診療科の収支、10年改定で反映か
病院経営に掛かるコストを診療報酬に反映させる目的で調査を進めてきた池上直己・慶大教授の研究グループはこのほど、中央社会保険医療協議会(中医協)の分科会で、2007年度の「医療機関の部門別収支に関する調査研究」の結果を報告し、「診療科」を単位として病院の収支を把握する手法を大筋で了承した。今年度の調査についても、「診療科別の収支」を調査することを了承したため、中医協で正式に承認されれば、10年度の診療報酬改定では、診療科ごとの収支状況を診療報酬に反映する可能性が出てきた。
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6月4日の中医協
「再診料」の議論が再開
DPC準備病院の募集始まる 中医協の診療報酬調査専門組織「医療機関のコスト調査分科会」(会長=田中滋・慶大大学院教授)が6月13日に開かれ、07年度調査の結果について池上教授が報告した。今回、調査の対象となったのは、DPC(入院医療費の包括払い)を導入している88病院で、病床規模は、「20−199床」が23施設(26.1%)、「200−499床」50施設(56.8%)、「500床以上」15施設(17.0%)となっている。
調査結果によると、病院の診療科別の収支については、06年度の前回調査とおおむね共通した傾向が見られ、入院が黒字、外来は赤字だった。また、各病院が標ぼうしている診療科を「内科系」「外科系」「産婦人科系」に分けて収支状況を見たところ、「産婦人科系」(産科、婦人科、産婦人科)は黒字だった。
質疑で、椎名正樹委員(健保連理事)は、診療報酬改定の際に参考にされる「医療経済実態調査」との関係を質問。「医療経済実態調査の不備や問題点が昨年の中医協総会などで議論になった。一方、この分科会は03年3月の『診療報酬体系の基本方針』を受けて設置され、大きな目的として、『医療機関のコストを診療報酬に反映させる』という柱があった。今後、(今回の調査を)どれだけ実践に使えるような調査として実施していくのか」
これに対し、厚生労働省保険局の担当者は次のように述べ、中医協で議論していくべきとの考えを示すにとどめた。
「前回の医療経済実態調査については議論があった。今回の調査について、医療経済実態調査を補完するような形にしていくかは中医協で議論してもらう。医療経済実態調査が、『医療機関の収支が全体としてどうか』という調査であるのに対して、今回の調査は(病院の診療科別収支という)中身の分析。これを診療報酬改定の基礎資料としてよいかどうかを議論してもらいたい」
■ 医師報酬の分析、「意味があるのか疑問」
「外来が赤字」との調査結果について、オブザーバーとして出席した中医協委員の藤原淳氏(日本医師会常任理事)は「基本診療料の影響がどの程度読み取れるか」と池上教授に質問。池上教授が「個別の診療行為についての分析はしていない。何が原因かは分析していない」と回答したところ、藤原委員は「調査の精度を上げれば、『ドクターフィー』と『ホスピタルフィー』を分けて考えられるところまで行き着くのか」と改めて尋ねた。
池上教授は次のように述べ、病院の収支状況は「診療科」を一つの単位として分析すべきとの考えを強調した。
「私見だが、『ドクターフィー』とは何かよく分からない。例えば、DPCの出来高部分は『ドクターフィー』ではない。手術料、看護師や臨床工学技士の人件費も含まれるので、それを『ドクターフィー』と言うのは適切ではない。医師の人件費だけを取り出して別建てで算定しても役に立たない。勤務医であるなら、診療科が一つのマネジメントの単位。診療科としての収支を見た方が有意義だ」
池上教授は、地方における診療科の統廃合の問題に触れながら、さらに続けた。
「統廃合の理由は、診療科としての収支が問題だからだ。08年改定前の値だが、産婦人科は診療科として見たら黒字だった。従って、日本の場合、『ドクターフィー』という医師の報酬だけを取り出して、どれだけ意味があるのか疑問がある」
田中会長は「大変重要なご指摘をいただいた。的確な答えだ」と評価。「管理会計は管理のユニットがコストなので、医師が(ユニットの)外側に存在する独立のマネジメントの単位でない以上、日本の管理会計のユニットは診療科であるという分かりやすい説明だ」
■ 地域格差の分析、「現在では無理」
これに対し、猪口雄二委員(医療法人寿康会理事長)は次のように述べ、地域格差の問題を指摘した。
「病院経営という視点で見たとき、地域の格差がある。経営に影響するのは、減価償却費と固定資産税で、これらは明らかに都市部が高い。今回の調査で、地域格差や税の問題、減価償却費などの問題が明らかになるのか」
池上教授は「残念ながら、現在のデータ数では無理」と回答した。「病院の財務状況は個別に違う。大都市部で減価償却費や税が高くなるという一定の傾向を示すためには、それなりの病院数を規模や経営主体別に集めないと比較できない。今回の調査では、都市部での一定の傾向を見いだすことを裏付けるデータは抽出できなかった」
更新:2008/06/16 21:10 キャリアブレイン
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