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2008年6月17日

◎サミットに輪島塗 「漆はジャパン」を広める好機

 七月の北海道洞爺湖サミットで、輪島塗の盃(さかずき)が歓迎夕食会の乾杯用として 採用されることは、能登半島地震からの復興をアピールするだけでなく、漆や漆器を意味する「ジャパン」の呼び名や、その代表格である輪島塗の魅力や価値を世界へ発信する千載一遇のチャンスである。

 世界的には、言葉の意味として「漆器=ジャパン」は通じなくなっていると言われる。 だが、昨年は輪島塗とルイ・ヴィトンの共同制作が実現し、米国人向けアクセサリーの開発も進められるなど、輪島塗が海外で受け入れられる大きな可能性を感じさせた。西洋の人々のあこがれも込められていたとされる「ジャパン」の名を海外で再び広めることは決して夢ではないだろう。

 世界が注目するサミットの、しかも各国首脳が乾杯するという象徴的な場面で酒器とし て用いられることは、数ある伝統工芸品の中でも輪島塗が「日本代表」であることがあらためて証明されたと言える。産地は自信をもって海外の販路開拓や国内での需要拡大に取り組んでほしい。

 英和辞典には「japan」は「漆、漆器」という意味が記載されている。近世などに 漆器が海外に渡り、西洋の人々の間に知られてこの呼び名が生まれたらしい。漆器が日本文化の象徴的な存在として西洋の人々にも認知された歴史を示す言葉とも言えるのだが、「ジャパン」が過去の栄光を語るキーワードだけではやはり寂しい。

 輪島塗をはじめとする漆器は、日本の自然、風土の中で育まれた文化であり、環境を主 要テーマとする洞爺湖サミットにふさわしい工芸品である。与えられた晴れ舞台を生かし、「漆器=ジャパン」を辞書の中だけにとどめず、生きた言葉として復活させたい。そうした認識が世界に広がっていけば、輪島塗の海外への道も自ずと開けていくだろう。

 「漆はジャパン」は、輪島塗業界にとっても、その言葉が生まれた時代の活気を取り戻 すという点で海外戦略の合い言葉となろう。サミットで国際的な知名度が高まれば、世界無形文化遺産登録運動の追い風にもなるはずである。

◎第3次石油危機か 政府は対応を示さねば

 最近の原油価格急騰で、世界全体の国内総生産(GDP)総額に対する原油購入費の割 合が上昇し、二〇〇八年は一九七九年に起きた第二次石油危機時に迫る見通しであることが国際エネルギー機関(IEA)の試算で分かった。このためIEAの田中伸男事務局長は「世界は第三次石油危機といえる」との懸念を表明し、産油国の生産増強などの必要性を指摘した。

 結論からいえば、政府は事態をどう見ているのか。どのような対応を考えているのか。 国民に示さねばなるまい。内閣府が先日発表した景気動向指数の水準低下から、〇二年から続いていた戦後最長の景気拡大局面がついに終了した可能性があり、変化に対応する必要が出ているからである。

 こうした中で、七月の北海道洞爺湖サミットを前に主要国(G8)財務相会合が十三、 十四の両日大阪市で開かれ、焦点の原油高やこれに伴う物価上昇の対応策を話し合ったが、フランスやイタリアは金融市場の混乱を避けた投機資金が商品市場へ流入した影響が大きいとしたのに対して、米英は中国など新興国のエネルギー需要増大が需給逼迫(ひっぱく)の主因だと主張し、問題解決の難しさが浮き彫りになった。

 こうしたやりとりから、米連邦準備制度理事会のグリーンスパン前議長が在任中に世界 の油井や石油精製施設への投資が低迷し、そのために機能がほとんど向上していないからエネルギー逼迫は長期化するだろうと警告したことを思い出すのである。

 投資の低迷は、二度の石油危機で消費国の省エネが進み、原油価格を引き下げたことに 起因する。油井はともかく、石油精製施設の機能が向上していないとしたら、増産しても対応できない。米英はそのように見て、新興国の需要増が需給逼迫を招いたと主張した。

 投機資金もそこに目を付け、混乱する金融市場を避けたと考えられる。G8財務相会合 は一致して当たる対応策を具体的に打ち出せなかった。消費国は省エネ技術をさらに強力に発展させねばならないのだろう。


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