障害年金を請求する為の診断書
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診断書の法的意味
障害年金を請求する時に社会保険事務所や市区町村役場へ提出する診断書は、障害の部位毎に定められた所定の様式(様式120号の1〜7)を使用します。
診断書は、医師が作成・発行する証明文書で、診察による人の健康上の状態を医学的に証明するものです。
この点について、最高裁判所の判例(昭32・7・25、刑集11巻7号2025頁)では、「医師の作成した診断書には、正規の鑑定人の作成した書面に関する刑事訴訟法第321条第4項が準用されるものと解する」とし、医師の作成した診断書は正式な
鑑定書
の一つだと判示しています。
よって、万が一、曖昧又は不正確な過去の記憶に基づき作成された診断書により、第三者が損害を受けた場合、その者は診断書を作成した医師に対して損害賠償請求が出来ることになります。
尚、病院名又は診療所名で作成・発行されたものは、診断書として認められません。
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医師に診断書の作成依頼をする時の注意点
【医師に診断書の作成依頼をする前に知っておくべきこと】
1.
医師が診断書を作成する場合、過去の診療録(当時の現症)又は直接診断した結果(現在の現症)によってのみ作成することが出来ます。
2.
医師が診断書を作成する際にその元資料となる診療録は、医師法の規定により、法定保存期間が
5年間
(その他の診療に関する諸記録は2年間)となっている為、それより前の診療録は廃棄されている可能性があります。
3.
医師は、医師法の規定により、自ら診療していない患者の診断書を交付することが禁止されています。
【診断書作成依頼時の注意点】
1.傷病の障害認定日が過去5年以内の場合
「障害認定日から
3ヶ月以内
の時点の医証(=診療録にもとづく医師の証明)を記載した診断書」と「現在(障害年金の請求日以前
3ヶ月以内
)の症状を記載した診断書」の2つを作成依頼して下さい。
尚、障害認定日から
1年以内
に障害年金を請求する場合は、後者の「現在の症状を記載した診断書」は作成依頼不要です。
2.傷病の障害認定日が5年以上前の場合
原則、
事後重症請求
となりますので、「現在の症状を記載した診断書」のみを作成依頼して下さい。
但し、障害認定日当時の診療録が医療機関に残っている場合(又はその当時の診断書を既に持っている場合)で、尚且つその当時の傷病の状態が障害等級に該当している可能性が有る場合は、「障害認定日当時の医証を記載した診断書」も作成依頼して下さい。
※
障害年金を請求出来ることを知らずに障害認定日(=初診日から1年6ヶ月が経過した日又はその前に傷病が治癒した日)から5年以上経過していた場合でも、障害認定日当時に、既に障害等級に該当していた場合は、事後重症請求とはならず、最大で過去5年前の分まで遡って障害年金がもらえる可能性があります。
3.一つの傷病を原因として複数の障害が有る場合
各々の障害状態を的確に記載出来る様式の診断書(複数枚)を作成依頼して下さい。
例えば、脳梗塞を原因とする言語障害と肢体障害と器質性精神障害が有る場合は、「様式第120号の2」と「様式第120号の3」と「様式第120号の4」の3種類の診断書が必要です。
(これは、全く異なる原因により複数の障害が有る場合も同様です。)
※
診断書作成については、健康保険(又は国民健康保険)の対象外になりますので、通常は診断書1通当たり5,250円程度の費用がかかります。
4.精神障害の場合
年金法では、特に診断書を作成する医師を限定していませんが、精神障害の診断書だけは、精神保健指定医又は精神科医が作成したものでなければ認められませんので注意して下さい。
5.傷病の障害認定日当時に診療を受けていた医師が、(転勤・退職等で)既にその医療機関にいない場合
先述しましたように、例え過去の診療録が残っている場合でも、医師は自ら診療していない過去の時点における診断書を交付することは出来ません。
よって、この場合は、
診断書の最下段にある「上記のとおり、診断します」という文言に二重線を引いて、「上記のとおり、診療録に記載されていることを証明します」と訂正
し、医師法に基づく診断書としてではなく、医療機関が保存する
診療録の証明書
として作成依頼して下さい。
※
障害年金請求時に提出する診断書は、診療録の証明書であっても、その当時の傷病状態(障害の程度)を確認出来れば、診断書の代替書類として認められます。
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診断書で初診時の医証が確認出来ない場合
過去の転院などにより、診断書では傷病の初診時の医証が確認出来ない場合は、初診で掛かった医療機関へ
「受診状況等証明書」
の記載依頼をする必要があります。
初診時の医証は、その初診日が間違い無く現在の障害の原因となっている傷病の初診日であることを証明する為に必要なのです。
※初診で掛かった医療機関にその当時の診療録が残っていない場合
現時点で確認出来る最も古い診療録が残っている医療機関に対して「受診状況等証明書」を作成依頼するしか方法はありません。
現行の障害年金制度においては、その受給可否の判断が全て傷病の
初診日
を基準にして行なわれる為、特に障害
厚生
年金を請求する時の初診日チェックはかなり厳しいものがあります。
ですが一方で、傷病の初診日が5年以上前になる場合は、その証明が事実上不可能なケースも多々あります。
また、初診で掛かった医療機関が遠方で、わざわざ初診日の証明だけを取りに行くのに多大な労力と費用を要する場合もあります。
「初診○年○月○日」という医療機関の証明が得られない限り、特に障害
厚生
年金の場合はその請求自体が困難になる現在の障害年金制度は、「問題が有る」と言わざるを得ません。
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愛知県名古屋市の社会保険労務士・行政書士 藤澤労務行政事務所