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2008年05月22日 

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GDPと景況感がこれほどズレる理由
夏前から「景気減速」本格化か

 景気の先行きに対して不安が募っていることは、企業経営者や一般消費者の景況感を調査した「日銀短観」(企業短期経済観測調査)、「消費動向調査」を見ても明らかだ。

 たとえば、日銀短観の「業況判断DI」は、昨年第1四半期と比べて12ポイントも下落。消費動向調査の「消費者態度指数」は、同じく10ポイント以上も低下している。

景況感が織り込まれれば
実質GDPマイナスも

 そもそも関連性を論じることは適切でないが、「GDPと一般の景況感にこれほどギャップが生じることは、過去にもあまり例がなかった」(新家義貴・第一生命経済研究所経済調査部主任エコノミスト)というのも事実。これはいったい何故なのか。

 その原因は、実は「GDPの計算法」によるところが大きい。円高や物価高の影響が正確に織り込まれていないのだ。

  ごく単純に言えば、GDPは一定期間内に生じたモノやサービスの付加価値額を全て足し合わせた経済指標である。本来、円高の悪影響は貿易額に織り込まれるべきだが、モノやサービスが日本から輸出される時点の円ベースで計算されるため、最終的な為替差損は直接考慮されない。とりわけ、巷で最も重視されている実質GDPは、物価を織り込んだ「名目GDP」から物価変動の影響を除いて数量ベースで計算しているため、原燃料高の影響も反映されない。ちなみに名目値は上昇しているものの、「まだ実質値より低く、デフレ傾向が続いている」(内閣府)という。

 「円高による企業収益の悪化は設備投資減少、物価上昇は消費減退などを招くため、それらの影響は結果的にGDPに織り込まれる」(内閣府)とはいえ、正確な影響額はよくわからないし、影響が波及するまでにはタイムラグが生じるのが一般的だ。

 目下、企業や個人のマインドを冷やしている最大の要因は、円高や原燃料価格の高騰だ。それらの影響が正確にわかりずらいため、実質GDPだけで「足元の景気」を正確に判断することは難しいと言えそうだ。

 とはいえ、「企業業績や家計の悪化は、当然ながら今後の経済成長に無視できない影響を与える」(門司総一郎・大和住銀投信投資顧問株式運用部チーフストラテジスト)。

 では、先行きの景気はどうなるのか。

 GDPの構成要素で見ると、この1-3月期に日本の経済成長を牽引したのは、新興国向けが増えた「財貨・サービス輸出」(+4.5%)、閏年で計算対象期間が増えて底上げされた「民間最終消費支出」(+0.8%)、改正建築基準法による住宅着工件数減少の反動需要が現れた「民間住宅投資」(+4.6%)など。しかし、今後は景気減速中の米国向け輸出減少、さらなる物価上昇による消費減退、買い控えによる住宅需要の頭打ちなどが起きると言われている。

   「夏前から景気減速感が強まり、08年度の実質GDPは当初予想を下回る+1.7%に留まる見通し」と分析するのは新家エコノミスト。「4-6月期以降の実質GDPは連続でマイナス成長に陥り、通年の成長率が1%台を割り込む」と予想する専門家さえいる。

 最近では速報値と改定値のズレも大きくなっているが、少なくとも現状では、景気の先行きを楽観視することはできなそうだ。われわれがテレビや新聞を見て本当に危機感を抱くのは、景況感とGDPとのギャップが縮まる「これから」なのである。

(ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)

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