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トヨタも恐れる割販法改正

官製不況に4つ目の「K」? 個人消費に冷や水も

 「自動車販売に影響が出る。規制が厳しくなれば販売減も避けられない」

 トヨタファイナンスの大畠重遠・法務部長は、5月29日に衆議院を通過した割賦販売法の改正案に身構える。同社はトヨタ自動車のクレジット会社として、トヨタ車の購入者に自動車ローンを提供してきた。その自動車ローンが、割販法改正で提供し難くなるのだ。

 割販法の改正案は、訪問販売などを規制する特定商取引法の改正案とセットで国会に提出された。参議院を通過すれば来夏にも施行される。

 ここ数年、支払い能力のない消費者に、布団や呉服を法外な値段で売りつけたり、ずさんな工事でリフォーム代金を騙し取ったりする事件が頻発。特商法改正で悪質業者の取締りを強化し、割販法改正で消費者が支払い能力を超えて割賦販売やクレジットカードを利用できないようにするのが狙いだ。

 なぜ、改正法の先行きをトヨタを始めとする自動車業界が懸念するのか。

自動車ローンに思わぬ余波

 大畠部長は説明する。

 「自動車販売では現金や銀行ローンによるものが約7割を占め、残りが割賦販売である。この3割分に規制の網がかかるのだから、販売低迷に喘ぐ自動車業界にとっては見過ごせない」

 改正法の中で、特に自動車販売に打撃を与えそうなのが、「支払可能見込額」に関する規定だ。これは、最低限の生活費に影響を与えないで済む支払い金額のこと。信販会社を含むクレジット会社はこの範囲内で利用者に与信枠を設定する。

 具体的な支払い能力の判断基準は、今後制定される経済産業省令で決まる。だが、早くもトヨタファイナンスなどはもっとも厳しい事態を想定し始めた。省令の中身次第では、借入限度額を年収の3分の1に制限した改正貸金業法の総量規制に似た制度が導入される可能性があるからだ。

 支払可能見込額は、利用者の年収や借り入れの状況などを調査して判断する。仮に、1年分の生活維持費として具体的な金額が省令で示されたら、年収からその額を引いた金額を超えて与信を与えることは難しい。生活の足に必要な車を、所得の少ない人が持ちにくくなる可能性がある。

 さらに、支払可能見込額の調査には、「住宅その他の経済産業省令で定める資産を譲渡し、又は担保に供することなく」との文言が法律に盛り込まれた。この条文の解釈を巡る不安を拭い去れないでいる。

 割賦による自動車販売では、自動車自体を担保にする。通常、担保価値は販売価格の6割程度で、100万円の車を販売する場合、実際は担保価値を引いた40万円の支払い能力を審査している。だが条文を額面通りにとらえ担保を取れなくなるとすれば、その販売手法が根本から揺らぎかねない。

影響を受けるのは200万社

悪質業者の排除を狙うが…

 百貨店など小売業界にも影響は広がりそうだ。顧客囲い込みを狙いクレジットカードを発行するケースも増えているが、支払い能力の審査を厳しくすれば、収入のない主婦などにカードを発行できなくなるかもしれない。

 百貨店の外商にも規制は及ぶ。ある大手信販会社の幹部は、「訪問販売の専門業者は数十万社あると言われている。さらに外商部門を持つ百貨店など一部で訪問販売など特商法の対象となる業務を手がける事業者を含めるとその数は200万社にも達する」と言う。訪販業者の多くが何らかの割賦販売を取り入れており、改正法ではこうした事業者がすべて対象になる。

 経営体制が盤石ではない中小・零細企業やベンチャー企業が、クレジット会社の加盟店から排除される可能性もある。改正法ではクレジット会社は加盟店に対して、消費者の利益を損ねる悪質な販売をしていないかを調べる義務が課せられる。仮に、加盟店が消費者に不利益となる事実を告知せずに商品を販売した場合、後に消費者が分割払いした代金の返還をクレジット会社に請求できるようになる。

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日経ビジネス “ここさえ読めば毎週のニュースの本質がわかる”―ニュース連動の解説記事。日経ビジネス編集部が、景気、業界再編の動きから最新マーケティング動向やヒット商品まで幅広くウォッチ。NBonlineには最新号の時流超流から毎週3本を掲載します。

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著者プロフィール

大竹 剛(おおたけ つよし)

1998年日経BP社に入社。「日経マルチメディア」「日経ネットビジネス」を経て2003年から「日経ビジネス」編集部記者

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