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熊谷弁護士の懲戒申し立てと常翔学園をめぐる怪文書


大阪弁護士会所属の熊谷尚之弁護士(大阪市北区)が大阪弁護士会に懲戒を申し立てられていることが10日、明らかになった。熊谷弁護士が理事を務める学校法人常翔学園(大阪市旭区、坂口正雄理事長)の複数の理事から懲戒を申し立てられたもの。今後の大阪弁護士会の結論が注目される。そして怪文書騒動の中味とは?


 大阪弁護士会は、熊谷弁護士の懲戒申し立ての事実について「答えられない」と明らかにしていない。だが、入手した資料では6月5日付けで大阪弁護士会委員会担当室の受付印が押してあり、熊谷弁護士が懲戒を申し立てられたのは間違いない。一般的に懲戒申立書が受理された場合、大阪弁護士会は綱紀委員会にかけて懲戒に当たるかどうか審議する。その審議で懲戒に当たると判断されると、次に懲戒委員会に諮られるという流れだ。


坂口理事長の行動規範違反を黙認?


 なぜ熊谷弁護士が大阪弁護士会に懲戒を申し立てられたのか。申し立てた学校法人常翔学園(旧名称:大阪工大摂南大学)の理事の懲戒申立書によると、常翔学園の坂口理事長は学園内規(行動規範)に違反し、かつ寄付行為(学校など社団法人の定款<規則>)に違反する事実が見受けられたため、それを是正するため今年5月28日の学園理事会で、その事実関係を指摘し解任動議を提出したが、熊谷弁護士兼理事をはじめとする複数の理事の反対で僅差で敗れ、議題にもされず真相は闇の中に葬られたことが主因。


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坂口正雄理事長


 坂口理事長の学園内規違反および寄付行為違反というのは申立書では、坂口理事長は情報通信・計装・電気設備などのきんでん(大阪市北区、藤田訓彦社長)と、その関係会社で電気設備・建築工事などのメックス(大阪市東成区、山川博司社長)から多額の個人的収入を得ていることが行動規範に違反するとしている。坂口理事長は、きんでんとメックスの取締役と代表取締役をそれぞれ歴任し、昨年12月末までメックスの取締役で学園理事長を兼務していた。そうした中で坂口理事長は独断専行で特命工事を発注し、工事を受注した会社からの多額の寄付金を学園が受領したかのように装うことで、工事の特命発注の条件が寄付金交付とされている可能性が高いと論じている。すなわち、工事代金に上乗せしてコストオンしているということだ。


 また坂口理事長の独断専行により、将来的に学園に損失が生じる可能性が大きく、その額が甚大であるとも。さらに学園寄付行為などの諸規定における決裁権限が理事長に一極集的に改廃され、独断専行型の学園経営が助長されていると断じている。


 こうした中で、熊谷弁護士は常翔学園の理事という「組織内弁護士」の立場にあり、弁護士の使命および弁護士として自由と独立を自覚し、良心に従って職務を行うように努めなめればならない。また、熊谷弁護士は常翔学園の代理人として関係する事件の訴訟行為を行っていた事実、同学園から他の理事とそん色なく理事としての報酬を得ていることから、学園との間で継続的な委託信任関係を有しているものであり、専属的法律顧問契約などの委任契約が成立していなくても、実質上、同学園との間に顧問弁護士としての委任契約が成立し、継続しているものであるとしている。


 ところが、大阪弁護士会に懲戒を申し立てた理事たちが常翔学園の理事会で坂口理事長の違反行為を質し、公明正大かつ民主化された学園経営を期して坂口理事長の解任動議を提出したが、熊谷弁護士をはじめとする複数の理事の反対で議題にされなかった。


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熊谷弁護士への懲戒申立書と怪文書


 そこで申し立てた理事は、熊谷弁護士の職業柄に期待し、坂口理事長の行為に対して公正中立的な観点から意見や是正勧告がされるものと思っていたが、坂口理事長が関係業者から個人的収入を得ているという行動規範に違反する行為についても黙認し、意見するどころか同調する態度を示した。こうした熊谷弁護士の態度、行為は組織内弁護士としての努力義務を定めた大阪弁護士会職務基本規定第50条(自由と独立)に違反しているとして、懲戒を申し立てたのが今回の経緯だ。


「怪文書」は理事長の背信行為糾す


 学校法人常翔学園は今年4月1日、旧学校法人大阪工大摂南大学から名称変更した。同学園は大阪工業大学をはじめ摂南大学、広島国際大学、そして常翔学園高校(今年4月1日から旧大阪工業大学高校を改称)を運営。また常翔学園グループとして学校法人常翔啓光学園があり、常翔啓光学園高校と同中学を運営する。大阪工業大学の卒業生の社長数が全国理工系大学の中でトップクラスにあるといわれ、経済界で活躍する人材を輩出している。


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常翔学園の全景


 坂口理事長は1937年生まれ。59年に大阪工業大学電気工学科を卒業し、同年近畿電気工事(現きんでん)入社。常務、専務、代表取締役副社長を経て、2001年にメックス社長、05年代表取締役会長。03年7月から学園の理事となり、06年8月に東松孝臣理事長の後任として理事長に就任した。


 常翔学園では今年4月、2回にわたって「常翔学園の皆様」と題する「怪文書」の存在が明らかになった。その文書は常翔学園の職員ならびに学校の先生に向け「学園の未来と存続にかかわることを知らせ、事実を確かめて考えてください」と訴えている。発行者は「常翔学園を良くする会」となっている。


 その中で、坂口理事長が就任して以来、建築工事の発注に公正さを欠く不明朗な点を指摘している。


 1回目の文書を要約すると①ほとんどの工事(金額の少ない工事を除く)は入札を行わない特命工事。発注先は坂口理事長の出身会社きんでんと、その関係会社メックス。坂口理事長はメックスの非常勤役員②理事会の決済を受けなければいけないが、坂口理事長が独断で決済し、これは理事会軽視で学園運営の公正さを欠く③常翔学園の理事長でありながら、きんでんとメックスから年額2千万円以上の多額な給与を貰い、これは賄賂といえる④発注した工事会社から工事代金の1割を寄付金として受けている。寄付金は形だけで最初から発注額の1割をひいた額で発注すればよく、これは工事代金の水増しになって、実際の単価と異なる発注は文部科学省で禁止されている、といった内容だ。「こうした坂口理事長の行為は学園への背信・不法行為でしかない。今のうちに坂口理事長のこうした行為を止めさせないといけない。今後も調査を続けます」と結んでいる。


大阪弁護士会の結論の行方に注目


 さらに2回目の「怪文書」では、①07年10月に買収した啓光学園の件に触れ、これは理事たちが発言しない中で「無言は賛成と解され」強引に決定された。啓光学園の資産は30億円もなく、その中で5億円の貸付けをして、さらに新たに12億円の貸付をしようとしている②この資金は校舎の建築資金とされ、毎年4億円くらいの貸付をしていくそうだ。返済は15年据え置きで金利は年1%とされる。少子化が進行する中で、学校の存続が厳しくなり、毎年貸付をしないといけない学校に1%の金利を払ってもらえるのか③困った学校に手を差し伸べるのは良いことだが、それによって学園の経営を圧迫したのでは元も子もない④学園の育成のために資金使途は将来を見越したものにしないといけない。資金は坂口理事長個人のものではない。理事長は15年後には辞めているでしょう。その責任はだれがとるのでしょうか。学園は存続しなければならない。必要な工事であるなら、工事規模と代金の透明性を高める必要がある、という内容で、結論として「坂口理事長の独断での学園の私物化の不正行為を弾劾し、止めさせましょう。そして即刻やめさせよう」と訴えている。怪文書の中身については、本誌取材によって事実であることが証明された。


 熊谷弁護士は理事者の一方で、弁護士としての使命、また自由と独立を自覚し、良心に従う職務遂行が求められる。常翔学園での職務に絡んで懲戒を申し立てられたことは、それを遂行していないと判断されたものと受け取れる。結論は、大阪弁護士会に委ねられた。同会が申し立てをどう判断するのか行方が注目される。




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