14日朝、東北地方を襲った「岩手・宮城内陸地震」はマグニチュード(M)7・2という大きな規模で、岩手、宮城両県内など各地で土砂崩れ、道路陥没、家屋倒壊などの被害が相次いだ。多数の死傷者、行方不明者も出ており、被害は時間がたつにつれて拡大する様相も呈している。関係当局は被害実態の掌握を急ぎ、何をおいても行方不明者や支援を必要とする人々の発見、救助に全力を挙げねばならない。
1カ月前、中国四川省の大地震の惨禍に恐れおののいたばかりなのに、今度は足元が揺れた。地震の恐ろしさに、改めて慄然(りつぜん)とせざるを得ない。世界で起きるM6以上の地震の20%強が集中する地震国に住んでいる現実を、見せつけられた思いでいる人も多いのではないか。
被害が集中している地方には、過疎地や住民の高齢化が進む地域が目立つ。岩手、宮城両県知事は自衛隊に災害派遣を要請したが、農山間地では消防団員の減少や団員の高齢化などによって地域防災力が都市部より大きく低下しているのが実情だ。自衛隊への出動要請や消防、警察の救助隊の派遣などは、空振りになることを恐れず、早め早めに手を打ちたい。独居家庭が増えている折、安否の確認はもちろん、避難誘導、被災後の生活支援にも万全を期したい。
この際、被災しなかった人々も対岸の火事とする発想を捨て、災害への備えを固めるべきだ。閣議決定されたばかりの内閣府の「防災白書」は、国民の防災意識と行動との間にギャップがあり、危機感を実際の防災策に結びつけなければならない、と指摘している。
たとえば、各種の世論調査では、回答者の9割以上が東海地震や東京の直下型地震などに関心を寄せたり、発生を心配している。だが、家具や冷蔵庫を固定するなど身の回りの震災対策を講じたのは、全体の約24%にとどまっている。
それでも91年の調査で8・5%だったのが、阪神大震災など地震を経るたびに上昇した経緯がある。白書は切迫感が乏しく、実践的知識も欠如している、と嘆じているが、今回のように地震が続いた後こそ、官民が力を合わせて「減災」に向けて立ち上がるべきだ。
一般論ではなく、具体的な計画を練る努力も欠かせない。神奈川県伊勢原市では民生委員が戸別訪問し、寝たきりのお年寄りら災害時の要援護者のリストを作成、実際に支援希望者1人につき2人の支援者を割り当てる施策を進めている。防災上のチェックリストを配布し、自助努力を促している自治体もある。優れたアイデアは、情報交換によって広く共有したい。
今回の地震でも、避けられた被害はなかったか、個別ケースごとに検証し、今後の減災策につなげてもらいたい。
毎日新聞 2008年6月15日 東京朝刊