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2008年6月15日

◎岩手・宮城内陸地震 「能登の悲劇」思い出させた

 目を疑いたくなるような光景だった。山肌がごっそりとえぐられ、道路の先が消えてい る。土砂が延々と樹木をなぎ倒し、川を埋めている。岩手・宮城内陸地震の破壊力はすさまじかった。不気味な余震も続いている。昨年春の能登半島地震の悲劇を思い出さずにはいられない。

 震度6強は、能登半島地震や新潟県中越沖地震と同じである。わずか一年三カ月の間に 、震度6強の地震が三回も起きたことになる。この地震で気象庁は、大きな揺れの直前に予想震度を知らせる「緊急地震速報」を出したが、震源の深さが浅かったため、震源地周辺では間に合わなかったと見られる。土砂崩れに巻き込まれて亡くなられた方は、逃げる余裕などまったくなかったのではなかろうか。自然の猛威の前に、人はいかに無力かとつくづく思う。

 ただ、嘆いてばかりはいられない。能登半島地震では、「北陸は地震が少ない」という 根拠なき安全神話が打ち砕かれ、地震が現実的な脅威として認識される契機になった。地震に強い街づくり、防災意識の向上が課題になり、国も中国の四川大地震をきっかけに、自治体の学校補強・改築事業に対する補助率を引き上げた。文部科学省によると、地震で倒壊の危険性が高い公立小中学校は全国に約一万棟あるという。石川、富山県でも耐震化計画の前倒しを考えてほしい。

 私たち個人で、できる対策もある。自分自身や家族の命を守るための防災対策である。 北陸三県の消費生活支援センターが四月に発表した防災対策アンケートでは、78%が「防災対策をしていない」と「ほとんどしていない」と回答した。能登半島地震の教訓が生かされていないのはどうしたことか。

 「家具を転倒防止具で固定」「寝室に物を置かない」「高所に物を置かない」「非常用 持ち出し袋を用意する」「消火器を用意する」などは、すぐにでもできるはずだ。近所の危険個所を家族で見て回ったり、万一の時の避難場所や連絡場所を決めておくことも重要だ。岩手・宮城内陸地震から新たな教訓を学び、防災対策に確実に反映させたい。

◎はしか予防接種 後進国の汚名返上したい

 はしか予防のため一昨年から五、六歳児を対象に行われることになった二回目のワクチ ン接種の状況が厚生労働省でまとめられた。北陸の昨年度の接種率は福井県94%、富山県92%、石川県91%といずれも全国平均(87%)を上回り、上位に位置した。それでも、はしかの流行をなくすには接種率を95%以上に高める必要があるとされる。接種率の向上と定着を図る取り組みをさらに強め、はしか予防の「後進国」の汚名を返上したい。

 日本では昨年、首都圏の大学や高校などではしかが流行し、学校内の出入りを禁止する など大騒ぎになった。今年に入っても関東や北海道などで患者が続出している。はしかは乳幼児の重い感染症で数年ごとに小流行を繰り返してきたが、近年はワクチン未接種者や、一回の接種で免疫がつかなかったり、免疫が低下した若者らの間でも広がりをみせている。

 欧米主要国はワクチンの二回接種を徹底して、はしかをほぼ根絶している。先進国の中 で、いまだに流行を繰り返している国は日本だけであり、海外から「はしか輸出国」などと不名誉な批判を浴びている。経済大国、医療先進国を自負する日本として、まことに面目ない状況なのである。

 政府は世界保健機関(WHO)にしりをたたかれる形で、二〇一二年までに、流行をゼ ロにする目標を掲げている。そのため〇六年四月から、予防接種を一歳時と就学前の二回制にしたが、これを徹底し、制圧目標を達成するには、国民への啓発、指導をさらに推進しなければなるまい。

 はしかは「子どものころ、だれもがかかる病気」とみられ、危険性の認識も薄いようで ある。しかし、特効薬はまだなく、肺炎や脳炎などを併発して患者千人に一人程度が死亡する手ごわい病気なのであり、「たかがはしか」などと侮ってはならない。

 また、一回しか接種を受けていない若者の免疫を高めるため、今年四月から中一、高三 の生徒らを対象にした追加接種も公費負担で行われており、この点の啓発も怠りなく進めてもらいたい。


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