の書類送検に抗議し、許世楷(きょせいかい)台北駐日経済文化代表処代表(大使に相当)を召還した。

 日本は対台湾窓口の交流協会を通じ、軽傷の遊漁船船長を見舞い海上保安庁の遺憾の意を伝えたが台湾側は明確な謝罪と賠償を要求。十五日には尖閣沖に向かった抗議船に巡視船を同行させた。

 事故で対日強硬論が強まり、劉(りゅう)兆玄(ちょうげん)行政院長(首相)は立法院(国会)で、最終手段として「開戦も排除しない」と述べた。

 台湾は日本が過去植民地支配を行った地域では親日的と見られてきた。日本と外交関係はないが経済や文化の交流は盛んで「反日」世論が強まったのは衝撃的だ。

 尖閣問題の再燃は台湾とともに領有権を主張する中国を刺激することが懸念される。既に中国のインターネットでは「台湾頑張れ」「解放軍は、どこへ行った」などの書き込みが急増している。

 日中両国は先月の胡錦濤国家主席の来日で歴史認識や台湾問題に左右された不安定な時期を脱し、「戦略的互恵関係」を築くことで合意したばかりだ。今週には東シナ海の境界線問題を棚上げした天然ガス田の共同開発で合意し、来週には海上自衛隊艦艇の中国初寄港が予定されている。

 中国で尖閣問題をめぐる対日批判が強まれば、こうした計画も危うくなる。日本政府は長年培われてきた日台の人脈を生かし、一刻も早く事態を沈静化すべきだ。

 先週には中台の窓口機関トップが北京で十年ぶりに会談し、直行の週末チャーター便運航や中国からの台湾観光解禁で合意した。

 中台の緊張緩和は歓迎するが、中華ナショナリズムの共鳴が対日強硬姿勢を招くとしたら日本には悪夢だ。中台接近が東アジアの安定につながることを切に望む。

 台湾の馬英九総統は先月二十日の就任式で米国や日本など「理念の通じ合う」国々との関係を重視すると述べた。その言葉を、もう一度思い起こしてほしい。

 

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