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病気腎移植

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病腎移植をどうとらえるか?難波紘二

病腎移植をどうとらえるか?難波紘二
難波先生が病理関連の雑誌に載せられた論文を転載します。

「私の視点」 病腎移植をどうとらえるか?
鹿鳴荘病理研究所 所長 難波紘二
1)初めに:日本の移植医療のあゆみには、三つの大きなエポックがある。第一は1968年の「和田心臓移植」事件1, 2)で、移植医療に対する拭いがたい医療不信を招いた。第二は89年の「生体肝移植」3)で、脳死体からの臓器提供が進まない状況下で「日本型移植」に先鞭をつけた。第三が今度の「病腎移植」で、「廃棄される臓器のリサイクル」という新しい発想を生み出した。最初の事件は日本移植学会の主導的会員によるもので、後の二つは移植学会の会員でなかったからこそ可能となった、という皮肉な歴史がある。
2)「病腎移植」問題との出逢い:昨年10月2日に宇和島市で摘発された「腎臓売買」事件についで、11月2日宇和島徳洲会病院が「病気の腎臓を移植に使った」例が11件あることを公表すると、連日嵐のような「万波バッシング」が生じた。11月4日その中に「癌が3件ある」という事実が判明すると、報道論調はより厳しく見出し活字はより大きくなった。「癌の臓器を移植」というので初めはびっくり仰天したが、報道内容を詳しく検討してみると、用いられたのは「直径4cm以下の腎細胞癌のある腎臓」だと分かった。この腫瘍については径4cm以下のものは「臨床的に良性」ということが確立している。だから腫瘍部を切除すれば、残りの腎臓はほぼ正常なので移植に使用できる、と気づいて眼からウロコが落ちた。彼らは「逆転の発想」で臓器移植に「第三の道」を拓こうとしているのだ。
 そこで、「ただ非難するだけでなく、病腎移植がまず全体で何件行われたかを明らかにし、結果を医学的に評価することが重要だ。結果次第で、第三の道になりえる」という論旨の評論を書いた。「今は悪魔呼ばわりされているが、将来、万波医師はブルー・レーザーの発明者中村修二氏のように、評価されるようになると思う」というメールに添付して、M新聞学芸部にいる知人のI氏宛に11月8日送った。この問題を担当していたのは「科学環境部」であり、原稿はそこに廻された。翌日、「現時点で万波擁護論は掲載できない」、という意味の返事が来た。しかし異論があることを世の中に知ってもらわねばならない。
 で、中国新聞の知人Y氏に無理を言い、11月14日の文化欄に原稿を掲載してもらった。そこに「自然発生癌の細胞は、遺伝子異常により抗原性が正常細胞から大きく逸脱している。だから特殊なタイプを除き、臓器移植に用いても再発・転移しないはず」、と病理学的予測を述べた。その後、病腎移植騒動に巻き込まれるのは、まったく「想定外」だった。
3)信じられない移植学会の対応: 新聞に論評が掲載されたら協力者が続出し、病院に永久保存されている病理検査報告書を検索できた。するとカルテの大部分が廃棄されていた市立宇和島病院から25件が見つかり、呉共済病院(6件)を含めた3病院で、少なくとも42件の病腎移植が行われたことが明らかとなった。急遽、追跡調査し、患者予後を調べた。同時に呉共済病院の症例については、光畑直喜医師をせっつき、癌の4例について論文を米国の専門誌に投稿してもらい、採用された4)。42件のデータは万波医師の友人藤田士朗フロリダ大学助教授が、今年度の全米移植外科学会(ASTS)の演題に応募し、採用された5)。
 3月1日の新聞でこれが大きく報道されると、これまで「学会発表も、論文発表もしてこなかったのがいけない」と非難してきた移植学会は、信じられないことに、ASTS会長宛に手紙を送り、演題を却下するように圧力をかけた。3月13日付で送られ、日本移植学会会長の署名が入っているこの手紙は言論の自由・学問研究の自由を組織的に圧殺しようとする歴史的文書だ(写真)。内容は、臓器売買事件は12月26日の宇和島地裁判決ですでに判決が確定し、万波医師に責任がないことが明らかとなっているのに、「警察が捜査中」と書き、さらに「日本病理学会が調査委員会に加わっている」(学会代表委員が入っているのは、5つの縦割り委員会のうち、宇和島徳洲会病院の調査委員会のみ)、「日本病理学会も統一声明に参加する」(病理学会は3月12日の理事会で不参加を決定済み)などと虚偽を述べており、卑劣としか言いようがない。そして「この論文をASTSの年次総会で発表するのは適切でないと判断される」と結んでいる。情けないことに、このレターを受けとった会長は3月24日、「今年の発表としては不適切なので、来年にしてはどうか」という却下通知を送ってきた。
 しかし光畑論文に関しては雑誌編集部の態度は変わっていない。今わたしたちは、42件の病腎移植についてフル・ペーパーを書き、国際的専門誌に投稿する作業を急いでいる。
4)移植された病腎はなぜ機能するのか?: 病腎移植の詳しい成績にふれる紙面がないが、生着率・生存率ともに死体腎のそれに匹敵している。なぜ病腎が移植するとちゃんと機能するのか? それが最大の病理学的疑問だ。一般的に病気は、「(臓器という)部分」と「(個体という)全体」の不調和により生じる。ところが臓器は個体のもつ生活習慣という環境の影響を絶えず受けている。だから病気臓は、移植により適切な環境下におかれると、自己修復機能が働いて正常に戻る。これが病腎移植成功の最大の理由だろう。
 癌化をもたらす突然変異は、異なった生活習慣をもつレシピエント(臓器の受け手)に移植されるともうそれ以上に進行しない。だから免疫抑制剤の使用により生じる二次癌は、すべてレシピエントの細胞由来である6)。「ネフローゼ」というのは大量のタンパク尿を来す「症候群」であり、単一の疾患ではない7)。万波医師が切除し、移植に用いた4例のネフローゼ腎は、SLEと糖尿病を合併していた1例を除いて(この2個の腎臓は、いずれも早期に拒絶反応を受けている)、「タンパク尿が多量で全身浮腫が著明なわりに、他の腎機能が正常」という珍しい症例で、腎臓病の教科書にも記載がない。可能性としては糸球体基底膜を標的とした自己抗体を産生している一種の自己免疫病で、「万波病」とでも呼ぶべき未知の疾患なのではないか。それなら自己抗体を産生していなレシピエントに移植してやれば、やはり自己修復機構が働いて正常に戻るはずだ。
 650例以上という腎移植の経験、82歳の老人に腎移植を成功させたという実績(いずれも日本記録)をもち、多数の腎臓病患者を診てきた医師だからこそ見つけられた症例だろう。新症例が見つかり詳しく調べることができると、腎臓病学に新知見が加わるかもしれない。
5)終りに: 福沢諭吉は、『文明論之概略』(明治8年)の中で「文明とは人民を幸福にすることである」と定義し、「古来文明の進歩、その初めはみないわゆる異端妄説である。…昔年の異端妄説は今世の通論なり、昨日の奇説は今日の常談なり。…学者は…異端妄説のそしりを恐るることなく、勇をふるって我が思うところの説を吐くべし」と述べている8)。永末直文医師による生体肝移植をいち早く評価し、誌面を提供した本誌9,10)に、私が異端妄説を吐く機会を与えられたことに感謝したい。
【引用文献】
1. 和田寿郎:ゆるぎなき生命の塔を −信夫君の勇気の遺産を継ぐ. 青河書房, 1968
2. 共同通信社社会部移植取材班(編著):凍れる心臓. 共同通信社, 1998
3. 中村輝久(監修):決断 −生体肝移植の奇蹟. 時事通信社, 1990
4. N. Mitsuhata et al.: Donor Kidneys with Small Renal Cell Cancers or with Low-grade Lower Ureters Can be Transplantable. Am. J. Transplantation (in press)
5. M. Mannami et al.: Last resort for renal transplant recipients, diseased kidney from living donor/patients. Abstract for ATC 2007
6. P. Pedotti et al.: Epidemiologic study on the origin of cancer after kidney transplantation. Transplantation 77(3): 426-28, 2004
7. V. Kumar et al.: Robbins=Cotran’s Pathologic Basis of Disease, 7th ed., Elsevier-Saunders, 2005, pp.978-99
8. 福沢諭吉:文明論之概略. 岩波文庫, 1991, pp. 21-22
9. 永末直文:クロースアップ 生体肝移植への道程. ミクロスコピア 7(2): 84-88, 1990
10. 永末直文:てがみ 裕弥ちゃんが問いかけたもの 残したもの. ミクロスコピア 7(4): 248-49, 1990 (なお同氏は島根大学医学部教授を定年前に辞職され、福岡市の私立病院長として健在である)

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