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【社説】

消費者庁 名ばかり官庁では困る

2008年6月14日

 消費者庁が創設に向けて動きだした。行政の生産者優先から消費者主役への転換を目指すとされるが、省庁の多くが権限移譲に渋々ともいわれる。消費者行政一元化は名ばかりにならないか。

 政府の消費者行政推進会議が「消費者・生活者の視点に立つ行政への転換」と題する報告書を福田康夫首相に提出した。内閣府の外局として消費者庁を設置し各省庁に対する調整権限と勧告権を与える、相談窓口の全国網を築く−などが柱だ。

 英会話学校「NOVA」の不明朗な受講料問題は経済産業省に苦情が寄せられてから行政処分まで十年を要した。

 パロマ製ガス湯沸かし器による一酸化炭素中毒事故は関係省庁が情報を共有せず、対応が後手に回って被害を広げた。

 福田首相は一月、国会で「役所が国民の害となっている例が続発している」とまで述べ、霞が関の再編も視野に入れた消費者行政改革の意思、方向を明らかにした。

 確かに産業の保護、育成を主体にした明治以来の行政や、戦後復興で経産省が担った産業政策は歴史的使命を終えている。消費者優先の行政が求められ、企業も消費者を主役に据えて、その消費者が必要とする製品を市場での競争を通じて生み出していく。それが消費者と企業の双方に利益をもたらす時代といえるだろう。

 消費者行政は経産省など十省庁にまたがり、関連する法令は消費生活用製品安全法や食品衛生法など三十にも上る。難題は組織、人員の移管で、各省庁ともに権益を死守しようと執拗(しつよう)に抵抗、報告書のとりまとめ直前になって、ようやく折れたといわれる。

 首相は新庁創設で行政の肥大化を招かぬよう移管する省庁から組織、人員を振り替える方針を示している。しかし、移管する法令には消費者庁との共同所管になるものが多い。これを“隠れみの”にした組織の温存はないか。さらには人員だけが送り込まれて、組織肥大化のままの寄り合い所帯にならないか。真に消費者のための官庁にしてもらいたい。

 消費者庁の発足は来年四月。八月にも召集される臨時国会で設置法案を成立させる必要がある。来年度予算案の概算要求も控えている。組織や人員をどこまで移管するかの輪郭を決めねばならない。

 消費者主役という実質を伴った官庁が誕生するか否かは福田首相の思いの強さ、そして霞が関を抑え込む腕力にかかっている。

 

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