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NIKKEI NET

社説1 インフレ対応の難しさ示したG8会合(6/15)

 大阪で14日に開いた主要8カ国(G8)財務相会合は、原油や食料の価格上昇を「重大な試練」と指摘し、世界的なインフレ圧力の高まりに強い危機感を表明した。世界経済に成長率低下のリスクが残っていることも確認し、インフレと景気悪化という2つのリスクに直面した各国の経済運営が難しい局面を迎えていることを浮き彫りにした。

 財務相会合は焦点の原油高について、需給の逼迫(ひっぱく)だけでなく、金融的な要素も価格上昇の原因との認識で一致。先物相場の急騰の背景には価格形成に必要な情報の不足があるとして、石油備蓄や先物市場に流入する資金量に関するデータの充実を促した。先物市場の動きを検証し、必要に応じて適切な措置を取ることも求めた。

 食料問題については、食料輸入に依存する途上国への支援強化を促すとともに、食糧安全保障のあり方について生産国、消費国と国際機関が対話をするよう促している。

 市場の関心が強いドル問題については、あいまいなまま終わった。米国内のインフレ加速を懸念するポールソン米財務長官は「強いドルが望ましい」という考えをあらためて強調したものの、踏み込んだ議論はされなかった。欧州で為替問題を担当している欧州中央銀行(ECB)が、G8財務相会合のメンバーでないためだ。

 ただ、ECBは近く利上げに踏み切る可能性を示唆しており、その場合はドル安・ユーロ高が加速しかねない。金融不安を抱える米国は利上げには動きにくく、ECBの利上げは大きな痛手になりうる。

 市場では「原油高の主因はドル安」との見方も多く、本来はドル問題抜きには原油高についても語れない。その意味では、この問題を避けた形の財務相会合には不満も残る。

 財務相会合では、世界経済の成長率低下リスクについても議論した。米国の住宅価格はなお下落を続け、税還付による消費刺激も物価上昇で相殺され気味だ。需要刺激効果が出尽くせば、消費の落ち込みが本格化する可能性がある。多くの金融機関も潜在的には資本不足が解消しておらず、信用収縮は続いている。

 原油価格の上昇もインフレだけでなく、日米欧をはじめとした原油輸入国の需要減退につながる。先進国経済は1970年代以来のスタグフレーションのリスクを抱えているといえる。にもかかわらず、こうしたリスクに各国がどう対応をしようとしているのかについても、今回の会合ではよく見えてこなかった。

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