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NIKKEI NET

社説1 この程度の前進で制裁解除は早計だ(6/14)

 この程度のものか――。日本の多くの国民が抱いた感想ではないか。

 日本と北朝鮮が北京で開いた国交正常化に関する公式実務者協議の結果である。北朝鮮の回答は「拉致問題の再調査」と「よど号乗っ取り犯と関係者の引き渡し協力」。内容の公表を1日遅らした日本政府の思わせぶりな対応もあり、日本にとって最優先課題である拉致問題の進展を期待する声が高まっていただけに、落胆せざるを得ない。

 日朝間の本格協議は昨年9月にモンゴルのウランバートルで開いて以来、約9カ月ぶりだ。拉致問題でこれまで「解決済み」との強硬な態度を取ってきた北朝鮮が再調査に応じ、日本政府が要求したよど号犯関係者の引き渡しにも前向きな姿勢を示したのは確かに一歩前進とみることもできる。

 しかし、北朝鮮がこの時期に日朝協議で柔軟姿勢をみせた理由はなにか。第1に米国によるテロ支援国家指定解除を促すためである。第2は日本の経済支援目当てだろう。

 北朝鮮の核開発問題では米朝協議の進展により、北朝鮮による核関連施設の無能力化と核計画の申告が最終段階を迎えている。北朝鮮は見返りとして米国による敵視政策の解除と経済支援を要求している。

 とりわけ重視しているのがテロ支援国家指定の解除である。北朝鮮外務省が「あらゆる形態のテロ」とテロ支援に反対する声明を発表したのも指定解除をにらんだ動きだ。

 米国は指定解除に踏み切る前に、同盟国である日本の立場にも配慮し、北朝鮮に拉致問題を含めた日朝協議の再開を促した。だから公式協議が実現したと言ってもいい。いわば北朝鮮は米国の顔色をみながら日本との協議に臨んだわけだ。

 北朝鮮はよど号犯の引き渡しに協力するとしたが、北朝鮮内にかくまっていることが米国によるテロ支援国家指定継続の一因になってきたことも忘れてはならない。

 もちろん、せっかく開いた北朝鮮との対話の窓口を閉ざせというわけではない。要は拉致問題の再調査にどこまで本気で取り組むつもりなのか。日本の調査員の北朝鮮入りも含めて真相究明に真剣に対処する意思があるのか。かつて北朝鮮が提出した「再調査」結果は矛盾だらけで、誠意を欠く内容だった。今回もにわかには信じがたい。

 北朝鮮側の真意がまだつかめないのに、日本政府は独自に続けてきた経済制裁措置の一部解除に踏み切るという。制裁解除は早計だといわざるを得ない。

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