政府は13日、北京で行われた日朝実務者協議の合意内容を明らかにした。北朝鮮が拉致問題解決への再調査を行い、日航機「よど号」乗っ取り事件の実行犯らの日本への引き渡しに協力するというものだ。
これを受け、政府は日本独自の対北朝鮮制裁の一部を解除する方針を明らかにした。
北朝鮮が「拉致は解決済み」というかたくなな姿勢を変更したのだから、これを拉致問題の解決へ結び付ける努力が日朝双方に求められる。北朝鮮は今度こそ、拉致被害者家族らも納得できる誠意ある再調査に取り組まなければならない。
政府認定の拉致被害者は17人で、そのうち12人は安否が不明だ。04年5月の小泉純一郎元首相の2度目の訪朝時に金正日(キムジョンイル)総書記が再調査を約束したが、その半年後に日本側に手渡された物証や資料、記録は信頼性に欠け、日本側が不信感を募らせた経緯がある。
町村信孝官房長官は、今回の再調査は生存者を発見して帰国させるためのもの、と言っている。ならば、4年前の失敗を繰り返さないよう、相手任せでない実効ある調査方法を決め、早急に実行に移すよう北朝鮮を促す必要がある。
対北朝鮮制裁は06年の北朝鮮によるミサイル発射や核実験を受け日本が独自に実施している。今回解除するのは、人道物資輸送に限定した船舶入港禁止と日朝間の人的往来の禁止だ。北朝鮮の立場変更を「一定の前進」と評価してのことである。一方、エネルギー支援への不参加方針は継続するという。
拉致被害者家族らには制裁の一部解除は時期尚早との不満の声が出ている。政府はこうした声も踏まえ、今後の制裁解除には再調査の進展具合をにらみながら慎重に対応していくべきだろう。
よど号事件で北朝鮮が引き渡し協力を約束したのは、有本恵子さん拉致など欧州を舞台にした拉致事件への関与の疑いで日本政府が国際手配している乗っ取り実行犯と妻らだ。日本への送還が実現したら欧州拉致ルートの解明を急いでほしい。
北朝鮮の非核化へ向けた第2段階措置(核施設の無能力化と核計画申告)は最終局面に入ったといわれている。
この段階で北朝鮮が日本との協議に応じた背景には、日朝関係改善に前向きな姿勢を見せることで米国にテロ支援国家指定の解除を促そうという思惑があるのは間違いないだろう。日朝協議の直前に反テロ声明を発表したのもそのためとみられる。
しかし、態度の変更が単なる米国向けのポーズなら日朝関係は前へ進まない。日本は米国との連携を緩めてはならない。米国には、テロ支援国家指定の解除問題では拉致問題の進展状況も考慮して判断することを求めたい。
毎日新聞 2008年6月14日 東京朝刊