大阪で開かれた主要国(G8)財務相会合は、世界経済について厳しい現状認識と政策対応の難しさを率直に表明した。これまで以上に、緊密な情報交換に基づく政策展開が求められる局面だ。
「現在は逆風に直面している」。今回の共同声明は世界経済が陥っている危機的状況を、異例なほど簡潔に表現した。G8声明のような政策文書は、多少の懸念があっても悲観論を加速するのを恐れて、強い印象の言葉遣いを避けるのが通例だ。
今回は、そんな悠長な事態ではなかった。歴史的な最高値水準にある原油価格だけでなく、食料も値上がりし、インフレ懸念は世界的に強まっている。米国の住宅ローン問題を背景に、金融機関の経営不安は相変わらずだ。加えて、ドル安が加速し、国際金融市場も不安定な状態にある。
声明は、米住宅価格の下落や金融市場の緊張が「経済見通しに悪影響」を与え、原油、食料の価格上昇は世界の安定成長に「重大な試練」をもたらす、と警告した。これほどまでに強い危機感に包まれた主要国の会合は近年、思い出せないほどだ。
ところが対処方針となると、残念ながら歯切れがいいとはいえない。世界的にインフレ圧力が高まる懸念を認めながらも、こうした状況は「我々の政策選択をより複雑にする」と述べているのだ。それは、こういう事情である。
まず日本。インフレ圧力は次第に高まってはいるが、物価上昇率は欧米に比べて低水準だ。半面、景気後退懸念が強い。だから、日銀は利上げどころか、むしろ利下げを視野に入れつつある。
米国は利下げを続けてきたが、インフレ懸念が高まっているうえ、ドル下落を防ぐためにも、利下げの打ち止めを模索する時期を迎えている。欧州はインフレ懸念が強いうえに、共通通貨のユーロが高いので、思い切って利上げに踏み出しても支障が少ない。
つまり、利下げを模索する日本と中立的な米国、利上げ志向の欧州というように、各国の政策方向感はばらばらなのだ。
これは危険な状況でもある。十分な意思疎通がないまま、自国事情を優先させて政策を動かすと、市場が「G8の協調は死んだ」と受けとめる可能性がある。
各国の経済情勢が異なる以上、目指す政策に違いが出るのはやむをえない。だからこそ、政策担当者の相互理解と正しい情報発信が一層、重要になってきた。
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