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水から電気を作る「ウォーターエネルギーシステム」続報、販売権を取得しようとした会社に直撃取材



各メディアでも大絶賛報道中の、水から電気を作り出す「ウォーターエネルギーシステム」ですが、2004年11月に「住井電気株式会社」がウォーターエネルギーシステム事業の販売権を取得しようとしていたらしいことが大阪府の経営革新支援法のページから判明しました。

というわけで早速、現地に飛んで取材してきましたが、そこで待ち受けていたのは驚愕の事実でした……。

レポートは以下から。
その前にまずはおさらい。発端は先週の6月12日に大阪府の議員会館2階で行われた発表会でした。

水から電流を取り出すことを可能にした新しい発電システム「ウォーターエネルギーシステム」を見に行ってきました - GIGAZINE

当日は日経エレクトロニクスや関西テレビ、よみうりテレビ、テレビ大阪などが来るという人気で、民主党・無所属ネット議員団のまちづくり部会長「中川隆弘」議員と環境農林部会長「森みどり」議員も出席。さらにほかの議員も興味を持ってやってくるという感じでまさに大盛況でした。

しかし、「企業秘密」のベールに覆われた謎のウォーターエネルギーシステムが出てくると同時になんだかわけのわからないことに。どう見ても永久機関っぽい……水を注ぐだけでエネルギーが無尽蔵に出てくる……?

水から電流を取り出す「ウォーターエネルギーシステム」デモムービーいろいろ - GIGAZINE

現場には学識経験者やこういったことに詳しい専門家が不在であったため、このシステムがおかしいと感じながらもいまいちツッコミきれないという歯がゆい結果に終わりました、無念。

真偽判断に役立つ「ウォーターエネルギーシステム」に対する各報道陣からの質疑応答いろいろ、そして現時点での結論 - GIGAZINE

とりあえず詳細がわからないので現時点では「ウォーターエネルギーシステム」を信じることはできないという結論に。

さらに調べてみると、以下のPDFファイルに今回の「ウォーターエネルギーシステム」の特許出願内容が書いてあることが判明。審査請求が「未請求」になっているため、特許としたいのであれば、出願から3年以内に出願審査の請求が必要、つまりまだ「特許」になっていないというわけ。特許として認められたわけではないという点が重要です。

http://kantan.nexp.jp/pat_pdf/A/2006/14/2006244714.pdf
【課題】常温下で、燃料として純水を用いて発電を行うことのできるウオーターエネルギーシステムを提案すること。

【解決手段】ウオーターエネルギーシステム1は、一般的な燃料電池と同様に、そのセルが、触媒2を挟み、燃料極3と酸素極4が対向配置された構造となっている。燃料極3として、ゼオライト、コーラルサンドおよびカーボンブラックの微粒子粉末の焼結体に白金が担持されたものを用いており、酸素極4として、ゼオライトおよびカーボンブラックの微粒子粉末の焼結体にルテニウムが担持されたものを用いている。純水5を燃料極3に供給し、酸素極4に空気を送り込むと、常温下において発電する。

内容を示したのがこの図。「触媒2」というのが企業秘密らしいのですが、このようなものが存在すれば世界中が大騒ぎになるレベルの物質です。


もし審査請求をする場合、市販品であればその詳細な配合比率などを明記しなくても良いのですが、今回の「触媒2」は当日の説明では企業秘密、つまりオリジナルのモノということなので、特許の審査請求をすると詳細な説明をする必要があり、説明をしない場合、審査請求をしてもこのままではこの特許出願は通りません。つまり、この特許出願それ自体にはほとんど意味がありません(同様の特許出願を防ぐ意味だけがある)。

さて、各メディアの現在までの報道の様子ですが、テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」では「水で走る自動車[08/6/12]」ということで紹介され、YouTubeで見ることができます。

YouTube - 水だけで走る電気自動車?・・・


さらにフジテレビのめざましテレビ内にてこのウォーターエネルギーシステムが紹介され、読売テレビの「ニューススクランブル」と思われる番組でも以下のような感じで放送されたようです。何この水の色……。

YouTube - ちょッwwwスゴい!水で走る車を発表!究極のエコカー☆


また、日経エレクトロニクスが以下のページで記事にしており、「技術系のサイトが無批判でこういう記事を垂れ流しては信憑性が問われる」として、該当記事のコメント欄などで問題になっています。

「水と空気だけで発電し続けます」,ジェネパックスが新型燃料電池システムを披露 - グリーン・カー - Tech-On!

【続報】ジェネパックスが水素生成のメカニズムを明らかに。ポイントは金属または金属化合物の反応制御 - 電子部品テクノロジ - Tech-On!

そして今回問題となっているのが、大阪府のホームページの「経営革新支援法経営革新計画」のページ。今回のウォーターエネルギーシステムと思われるモノの製造販売について「住井電気株式会社」が何をしようとしたかが書いてあります。

経営革新支援法経営革新計画承認企業(平成16年11月)

水の電子分解による水素・酸素ガスエネルギーシステムの製造販売への取組み】
同社は水の電子分解による酸素・水素混合ガスエネルギーシステムの開発に取組み、特許申請者から大阪府北摂地域におけるウォーターエネルギーシステム事業の販売権を取得し、製造・販売戦略をたて、同システムの、メンテナンスもてがけるとともに、営業体制の確立(ボイラー業界全般・発電需要全般・駆動装置関連・その他のエネルギー装置全般をターゲットをする市場の開拓)を図り売上の大幅な向上を目指す。本ウォーターエネルギーシステムは、安全性・小型化・環境保全・経済性のいずれも特筆される画期的な次世代のエネルギーシステムである。このようにして新たな取り組みによって、当社の経営革新を図るものである。

「住友+三井=住井」みたいな妙な名前ですが、それはともかくとして、先週の12日になるまでまだ誰も知らなかったウォーターエネルギーシステムについて、実に約4年前の2004年にいち早くそのことを知るというのはほぼ不可能のはず。一体どういう経緯でこのようなことになったのかが気になります。何か我々の知らないことを知っているかもしれません。

というわけで、上記ページに書いてある住所、大阪府茨木市の現地に飛んでみました。

この住所が現地らしい。印刷した地図を見る限りでは何か建物があるっぽい。


このあたりのはずなのですが……


ん……?


どう見ても空き地です


別の方向から見てみた。


向こう側は駐車場になっていました。


ついでに撮影してみました、こんな感じ。何もない。


近所の人に聞いてみたところ、去年の10月にはここにあった建物は取り壊されていたとのこと。前に建っていた建物の西側は営業していない閉店した喫茶店で、コーナーのところにはシャッターが閉めっぱなしの謎の店っぽいものがあったとのこと。側に物置があり、しめって腐ってぼろぼろになっており、人が出入りする様子も見受けられず、何か会社をしているとかそういう状況ではなかったそうです。

そもそも存在すらしていないような雰囲気なのですが、大阪府のページに書いてある電話番号に電話してみましょう。何か手がかりがつかめるかもしれません。

そしてこの電話番号に電話したところ、もう使われていないとのこと。一体どこに消えたのでしょうか……。


限りなく怪しい会社ですが、とりあえず、大阪府の「経営革新支援法」の承認を受けると何ができるのかを見てみましょう。

本法に基づく支援策の概要について
1.販路開拓支援補助金制度
2.政府系金融機関による低利融資制度
3.保証協会の保証付融資制度
4.高度化融資制度
5.各種税制措置
6.中小企業投資育成株式会社法の特例
7.ベンチャーファンドからの投資
8.研究開発型中小企業に対する特許関係料金減免制度
9.販路開拓コーディネート事業

あくまでもこれらの支援策を活用できる対象になったということであり、さらにそれぞれの内容に応じて審査が必要となります。

最後に、こういった中小企業に対する支援法やいわゆる助成金などの裏事情に詳しい人に話を聞いてみたのですが、実態としては書類審査だけであることが多く、承認を受けること自体はさほど難しいことではないが、問題はそこから後、特に助成金を引っ張る段階。この段階になって有効なのが「メディアで報道され、注目されている」という事実。つまり、今回のようにしてテレビ番組などで取り上げられたり、あるいは発表会に議員が来たりといったことがあれば助成金を受けやすくなるそうです。そういった場合に先の報道された番組や掲載されたページ、雑誌、新聞記事などが参考資料として提出され、「将来有望である」というような印象を審査の時に与え、助成金をもらう最終的な決定材料になることが多いとのこと。また、助成金を最初にもらうときだけでなく、そこからあとさらに第2回、第3回の助成金を引っ張るためにもこういった「報道された」という事実は重要になる、と。そのため、定期的に何か発表を行ったり、イベントを開催したりして、何とかして露出量を増やそうと心がけるそうです。

今回のウォーターエネルギーシステムの一連の発表をもしも悪用しようとする会社があったとすれば、まず子飼いの企業や子会社、あるいは名前だけの企業を大量に使ってこういった支援策に対して申請を行い、最終的には助成金などの「金」を国や地方から引っ張ろうとしているという可能性もあるわけです。これからも注意して見守っていきましょう。

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