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国の財政がこんなに厳しく、国民も苦しい懐から税金を払っていることを、官製談合事件で逮捕された国土交通省の現職局長はわかっていたのだろうか。
札幌市にある出先の北海道開発局の部長時代、同省発注の河川工事で競争入札をしたにもかかわらず、あらかじめ落札業者を決めておいて談合を主導した。これが逮捕された品川守北海道局長の容疑だ。
共犯として逮捕されたOB2人は建設業界に天下りしており、落札業者を決める調整役を務めたらしい。
またしても、絵に描いたような官製談合である。
天下り先を確保し続けるために、天下りを受け入れる企業に工事を優先的に分配する。競争入札は有名無実になり、高値での落札が続いても、お構いなしだ。納税者に被害を与えておいて、自分たちの退官後は安泰というのでは、許しがたい組織犯罪というほかない。
国交省は政府発注の公共事業の8割を扱い、他の省庁や自治体に対して談合防止を求める権限を持たされている。先頭に立って談合をなくしていかなければならない立場なのだ。それなのに、昨年も水門工事の官製談合が発覚したばかりだ。
今回の官製談合が行われたのは05年だという。その3年前に官製談合防止法が成立していた。まるで法律に込められた国民の期待をあざ笑うかのような振る舞いである。
本省の局長が逮捕されるのに先立ち、北海道開発局では幹部やOBらが農業土木工事をめぐる官製談合で摘発されている。農業土木から河川工事へと事件は広がった。
土木建設業の比重が高い北海道では、小泉改革で公共事業が半減し、仕事の取り合いが激しくなった。工事が減ることは公務員にしてみれば天下り先が先細りになることであり、官製談合をしてでも天下り先を確保したいと躍起になったのではあるまいか。
だが、こうした事情は北海道にとどまらないだろう。天下りをなくさない限り、公共事業には官製談合がまとわりつく。公共事業に頼るしかないような地域経済の構造は変えねばならないが、天下り先を確保するために、必要もない工事をわざわざつくることにもなりかねない状態は放置できない。
公務員の再就職を一元的に管理する新人材バンクが年内に設けられる。各省ごとのあっせんを禁止するので、天下りの受け入れに伴う企業のうまみもなくなり、押しつけ的な天下りはなくなると政府はいうが、それは甘い。
今回のような官製談合を見せつけられるにつけ、天下りそのものを禁止しなければ解決策にならないという思いを強くする。
天井知らずの原油高騰を「第3次石油危機」(ブラウン英首相)と呼ぶ声が出始めた。ニューヨークの先物相場は年初から4割も上がり、1バレル=140ドルに迫っている。
途上国で石油製品値上げに反対する暴動やデモが起き、航空・運輸産業などがリストラに乗り出した。国内でもガソリンの高騰が家計や企業を圧迫している。漁業団体は燃料高に悲鳴をあげて大規模な休漁を検討中だ。
原油需給だけにもとづく本来の相場は「60ドル程度」(経済産業省)とも言われる。それをマネーゲームがここまであおったのだ、と各国政府は苦々しい思いでみている。
だが、米国の金融大手には「相場は近く150ドルに達する」との予測もあり、高騰はまだ続くとの見方が広がっている。というのも最近は、逃げ足の速いヘッジファンドだけでなく、巨額の資金を長期的な視点で運用する米国などの年金ファンドが原油投資に乗り出しているからだ。
さすがに産油国側も懸念しはじめたようだ。石油輸出国機構(OPEC)の盟主サウジアラビアの呼びかけで、産油国と消費国の緊急首脳会議を22日に開くことになった。
とはいえ、OPECの増産余力にも陰りが出ている。一方で、中国やインドなど新興大国の需要が今後も大きく膨らむのはまちがいない。年金ファンドが参入したのは、需給を長期的にそう見ているからだろう。
70〜80年代の2回の石油危機は、中東産油国による生産制限や値上げによって引き起こされた。このとき、世界の原油供給力は十分にあった。今回の危機は、将来の供給力不足に市場が警告を与えたものと言ってもいい。
それでも、エネルギー不足に陥ってしまうと悲観ばかりする必要はないかもしれない。超原油高が続けば、これまで採算がとれずに投資できなかったオイルサンドや深海油田の大規模開発が始まるとみられるからだ。
問題は、地球温暖化という難題を同時に解決する必要があることだ。
国際エネルギー機関は最近、2050年に温室効果ガスを半減させるための試算を発表した。
世界で32基の原子力発電所、1万7500基の風力発電、約2億平方メートル分の太陽光発電パネル、それに実用化をめざしている二酸化炭素の回収・貯留装置つき発電所55基を、毎年導入する必要があるという。電気自動車、燃料電池車も合計10億台がそれまでに普及するのが条件だ。50年までの世界の総投資額は5千兆円近くにのぼる。
年金マネーのような長期投資が、こうした分野へこそ向かうよう誘導すべきだ。原油高が世界経済を壊す前に、洞爺湖サミットなどの場でその方策を打ち出していく必要がある。