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2008年6月16日

◎金沢城復元基金 史跡指定の今こそ検討を

 金沢経済同友会が石川県に創設を提案した金沢城復元整備に関する基金条例は、国史跡 指定が決まった今こそ、実現へ向けて検討を始める好機である。金沢城は加賀藩以来の歴史や文化を基盤とするこの地域の象徴的な存在であり、郷土のランドマークである。国から文化財としての高い評価を得たことで、官民一体で県民の財産に磨きをかける環境が整ったといえる。

 寄付の受け皿となる基金創設は復元整備の財源確保にとどまらず、「平成の築城」を県 の重要プロジェクトとして内外にアピールする意義がある。城づくりへの参加意識を促し、「ふるさと愛」を高めることにもつながるだろう。

 事業を特定して寄付を募る基金条例は全国で増えているが、民間に幅広く協力を呼びか けるには、地域の将来を方向付ける重要な意味を持ち、寄付の成果が目に見えるような事業が望ましい。石川県においては、金沢城の復元整備がそれに最もふさわしいだろう。

 県は金沢城の河北門復元で一口五千円で寄付を募る事業を実施したが、城の復元整備は 五十年、百年後を見据えた息の長い取り組みであり、幅広く善意を受け付ける仕組みがあっていい。

 全国を見渡しても、熊本城、和歌山城、会津若松城などで復元整備の基金が設けられて いる。熊本城の場合、熊本県内外の二万七千人から約十二億円が集まり、本丸御殿など城郭建築物群の復元整備に投じられた。

 金沢城では河北門、橋爪門、石川門の「三御門」を復元、修復し、宮守堀も水堀化され る。辰巳(たつみ)櫓(やぐら)復元構想も浮上しているが、中長期的な計画ははっきりしていない。国史跡に指定された今、金沢城の将来像を明確に描く時期にきているのではないか。夢のある将来像を示してこそ復元整備への支持も得られるはずである。

 金沢城を単なる観光資源とみなしたり、保全や活用もすべて行政にお任せという意識が 県民の間にあれば、城は本当の意味で地域のシンボルとは言えないだろう。基金条例の検討とともに、県には金沢城の価値を積極的に発信し、県民が親しみや誇りをもてるような一層の工夫を望みたい。

◎後発医薬品 「富山方式」普及のテコに

 富山県で製造されている後発医薬品(ジェネリック医薬品)の効能を保証する同県独自 の制度が、厚生労働省によって全国規模で展開されることになり、地方のアイデアが普及に一役買うことになった。新薬より割安なジェネリック医薬品が現在のシェア18%から英米並みの50%程度まで普及すれば、医療費を大幅削減できるうえに、北陸の医療品製造メーカーも潤う。行政の「お墨付き」を機に、北陸の医療機関でもシェア拡大に取り組んでほしい。

 ジェネリック医薬品は、二十―二十五年間の特許期限が切れた新薬と同じ成分を持つ医 薬品で、価格は新薬の三―七割といわれる。総医療費約三十兆円のうち、約六兆円を占める薬剤費の半分程度をジェネリック医薬品でまかなうと、医療費が一兆円程度浮く計算になり、国は二〇一二年度までに普及率をまず30%にまで引き上げる方針を打ち出している。

 北陸には大手専業メーカーをはじめ、多くの医薬品製造メーカーがジェネリック医薬品 の製造・販売を手掛けており、普及拡大は大きな商機になる。「富山のくすり」を改めて全国に売るチャンスといえるだろう。

 普及のネックになっているのは、新薬ほど医者や薬剤師の信頼が得られていない点だ。 ジェネリック医薬品は、厚生労働省が新薬と同等と認めた薬だが、薬の成分がまったく同じものではない。そのため、積極的には使いたがらない医者も多く、成分や安全性の積極的なPRが課題になっていた。

 富山県は、県内の医薬品メーカーの依頼に応じ、県薬事研究所で薬剤の品質検査の一つ 「溶出試験」を行ってきた。試験結果の表示は、行政による「お墨付き」に等しく、メーカーの営業活動を後押ししてきた。厚労省が来春にも実施するジェネリック医薬品の品質公示も「富山方式」とまったく同じ発想であり、認知度と信頼性を高める効果が期待される。

 ジェネリック医薬品への理解が一番必要なのは、私たち国民であり、医師に勧められた 場合は理由もなく断ったり、むやみに新薬を要求しないようにしたい。


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