東北地方を襲った強い地震によって、多くの死傷者が出ている。政府は官邸対策室を設置したが、被災状況の把握と、被災者の救援に全力を挙げなければならない。
今回の地震で、岩手県奥州市と宮城県栗原市で震度6強を観測した。気象庁によると、岩手県内陸南部が震源地で、震源の深さは約八キロと浅く、地震の規模はマグニチュード(M)7・2と推定されている。今後も余震が心配される。厳重な注意を心掛けたい。
気象庁は、地震の大きな揺れの直前に予想震度を知らせる「緊急地震速報」を発表した。昨年十月から放送などを通じて一般への提供が始まったが、これまでは速報が出なかったり、発表が大幅に遅れたりした。
今回も震度6強を観測した奥州市に速報が届いたのは揺れの後で、栗原市では揺れと同時か直前だったとみられている。震度6弱を観測した場所では、揺れの数秒前に速報できたところもあったようだ。世界でも例のない地震早期警報システムだけに、しっかりと検証し、被害軽減に役立つよう改善に努めてもらいたい。
日本列島は地震の活動期に入ったといわれる。昨年は震度6強が石川県・能登半島と、新潟県中越沖で起きた。どこでいつ発生するか分からない。中国・四川大地震の被害の大きさに目を奪われていたが、決してひとごとではないと、今回の地震であらためて認識する。
全国の自治体が急ぐべきは、災害時には住民の避難場所にもなる学校の耐震化であろう。文部科学省の調査によると、二〇〇七年四月一日現在で、公立小中学校施設約十三万棟の耐震化率は58・6%にとどまっていた。岡山県は47・3%、広島44・8%、香川45・0%で、三県とも全国平均を下回っている。
耐震化が進まないのは、事業主体の市町村の財政難が大きな要因とされるが、今国会では大地震で倒壊する危険が高い全国約一万棟の公立小中学校施設については、本年度から三年間で耐震化を加速させる改正地震防災対策特別措置法が成立した。改正法は、耐震補強事業への国の補助を二分の一から三分の二に、改築事業は三分の一から二分の一に引き上げた。
渡海紀三朗文部科学相は市町村に「耐震化の重要性を認識し、行動を起こしてほしい」と異例の呼び掛けを行った。市町村は、耐震化予算を最優先で確保すべきだ。相次ぐ大地震に防災対策は待ったなしだと、危機感を高めなければならない。
北京で開催された日朝実務者協議で、北朝鮮側は拉致被害者の再調査と、三十八年前の日航機「よど号」乗っ取り犯関係者六人の身柄引き渡しへの協力を約束した。
日本側は「一定の前進」として、チャーター便の乗り入れや、民間の人道物資輸送に限った北朝鮮籍船舶の日本入港を認めるなど対北朝鮮経済制裁の一部解除の方針を決めた。
拉致問題は「すでに解決済み」として取り付く島もなかった北朝鮮が、再調査に応じたのは一つの前進といえよう。よど号関係者のうち三人は拉致問題にかかわったとされている。引き渡しを実現して真相解明につなげてもらいたい。
だが、これまでの北朝鮮のやり方からすれば不透明さは否めない。北朝鮮の変化の背景には米国によるテロ支援国家指定を解除してほしいという思惑がある。日朝対話の改善を解除の条件として働きかけてきた米国へのポーズとの見方もある。
これまでも拉致被害者の再調査はあったが、北朝鮮側から誠意ある回答は得られず裏切られてきた。拉致被害者の家族をはじめ、今回の合意に納得いかない人は多かろう。
しかし、取っ掛かりがなければ事態は動かない。小さな一歩を、いかに大きく前進させられるか。福田康夫首相の手腕が問われる。再調査に当たっては具体的な成果を最優先に進めなければならない。そのためにも従来のような北朝鮮側による一方的なものでなく、日本側も参加した透明性の高い調査が欠かせない。政府は再調査の具体化を制裁の一部解除の要件としている。方針を堅持してほしい。
その上で、米国との連携を強め、テロ支援国家指定解除と絡めて拉致問題解決を目指すことが必要といえよう。
(2008年6月15日掲載)