現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

東北の地震―山あいがまた直撃された

 東北の山あいが最大震度6強の揺れに襲われ、多くの犠牲者やけが人が出た。岩手・宮城内陸地震である。

 ついひと月前、中国の四川大地震で衝撃を受けたばかりだ。今回の揺れは、日本列島が地震の巣の上にあることを、あらためて思い知らせた。

 最近、国内では過疎地を直撃する地震が目立つ。活断層は列島直下のそこここにある。国土に占める山間部の割合は大きいから、こうした地震に見舞われやすいのである。

 山あいの地形は、崩れやすい。雨の季節ならなおさらだ。だから土砂災害が地震の被害を増幅する。

 今回もその怖さを見せつけた。

 茶色い山肌がむき出しとなり、地形が変わるほど崩落した場所がある。崩れた土砂が道路をのみ込み、橋がぽっきりと折れたところもある。

 ダムにひび割れも見つかった。流木などで土砂ダムができた川もある。

 温泉旅館は土砂に埋まり、バスはがけの下へ落ちた。土砂崩れに巻き込まれた車もある。

 今はまず、被災者の救出が第一だ。

 二次災害を防ぐことも急ぎたい。緩んだガケなどの危険個所を見つけなくてはならない。

 被災地では、道路が寸断されたことで孤立する人々が相次いだ。そうしたこともあって被害の全容がなかなかはっきりしてこない。

 過疎地を襲う地震では、被災の情報がすぐには伝わらないこともある。交通が途絶えて集落に救助の手が届かないとなると、助かるはずの人が長く放っておかれることになる。こうしたことはなんとしても避けたい。

 山あいで起こる地震で、どれだけ早く被災地と連絡をとり、被害の実態をつかむか。その態勢を整えることが急がれる。たとえば、IT機器を使って、遠くから異変を感知できるしくみをつくれないだろうか。

 一方、今回は、気象庁が昨年秋に始めた緊急地震速報が本格的に試されることになった。これは、大きな地震に見舞われそうなときにテレビやラジオなどで広く知らせるものだ。

 だが、震源の近くでは、速報が流れる前に揺れがきてしまった。このしくみでは、地震が発生したときに最初の揺れをとらえ、あとに続く大きな揺れを予測する。震源からあまり離れていないと大きな揺れが来るまでの時間が短く、なかなか間に合わない。

 素早く正確な速報が出せるように改良できないか、速報が間に合った地域でそれが役に立ったのか、などを検証してもらいたい。

 この列島に生きる以上、地震はいつどこを襲うかわからない。家具は倒れてこないか、家族とどう連絡をとり合うか。被災者の痛みに心を寄せながら、一人ひとりが備えておきたい。

G8財務相―過剰マネーの抑制を

 「世界経済は逆風に直面している」――大阪で開かれた主要8カ国(G8)財務相会合の共同声明には、そんな危機感が盛り込まれた。

 先進国の景気が停滞するなかで原油・食糧価格が高騰し、世界的にインフレ懸念が高まりつつある。一方で米国の住宅価格は下がり続けており、金融不安がおさまったとはいえない。インフレと景気刺激と、どちらを重視して政策をすすめていくべきか、難しい局面に立たされている。

 米国は昨秋以来、大胆な利下げを続けてきた。金融不安や景気後退の恐れに直面したためだが、結果として引き下げ過ぎたようにみえる。金融資本市場から逃げ出したマネーが原油などの商品市場へ流れ込み、相場高騰を加速させているからだ。

 適正な政策金利を計算する手法の提案で知られるテーラー米スタンフォード大教授(元米財務次官)はさきごろ日銀の招きで講演し、世界的に金利が低すぎることに警鐘を鳴らした。米国だけでなく、米国にあわせて金利を低くした新興市場国でインフレが深刻な問題になりつつある。

 欧州中央銀行は来月に利上げする可能性が高まっており、米連邦準備制度理事会のバーナンキ議長も利下げ休止を示唆した。主要国はインフレ警戒へ重心を移し始めた。だが欧州の利上げが先行すると、ドル安と原油高騰の悪循環は止まらないかもしれない。

 米当局は米国への資本流入を確保する意味もあって「強いドル」の維持に躍起だが、米国を中心とする世界のマネーの流れ自体に異変が起きており、流れはなかなか元には戻らない。

 会合では、原油などの高騰の要因として、実需と投機がどの程度あるのか分析していくことが合意された。その努力は大切だが、投機を直接制限する妙案はない。したがって、根本にある世界的な金余りを解消しないことには過剰な投機は抑えられない。

 日本にいると実感しにくいが、過去20年近く、世界経済はおおむね順調だった。米国がこの間、ほとんど不況を経験せず、世界経済を引っ張ってきたことが大きい。しかし、それは株価や住宅価格のバブルによって支えられてきた面があった。

 IT(情報技術)の株価バブル崩壊の悪影響を防ぐための超低金利が、住宅バブルを作り出した。いままた、住宅バブル崩壊の悪影響を防ごうとして新たな問題を生んでいる。

 不況になると失業者は増え、社会不安も高まる。避けられるなら避けるに越したことはない。

 しかし、政策で無理を重ねて不均衡が広がれば、結局はもっと大きな不況や痛みとなって返ってくる。米国をはじめとする政策当局は、過剰マネーの抑制を優先させていくべきだろう。

PR情報