社説

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷
印刷

社説:景気後退期入り 「だからてこ入れ」は間違い

 第二次世界大戦後最長の景気拡大にも終止符が打たれたようだ。6月の月例経済報告の基調判断は「足踏み状態」のままだが、「一部に弱い動きがある」との表現を付け加えた。次は後退と理解できる。

 これに先立ち、内閣府が景気の方向や強弱を探る指標である景気動向指数の4月分をもとに、「景気の局面が変化している可能性もある」との見方を示していた。

 生産、輸出、企業業績と停滞や悪化を示す指標が続いているからだ。

 公式には内閣府の景気動向指数研究会が生産関連の経済指標を精査した上で、転換点を確定する。

 今回の景気拡大は02年2月が起点で、今年3月までとすれば6年2カ月となる。この間、年率2%程度の実質成長であることに加え、名目成長率が一貫して実質を下回っていたため、実感が乏しいとされてきた。前期比・年率で4%に上方修正された1~3月期も、前年同期比では伸びが引き続き低下している。

 世界的にも、米国では昨年から景気が弱含み、後退期入りしているとの見方が有力だ。ユーロ圏の成長率も高くない。先進国経済の後退期入りは、途上国経済にも影響を及ぼす。

 いま最重要の課題は、原油や食糧の価格高騰からくるインフレの抑制である。景気が悪化する下でのインフレは最悪のシナリオだからだ。国際的に物価が新体系に移行しつつあり、困難な問題だが、国内物価への転嫁を段階的に進めることや、金融政策などで、経済への影響を緩和する努力を払う必要がある。

 一方で、景気拡大などの対策には慎重であるべきだ。とりわけ、日本は景気が後退期に入ったからといって、景気てこ入れをするような状況にはない。

 景気が下降局面に入ったからといってマイナス成長に陥るわけではないからだ。最近の国内総生産(GDP)の動きから、当面、実質1~2%の成長は維持していく可能性が大きい。

 広い意味で持続的成長の範囲内だ。家計部門の不安を軽減する社会的セーフティーネット充実などの施策や、格差対策、新たな成長のための研究開発促進策は将来も見据えて必要だろう。しかし、政治からの要求があっても従来型の財政出動はすべきではない。

 むしろ、生産や付加価値に着目した経済から、安全、安心の確立や社会生活の充実を満たす経済への転換の好機ととらえるべきだ。

 日本は依然、モノづくりでは世界的に優位にある。そこで、成長率が1、2%程度でも生活、文化などの充実感が損なわれないような経済社会を模索することである。言い換えれば、持続可能な発展を本物にすることだ。投資の方向もおのずと異なってくる。

 その萌芽(ほうが)でもいいからぜひとも見たい。

毎日新聞 2008年6月17日 東京朝刊

社説 アーカイブ一覧

 

おすすめ情報