2008年05月22日
GDPと景況感がこれほどズレる理由
夏前から「景気減速」本格化か
「あり得ない数字だ」
東アジアで手広く事業を手がけている中堅精密機械メーカーの営業担当者は苦笑する。
円高や原燃料高により、今期十数億円の営業減益予想を打ち出した同社を取り巻く環境は、まさに「逆風」以外の何ものでもない。もちろん、同業他社はどこも似たかよったかの苦境にある。にもかかわらず、「テレビや新聞で報道される経済指標を見ると、まるで日本の景気が好調であるかのような錯覚を覚える」(担当者)というのだ。
その「あり得ない数字」というのは、5月中旬に内閣府が発表した2008年1-3月期の実質GDP(国内総生産)速報値である。
これが大方の予想に反して、意外なほど好調だった。1-3月期の実質GDP成長率は前期比+0.8%となり、年率換算では、07年1-3月期以来最高となる+3.3%を達成したのだ。
過去1年間の年率データを見ると、景気の減速感が強まって設備投資が落ち込んだ2007年4-6月期の▲2.5%以降、7-9月期が+1.1%、10-12月期が+2.6%と、実質GDPは徐々に回復してきた。今回で3四半期連続のプラス成長となる。「統計の王様」と言われるGDPの伸びを見れば、「日本経済の堅調さは疑うべくもない」と言える。
実質GDPは好調でも
景況感は悪化の一途
しかし、冒頭の関係者が驚くように、GDPと一般の企業や個人が肌で感じる「景況感」とのあいだには、大きなギャップがある。「単なる経済指標に過ぎない」と言ってしまえばそれまでだが、これだけ世に与える影響力が大きい指標だけに、気になるところだ。
実際、このところ日本では景気を冷やしかねない数々の問題が発生している。昨年には、改正建築基準法の影響で住宅着工件数が大幅減少したり、米国の金融不安に端を発するサブプライムショックが発生した。さらに今年に入り、原燃料価格高騰による物価上昇や円高への不安がいよいよ強まっている。企業は利益の捻出に四苦八苦し、個人のサイフのヒモは一段と固くなった。
「決算期が迫っているため、少しでも多く売り上げを計上しないと、銀行から次の融資を受けられない。建材価格の高騰でコストは2割もアップしているが、500万~1000万円も値下げしないと家が売れない。まさにジリ貧、バナナの叩き売り状態だ」(中堅住宅メーカー)
「乾いた雑巾を絞るようにコストカットを行ない、納入価格を下げてきたが、業績が悪化した得意先の自動車メーカーから、先日ついに契約解除を持ちかけられた。これではもう人員整理しかない」(中堅自動車部品メーカー)
景気がよいどころではない。こんな悲鳴が、そこかしこから聞こえてくるのが現状なのである。
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