中国経済が過熱気味の状態を続け、インフレ圧力は強い。中国政府は四川大地震からの復興と景気過熱抑制の両にらみの政策を追求するが、株価下落も懸念材料になり、より複雑な経済運営を迫られている。
中国国家統計局が発表した5月の消費者物価指数は前年同月比7.7%上昇した。4月の8.5%上昇に比べると0.8ポイント低い。昨年来の物価高騰の主役となってきた豚肉価格の上昇率が低下したこともあり、4カ月ぶりに8%台を割り込んだ。
豚肉の大産地である四川省の地震の物価への直接的影響は予想より小さかったようだが、政府が電力料金やガソリンなどの小売価格を統制して消費者物価を低く抑えている構造的問題も指摘すべきだ。消費者物価上昇の勢いがやや鈍ったとはいえ、実際のインフレ圧力はなお強い。
5月の工業品出荷価格指数(卸売物価指数)は8.2%の上昇で4月より高まった。特に原材料やエネルギー価格の上昇が目立つ。小売価格を上げられないため操業をとりやめた製油所もあり、一部の地方では石油製品の不足が表面化している。
海外の投機的な資金の流入で外貨準備は急増している。5月末の通貨供給量(M2)は前年同期比18.1%増と4月末に比べ1.2ポイント拡大した。足元のインフレ圧力はむしろ強まっているおそれがある。
中国政府は「穏健な財政政策と金融の引き締め政策」をマクロ経済運営の基本に据えてきたが、被災地の復興のため今後は大規模な財政出動を避けられない。「穏健な財政政策」の維持は困難とみられ、その分、金融政策の重要性が増しそうだ。
中国人民銀行は7日、市中銀行から資金を吸い上げる預金準備率を1%上げ、17.5%にすると発表した。準備率引き上げは今年すでに4回実施していたが、今回は物価指数発表に先立つ抜き打ち的な措置だったうえ、上げ幅も2倍にした。
引き締めを強めた形だが、投機的な資金流入を抑えるために金利引き上げに踏み切れない苦しい事情もうかがえる。引き締めと同様の効果を期待できる人民元の対ドル相場上昇誘導も、投機資金の動きをにらんで微妙な対応が必要になってきた。
準備率引き上げを受けて株価は急落し、上海総合指数は終値ベースで1年3カ月ぶりに3000を割り込んだ。過度の引き締めとの声が一部で出始めているが、エネルギー価格改革の環境を整えるためにも景気過熱とインフレの抑制に力点を置いた金融政策は不可欠だ。経済運営のかじ取りは一段と難しくなっている。