生まれつき特定のアミノ酸を分解できない代謝異常「メープルシロップ尿症」の患者に欠かせない治療用粉ミルクが、4月の薬価改定で、1缶9600円(1200グラム)から、一気に6万2160円へ値上がりした。しかし、値上げを知らされていなかった患者側は強く反発。厚生労働省が薬価を大幅に下げるという異例の措置を取った。
見直しの結果、粉ミルクは、1缶3720円の値上げにとどめられた。
メープルシロップ尿症は、生後4週までに発症し、けいれん、呼吸困難などが進行して命にかかわることもある。赤ちゃん50万人に1人という病気で、国内に約70人の患者がいるとされる。食事療法と治療用粉ミルクの摂取が生涯続く。
粉ミルク「ロイシン・イソロイシン・バリン除去ミルク」は、雪印乳業が国内で唯一製造販売している。値上げは、「採算割れで製造が続けられない」という企業の声を反映したものだった。
しかし、値上がりを主治医らから知らされていなかった患者側は、ミルクを病院に受け取りに行った際、初めて気づいた。このため、患者家族が先月、厚労省に抗議した。
患者は年70缶程度のミルクがいる。患者家族によると、医療費の窓口負担が一定額を超えると超過分が払い戻される高額療養費制度を使っても、ミルク代は年間約20万円から50万円近くに増えるという。
抗議を受け、厚労省も見直しを検討。雪印乳業も「値上げ幅を抑えたい」と申し出たため、6月2日付の事務連絡で、4月にさかのぼって薬価を訂正した。厚労省の担当者は「患者の負担増に配慮することができなかったことは申し訳ない」と話した。(和田公一)