78年の県沖地震発生から30年を迎えた12日、住民や行政機関などによる防災訓練が県内各地で行われた。近い将来に再発する確率は極めて高いとされ、仙台市の総合防災訓練だけでも計約1万2000人が参加。真剣な表情でけが人の搬送や手当てなどに従事したほか、女性のプライバシーに配慮した避難所の設営や障害者向けの避難訓練なども初めて行われた。【青木純、石川忠雄、伊藤絵理子、鈴木一也、須藤唯哉】
仙台市の訓練は午前7時に県沖を震源とするマグニチュード(M)8・0の地震が発生、市内の一部では震度6強の揺れを観測したという想定でスタートした。
行政機関だけでなく、地元町内会や民間企業も参加。青葉区川内三十人町の町内会「牛越親交会」のメンバー12人は午前8時に近くの公園に集合し、消防団員の指導に従い、三角巾(きん)を使った止血法やけが人を担架で運ぶ方法を学んだ。同町内会の鈴木真由美さんは「中国の地震も決して人ごとではない。実際にやってみるのは、いざという時に必ず役立つ」と手応えを話した。
同市は今回初めて、身体障害者向けの訓練を実施。メーン会場の県スポーツセンター跡地(青葉区)で、煙の充満する建物からの避難を体験した聴覚障害者協会の鈴木一事務局次長(65)は「耳が不自由なので、方向を見失えば命にかかわる。訓練で慣れることが大切」と話し、地震体験車「ぐらら」に乗った井上朝子さん(23)は「普段は車いすなので、ブレーキをかけないと転んでしまう。一人では逃げられないので、どうやって助けを呼ぶか考えたい」と真剣な表情を見せた。
同区の立町小では、女性に配慮した避難所の設営訓練も初めて行われた。04年10月に新潟県で起きた中越地震では、乳幼児のいる母親らから「人目が気になって母乳が出ない」などの声が上がったほか、プライバシー確保のために車で寝泊まりし「エコノミー症候群」で亡くなる人もいた。
この日の訓練では、板材を使って更衣室や授乳室を設置したり、家族用のスペースを確保したりする作業に挑戦。主婦の金野トキ子さん(67)は「女性にとって更衣室はとてもありがたい。プライベート空間もリラックスできて落ち着く」と笑顔を見せた。
県は各市町村や山形県などと合同で「6・12総合防災訓練」を実施した。午前6時28分に地震が発生したとの想定で、職員約230人が公共交通機関や車を使わず、徒歩や自転車で登庁。午後0時まで、各地から寄せられた被害報告の処理を行った。
自宅から県庁まで約10キロを自転車で走ってきた村井嘉浩知事は「県沖地震は間違いなく起こると言われている。県民の皆さんはきょう起きるかも、という心構えを持ってほしい」と呼び掛けた。
県警もこの日、災害警備本部を設けて地震の初動対応訓練を行った。県警本部と県内の24署から職員計250人が参加、大型スクリーンなどを使い被災状況の把握に当たった。
訓練終了後、大山憲司本部長は「発生直後の初動対応は重要。一人でも多くの県民の安心安全を確保してほしい」と話した。
石巻市では、特に大きな被害が想定される旧河南町を重点訓練地区に選定。河南総合支所管内の遊学館を会場に、航空自衛隊松島基地や消防、警察、各地域の自主防災会など31団体計約500人が参加して総合防災訓練を実施。自衛隊ヘリによる負傷者の搬送や自主防災会員が家屋倒壊や土砂崩れで埋まった被災者を救出する訓練を初めて行った。
また、市立中里小学校では父母らが、各家庭に配布済みのカードを持って来校。カードを学校側に渡し、校庭に避難した児童たちを引き取る訓練を実施した。混乱時の児童の安全確保を目的とした独自の取り組みという。
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■ことば
県沖地震は、政府の地震調査研究推進本部のまとめによると、平均37・1年間隔で発生。前回は78年6月12日午後5時14分発生で、金華山沖約60キロ、深さ約40キロが震源。地震の規模を示すマグニチュード(M)は7・4で、仙台、石巻などで震度5を観測した。死者は28人(県内27人、福島県1人)。うち12人が倒壊したブロック塀の下敷きとなった。負傷者は県内だけで1万962人、住宅7500棟が全半壊した。
県沖地震は「海溝型地震」に分類され、周期的に発生する性質がある。同本部の長期評価(基準日・今年元日)は「30年以内の発生確率は99%」とした。県の第3次地震被害想定調査報告書(04年3月公表)は、78年の地震と同規模の「単独型」の場合、M7・6で、仙台平野や大崎市古川などで震度6弱~6強の揺れを予想。複数の震源域が同時に活動する「連動型」の場合はM8・0となり、単独型よりも震度6強の範囲が拡大。県北部沿岸の広範囲が津波被害を受け、本吉町では最大約10メートルの津波も予想される。
毎日新聞 2008年6月13日 地方版