大企業に比べ、中小企業はどうしても消費者保護の体制整備が不十分になりがちだ。クレジット会社にとってこれら中小企業を加盟店として抱え続けることは、コンプライアンス(法令順守)上の大きなリスクになる。
経産省幹部は、こうした業界の懸念に理解を示す。「改正法は、文言上は強烈だが、過剰規制をする意図はない。ただ、(必要ないものまで売る)過量販売などには抑止力を働かせたい」。クレジット・信販業界は、この経産省の姿勢に一縷の望みを託していた。
だが、6月4日、改正法の影響を危惧する業界に新たな衝撃が走った。政府が、来年度創設する消費者庁で、金融庁所管だった貸金業法、出資法、金融商品販売法を共同で管理すると明らかにしたのである。これを受けて、「改正割販法も遠からず消費者庁の監督下に置かれるのではないか」と多くの関係者がざわめき立った。
その理由は、クレジットカードにある。クレジットカードには、分割払いが可能なショッピングと、無担保で融資を受けられるキャッシングの機能が1枚のカードに同居している。管轄する法律は、前者が割販法、後者が貸金業法である。
貸金業法と割販法は、消費者信用ビジネスにおいて、いわば“車の両輪”。貸金業法が消費者保護の“司令塔”である消費者庁の所管になるのなら、当然、割販法もそれに続くのが自然な流れというわけである。
クレジット会社が危惧するのは、「ショッピングもキャッシングも合算して総量規制すべき」という議論が巻き起こってくることだ。改正割販法の支払可能見込額の調査義務だけでも利用者への与信を縮小させる可能性がある。それに加え、年収の3分の1に制限された貸金業法の総量規制を前提に、ショッピングとキャッシングを合算して総量規制することになれば、さらに与信できなくなる。
「割販法と消費者庁の関係は何も決まっていない」。6月6日、経済産業省幹部は疑念を抱く信販会社担当者を牽制した。だが、このシナリオこそ業界が最も恐れる展開であり、「過度な規制が、市場の活力をそいでしまう」(トヨタファイナンスの大畠部長)との懸念を払拭できずにいる背景にある。
自主規制怠ったツケは重い
もちろん、消費者への過剰与信が悪徳業者の被害者を拡大させた点は否めない。東京大学の神作裕之教授は、「悪質業者の事件が多発しても、業界の対応は不十分で、自主規制も甘かった。法改正は当然の帰結」と指摘する。
その一方で、クレジットカードや割賦などの信用販売が、個人消費を下支えしてきたのも紛れもない事実である。例えば、クレジットカード市場はここ数年で急拡大しており、2006年には約35兆円にも達した。
改正建築基準法、金融商品取引法、貸金業法…。官製不況を引き起こした「3K」に加え、改正割販法が4つ目の「K」になってしまうのか。しばらくは予断を許さない。
日経ビジネス2008年6月16日号12ページより