話題

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷
印刷

特集ワイド:言いたい! 官僚の「居酒屋タクシー」

 深夜帰宅の「居酒屋タクシー」で、ビールやおつまみの接待を受け、現金や金券、米袋までもらっていた霞が関の官僚たち。かつてはノーパンしゃぶしゃぶというのもあった。官僚の幼稚な行動はなぜ止まらないのか。【國枝すみれ】

 ◇「無駄遣いに罰則なし」が問題--若林亜紀さん(ジャーナリスト)

 居酒屋タクシーやタクシー券の無駄遣い問題は、霞が関の金銭感覚を象徴している。

 私は約10年間、厚生労働省や財務省の天下り先であった特殊法人(現在は独立行政法人)に勤務していた。当時は自分たちが使っている金は税金、公金であるという感覚は薄かった。現在も「公金だから大切に使おう」とは思っていないと思う。

 例えば、タクシー券は午後11時を過ぎれば自由に使えた。内部の飲み会でもタクシー券を配る。宴会費用も公金から出る会議費であることが多かった。

 当時は海外出張で航空券をビジネスクラスの正規料金で購入すると、航空会社から3万円の払い戻しがあった。その金を自分の懐に入れることは普通だった。格安チケットを購入し、差額を手にする人もいた。

 待遇が悪いからせこくなるわけではない。国家公務員の平均年収(06年)は残業代など各種手当を含めると約814万円にもなる。資本金10億円以上の大企業に勤める正社員の平均年収は616万円だ。

 民間会社が売り上げ増を目指すのと同じで、官庁はより多くの予算獲得を目標にする。必要以上に予算枠を獲得した結果、年度末には今度は余った予算を消化しなくてはいけなくなる。3月が近くなると、私も上司から「お母さんと好きな所に旅行に行ってきなさい」と出張を促され、現金を渡された。最近では、年度末に集中しないように10月ごろから「今年は計画的に使い切ってください」というお達しが出ると聞いている。

 当時の上司は「海外労働事情の視察」と称して毎月、ファーストクラスで海外に出張して美術館巡り。訪問先は7年間で78カ国に達した。私も98年と00年に「労働問題の研究機関との意見交換」という名目で米国に行ったが、実態はシンクタンクを訪問して名刺交換しただけだ。

 会計検査院の検査は3カ月から半年前までに検査日の連絡がくるので、それに向けて隠ぺい工作する。初日に調査員を料亭で接待し、タクシー券を渡して帰すと、2日目はこない。

 役所に金が余っていること、無駄遣いしても罰則がないことが最大の問題だ。今回、居酒屋タクシーが騒がれたことで、官僚たちはタクシー利用は慎むだろうが、その金は玉突きで他のところに回るだけだ。

 こうした状況を個人で改善するのは難しい。海外視察旅行を格安チケットで手配したら、部長に「他とバランスが取れない」と怒られた。「銭湯に行ってきます」と言って毎日3時間は戻ってこない後輩に文句を言ったら、財務省から出向していた課長から「(残業代は)自分の金じゃないのに、ぎちぎち言うな」と怒られた。

 01年12月、私は週刊誌に実態を告発し、職場を辞めた。「職場の秩序を乱した」として退職金を1割減らされたので、退職金請求訴訟を起こし、最高裁で05年9月、勝訴が確定した。

 役所には自浄能力がない。マスコミや市民が厳しい目を向けていかなければいけない。

 ◇「社会のために」…誇り持って--寺脇研さん(元文部官僚)

 官僚にとって一番重要なのは、公正であること。現金やクオカードなど金券をもらった公務員は贈収賄と同じ。厳正に処分されるべきだ。

 タクシー券は公費。ビールを出してくれるから、現金をくれるから、と特定のタクシーを指定して乗るとしたら、ゴルフ接待してくれた業者に1億円の事業を発注するのとスケールは小さいが構図は同じ。プチ汚職だ。国家公務員倫理法に違反している。

 だが、たまたま乗ったタクシーからビールやジュースをもらったことまで厳しく責めるのはどうか、と思う。

 大蔵官僚が銀行から接待漬けされていたノーパンしゃぶしゃぶ事件(98年に発覚)や防衛省の守屋武昌前事務次官の収賄事件の場合、「おれたちは特別に遇されてもいいんだ」という高級キャリア官僚の思いあがりが根底にあった。しかし、居酒屋タクシーの場合は、残業するノンキャリアか若手キャリアが使った。次元が違う。

 官僚の95%はノンキャリア。天下り先もないし、ノーパンしゃぶしゃぶなど行ったこともない。圧倒的に多くの公務員は時代錯誤の尊大型でもなく、仕事をサボっている矮小(わいしょう)型でもなく、まっとうに仕事をしている。彼らが働きやすい環境をつくるのが大切だ。官僚たたきをするなら、さまつな部分ではなく、的を射た攻撃をしなくてはいけない。そうしないと士気が下がる。

 中央官庁ではタクシー自粛の雰囲気が出てきて、一部では残業で終電がなくなってもタクシー券が出ないという状況になっている。霞ケ関駅の土曜日の始発電車に乗ってみれば、未明まで働いた後で家路につく官僚の姿がみられるだろう。平日は始発で帰っても、朝の登庁がきついからソファで仮眠しているが、土曜日はさすがに帰るからだ。こんなことで過労死させてどうするのだ。

 構造的な原因は残業だ。予算編成と国会対応。小泉政権以降、スタンドプレー的な行政改革が増え、その資料づくりや反論などで、官僚の残業が大幅に増えた。これは新法を作るときのような前向きの忙しさとは違う。

 天下りだって、全員がしたくてするわけではない。天下りを全廃するなら65歳まで定年延長すべきだろう。独立行政法人への天下りは全部だめ、という議論は雑だ。元官僚が再就職をすることが、国民にとってメリットがあるかどうかを個別に精査すべきだろう。

 大事なことは、80年代以降は官僚の役割が変わったということを理解することだ。経済が右肩上がりのときは予算は増大し続けた。官僚の仕事は多くの予算を獲得し、それをばらまくこと。国民のために橋や病院をつくり、福祉や教育を充実させた。だから官僚神話ができた。

 しかし、いまの官僚の仕事は税を上げ、国民に我慢してもらうことを提案することだ。180度の転換だ。国民に嫌われる職業だと承知した上で、社会全体のために働く。それが誇りという人こそ官僚になるべきだ。

==============

 ◇「夕刊特集ワイド」へご意見、ご感想を

 t.yukan@mbx.mainichi.co.jp

 ファクス03・3212・0279 

==============

 ■人物略歴

 ◇わかばやし・あき

1965年生まれ。01年まで、日本労働研究機構(現在の労働政策研究・研修機構)勤務。著書に「公務員の異常な世界」(幻冬舎新書)。

==============

 ■人物略歴

 ◇てらわき・けん

1952年生まれ。文部科学省でゆとり教育を推進。退職を勧奨され、06年11月に退官。現在、京都造形芸術大学教授。著書に「官僚批判」(講談社)。

毎日新聞 2008年6月16日 東京夕刊

検索:

話題 アーカイブ一覧

 

おすすめ情報