2008-06-13
1つのことしかできない。
仕事の手配でしくじったとのことで、研究室の一人が説明に来た。いろいろ聞いていたら「2つ以上のことが同時に処理できない」という。
女性は、例えば電話で話しながら、子供をあやして、同時に食事の準備して、TVを聞いて、旦那とも会話してというように、いろいろ同時に出来る方が多いようだ。一方男性はたいてい1つのことしか出来ない。1つのことしか出来ないのは、誰でもそうだ。同君だけのことではない。見方を変えて、1つのことしかできないことは、むしろ1つのことに集中力できさえすば、いい成果を出せるいい性質と考えればいい。
いい仕事をするには、無駄な負担を簡単に終わらせて、最重要事項に最大限の時間を確保し、そのことのみに集中できる環境を整える必要がある。そのためには全体のなかでの個別の事象の関連性と重要性を的確に見極めることが不可欠だ。話は簡単だが、1日は24時間しかない。1つを得るには1つを手放さねばならない。この排反事象のジレンマを超えることがちょっと難しい。
2008-06-12
粒子法と粒状体解析
今日も朝から「シンポジウム」の会場に行ってきた。ここ2年間は研究テーマの「ゼロからの立上げ」の作業だけで忙しくて、研究のための理論展開をしたり、最新の論文をじっくり読んだり、あるいは、今回のように、ほかの方の研究発表をゆっくりと聞く余裕がなかった。でも研究をやるからには、やはり「考える時間」が必要だ。
午前中は「粒子法」、「粒状体解析」をはじめ、粒子の挙動に関する最新の研究成果について、国内の第一線の研究者による特別講演とパネルディスカッションがあった。「粒子法」と「粒状体解析」については、私も数年前から使っているが、粒を扱うことでは同じだが、手法的には全く別のものととらえていた。
ところが、今日の講演会や発表を聞いて、「粗視化」や「構成式」をキーワードとして、非常に細かい粒から、形の影響が出るほどの大きな粒までの挙動を、統一的な理論として体系化できるのかもしれないとの方向性が見えてきたように思う。
計算量と計算速度については、今日のプレゼンでは、地球シミュレータを用いた900百万個の粒子の解析の紹介があった。地球シミュレータや大学間相互利用の大型スパコンも、今の研究所からも使用出来る。私はこれまでパソコンの並列処理程度の小さなものを想定していたが、将来は地球シミュレータで計算することまで考えれば、計算量や計算速度のことはたいした問題ではないと気づいた。
「これは面白い。ここ1〜2年は、この話に本気で取り組む価値がある。」
2008-06-11
摩擦について
日頃参加する研究会や講演会は、自分たちの分野のみに限定された狭い範囲のものが多い。参加者は類似の研究をしている一部の研究者に限られ、殆ど顔見知りばかりで、出てくる意見や反応も予め想定された域を超えない。実績になるので発表するが、その意義についてはよくわからない面がある。
今回の会議は、十数団体の多様な研究分野の学会が協賛し、そのなかで計算力学に関する研究のみの発表であった。どれを聞いても全く別分野だが、全く異なる分野なのに、非常によく似た解析法を使っていたり、論文の全体的な流れは似ているが、その着眼点や手法、応用範囲が全く異なっていたりで、その違いがあって興味深いし、面白いものばかりだった。
その中の1件で、理学系の物理学が専門という方の研究発表があった。その方の研究は、「静止摩擦」と「動摩擦」という「力学」でいうところの、非常に「基礎的な内容」であった。我々は「摩擦」と「減衰」とを、エネルギーが無くなる現象として、殆ど類似のものと扱いそうだ。もちろん、数値モデルで扱う際は、たとえば速度をv, 垂直抗力をNと表示すると、「摩擦」については -μN(v/|v|)、「減衰」については-αvのように、もちろんそのメカニズムに応じた異なる式で表現している。しかし、意味合いとしてはエネルギーが徐々になくなる現象として扱っていることには変わりない。
ところが、その方の話は違っていた。
例えば単振動の振り子を考えると、速度に比例する減衰があると、徐々に揺れの幅が小さくなり、実現象としては静止状態になる。これを、「物理学1」の教科書を参考にして、運動方程式を解くと、「減衰振動」になり、指数関数的に振幅は減少して、0に限りなく漸近する。現実にはどこかで止まってしまうが、理論的にはどこまでたっても微妙に揺れており0になることは決してない。
しかし、摩擦の場合は、ある時間がたつと完全に0になって静止状態になる。ちょうど辞書を机の上で滑らすと、はじめは滑っているがじきに止まってしまうのと同じだ。それで摩擦を定式化することにかなりの難しさがあることがわかり、同氏はそれをしっかり定式化して見せた。こんな身近なところ、基礎の基礎のようなところに、最先端の「研究の種」が転がっていたに非常に驚いた。
この話を聞いて、私は自分の論文で、間違いとはいえないものの、方針を誤ったことに気づいた。私の計算では、エネルギー散逸の最大の原因はこの「摩擦」である。現場でエネルギー量を測定したら、実現象に解析結果を一致させるには、系全体に非常に大きな減衰のメカニズムを導入しなければならなくなった。それで、一般的な方法で摩擦をモデル化したが、摩擦のみでは実測値に一致する減衰効果を再現できなかった。それで、上述のような速度に比例する「粘性減衰」を導入し、その係数を通常より1桁大きくして、概ね現象に一致したというものだ。しかし、今日の話を参考にすると、私の論文は「無理矢理、現象に合わせただけ」ということになるのかもしれない。
工学の分野では、ついつい現象にあえばそれでいいと思いがちだが、やはり、基本的な理論が解った方はすばらしいと思った。
「プレステ3」linuxによる高速計算環境の構築
おまけの話だが、パソコンでは計算速度が遅く、計算環境をどうしようかと困っている。分散処理の計算ツールについては、マイクロソフト社も遅ればせながら公開している(Microsoft Windows Computer Cluster Server 2003)。言語は、Fortran77、Fortran90、Cが使えるそうなので、研究用に購入しようかと検討中である。また、東大が中心で推し進めている「ADVENTUREプロジェクト」(設計用大規模計算力学システム開発プロジェクト,Development of Computational Mechanics System for Large Scale Analysis and Design )を使うと、オープンソースの並列処理の数値解析システムが容易に構築できる。
実はある講演者に「どんな環境で計算しているんですか?」と聞くと、ソニーの「プレステ3」という。PLAYSTATION®3に搭載されたグラフィックチップ「Cell/B.E.プロセッサ」の強力な演算能力によりLinuxを動かしているとのこと(おそらく「PLAYSTATION®3 Linux Information」のサイト)。Cell BEについて調べたところ、Cell BEは3.2GHzで稼働し、設計上は4GHz以上の周波数で稼働させることも可能で、計算能力はすさまじく、浮動小数点演算性能で256GFlopsを超えるという(出典「プレステ3に搭載、断トツ性能の「Cell」はITシステムを変えるか(2006/9/27))」より)。
「プレステ3」のlinuxが本当はどの程度か確認した訳ではないが、計算は単精度だが、それでもインテルのDualコアよりは数十倍の高速演算ができるという。インストールには、かなり調べないといけないと思うが、わずか3万円の投資でそのスペックが実現できるのなら考えてもいい。
2008-06-10
乃木坂の日本学術会議まで
研究発表のために、電車を乗り継いで、乃木坂にある日本学術会議まで行ってきた。今回の発表は「連成・複合現象のシミュレーション」というセッションに応募した。当初その担当の先生より「投稿しませんか」との連絡をメールで頂いたからだ。あまり考えずにそのセッションに応募してしまった。プログラムをみると「破壊力学」とか「離散体の力学」などもあり、研究の内容的にはそちらに近いと思う。
我々の計算の特徴は、ものすごく細かいところまで実物を忠実に再現したモデルを使っていることである。実物の1個1個の粒の形状までをmm単位で精密に三次元測定し、それを三次元のモデルで正確に再現して、それらを数多く集めて5〜6mの実物大の構造を有するモデルとした。細かいところまで再現するとなると、適当にすませることが出来ず、測定もモデル作成もすべてのプロセスが手作業による。計算には汎用の解析プログラムを用いているので、方法としては難しくはない。しかし、モデル作成がかなり面倒くさすぎるので、通常の人にはやりたがらないところが特徴である。
スポーツなどの勝負ごとはルールやレギュレーションが、あらかじめしっかり決まっており、実際に試合をやっても勝ち負けは明らかだ。まして、体力や技が劣るものには勝ち目はない。今日の発表会も試合と言えば試合なのだが、研究の場合は、勝ち負けの規準が決まっていないところが大きく違っている。頭が切れる方は理論展開や難解な数値計算をすればいいが、体力が気力だけが売りという方は、勝ち目は無いかというとそうではない。非常に面倒な精密な実験や、ただ単に回数だけが多いというような繰返しの実験、体力がいる現状の調査など、いくらでも自分の得意な分野で太刀打ちできる。ルールもレギュレーションも自分で決めればいい。私は研究のそのようは自由度の大きさがいいと思う。
ところで話が今回のモデルに戻るが、我々のモデルには難点がある。モデルが細かく精緻にできているため、その微細な高周波の動きを再現することを考えると、1万分の1秒とか10万分の1秒単位の非常に小さな時間刻みで収束計算を繰返さねばならない。わずか1秒間の挙動を再現するのにも、数万回の計算を繰り返すことになる。50cm程度の小型モデルのシミュレーションでも、パソコンベースでは軽く1週間程度かかってしまう。現時点では試験的な解析なので、1週間パソコンを動かしたままで、別の仕事をしておいて、1週間後に出来がどうかを確認するというのでも全く問題ない。
しかし、次の段階として、現状の20倍程度の大きさの実用的な解析モデルで、実時間10秒程度の挙動を再現するとなると、パソコンでは軽く数年はかかってしまう。それでスパコンやPCの並列処理計算に移行するのは避けられない状態だ。実は、当初「投稿しませんか」と案内をくださった先生が、並列処理のプラットフォームや計算ツールをいろいろ公開していることもあり、今回の発表がスパコンやPCの並列処理計算に移行する「きっかけ」にならないかと期待したからだった。
しかし、同じセッションでの講演内容をみると、スパコンやパソコンでの多くのCPUを用いた並列解析プラットフォームを用いて、個体構造物と高温液体との連成解析、高周波電磁波の熱伝導連成解析、固体液体混相流など、いずれも圧縮性・非圧縮性、高温・低温の流体の流れが関与する超難解なものばかり。原子炉の高温・高圧で、液体成分も含む水蒸気の計算などが一番あいそうな内容だ。いわば、超難解な問題を、スマートな頭脳でもって、計算パワーをふんだんに使ってに解くというものだ。我々のように、「あまりに面倒すぎて誰もしたがらない」というのが特徴というような「ドロ臭い」研究はなく、かなり「場違い」との感じだった。
やはりセッションのことについては、純粋に「研究の内容」のみから考えて、それに付随する「打算」についてはあとまわしにするべきだったと思う。でも、当初案内を頂いた先生をはじめ、いろいろな方より有用なご指摘頂いた。「ダメ出しされてこと意義がある」という観点では、それなりの成果があったといえそうだ。
自分でやってほちいでちゅ。
共著者が会場に来ていない。同君が学会の発表会を「すっぽがした」のは、昨年の別の会議についで2回目。ここ1年でも、現場での危険作業の立会い時に立ったまま寝ていたり、顧客への説明会で出張先に連れて行ったら、会議室でのプレゼンの最中に寝ていたり、また、ほんの数ヶ月前には、顧客相手の報告会に、約束時間に30分以上遅れてきたこともあった。昨年の実物大試験では、8時30分の集合時刻に来ていないので電話したら、自宅で熟睡していたこともあった。これだけ度重なると、本当に「大丈夫なの?」と思ってしまう。
通常の会社は勤務時間に厳しい。とくに遅刻については、働き始めると徹底的に叩き込まれる。遅刻を繰返すと懲戒の対象にもなる。ところが、今の会社はフレックスで朝は10時までに出勤すればいい。また、通常業務の遅刻なら会社も出勤簿で掌握できるが、出張先や現場のこととなると会社は把握できない。上司が注意する程度だ。
同君は会社の隣に住んでおり、通常なら9時過ぎまで寝ていて、それからゆっくり準備しても「セーフ」だ。ところが、今回のように、遠くの会場に朝8時30分までに到達せねばならないときは、少なくとも朝6時には起きないといけない。たぶん、今朝も目を覚ましたその時点で「アウト!」。すでにお手上げ。
「懲戒」という強い「後ろ盾」が無い状態では、その場やその後注意しても、本人がよっぽどの覚悟で「肝に銘じない」限りは「後の祭り」だ。これらのことも、パソコン相手の作業なら別段問題にならないが、実験や現場測定では危険がつきまとうし、下手すると事故に繫がりかねない。対外的には、会社の評価や信用にも関係する。会社で働いていると、個人の責任だけでは済まされない面がどうしてもでてくる。同君にもこれらにことについても解って貰う必要がある。
通常の業務はまじめにこなしているので些事といえば些事なのかもしれない。しかし、「朝○○時に起きなさいネ」、「前の日は○○時に寝るんでちゅヨ」とか「○○ちゃん、朝ご飯はちゃんと食べまちたかー?」のような、衣食住などの基本事項や時間管理については、他人ではとうてい入り込めない。
「もう社会人なのだから、自分でやってほちいでちゅ。」
2008-06-09
「ダメ出し」のためのプレゼン準備
明日の講演会の発表内容を仕上げなくてはならない。概略は出来ているが、項目を絞らないと時間内に収まりそうにない。わずか10分しかないので、パワーポイントの枚数は10枚〜15枚というところだろう。今日、枚数を考えないで準備していたら全部で50毎程度、1時間ほど授業が出来そうな量になっていた。いまからまた作業開始。
学会での講演や論文発表の目的は、1つは、こんなにいいものができましたという会社の宣伝や自慢のため、もう1つは、考え違いをしてないかとか、新たな方向性を模索するための、いわゆる「ダメ出し」のためである。本来の目的は後者の方だと思う。研究所でも大学でも、強力なアイディアの持ち主であり、しかも金集めの得意な先生の下で、その人の研究の一端を任されて作業している段階では、研究内容については、そのグループ内で直属の上司を含めたところでディスカツションをすれば、およそ間違いの無い方向に進めることが出来るだろう。
しかし、そのような恵まれた環境になく、独り立ちして、授業をやりながら研究をするものや、社会人として仕事をもちながら研究するものにとっては、好き勝手にやれるという自由さの対価として、簡単なことでも相談できないという大きなハンディがある。ものすごく優秀かつ熱心な博士課程の学生でもいれば、十分な相談相手にあるが、なかなかそううまい条件とはいかないのが普通だと思う。相談したいことがあっても、自分と似た内容を研究している人は近くにはなく、結局、各種のシンポジウムや研究会等で発表して、いろいろ意見を言って貰うしか、自分の研究の質を高める機会がない。
そこで、問題となるのは距離だ。研究会、委員会、講演会、学会等すべてのことが都内で実施される。都内の学校や会社に勤務する人は、授業交代や外勤手続きをすれば、電車代だけで参加できる。ところが、地方に住んで、近くに同じことをする人がいないとなると、結局何かあるたびごとに、江戸時代の参勤交代のように、わざわざ東京まで出てこないといけない。しかも、たった1〜2時間の研究会であっても、航空機の時間のことを考えると1泊2日は当たり前で、下手すると2泊3日になる。JABEE対応の授業では休講にも出来ず、授業の入れ替えだけでもたまったものではない。しかも予算枠で出る旅費は限られており、1〜2回の東京往復で完全に底をついてしまう。
転職する前の10年間ほどは、今思い返すと年に10回程度、たった数時間の委員会や発表会のためだけに、東京に足繁く通っていた。おそらく他のほとんどの参加者は出張もしくは外勤扱いだったのだろうが、私だけは出張ではなく「研修」という実に「怪しい」名目だった。本来、仕事の一環として参加しているのは間違いないので出張費がでても良さそうなのだが、予算がないので出張命令ではなく、その人が勝手に休んで行ったという扱いだ。出勤扱いにはなるが、旅費は1円もでない。1往復で7〜8万円かかるし、せっかくきたついでに紀伊国屋で本買って、さらに、秋月電気やマルツあたりで数万円分の部品を買って帰る。好きで行っているので致し方ないものの、予算もないところでは、結局年間百万円近くの手差しを余儀なくされたことになる。
いまは一応都内なので、その点非常に便利になったなあと思う。しかも旅費も出るし、天と地ほどの「格差」がある。今思い返しても、地方に住んで一人だけで研究をするのはやはり大変だと思う。でも、そのようなことを続けていたおかげでいまの職にいるのかもしれないが、投資分相応かどうかはわからないものの、無理してでも出てきたおかげで、その間に得たものは大きいと思う。
ところで、プレゼンの話に戻るが、学生の頃は、発表してもあまり突っ込まれないとほっとしたことが多かった。でも、いまは、いろいろクレームをつけて貰った方が有難いと思う。いっぱい、山ほど、悪口言われて、ダメ出しされてこそ、講演をしたり論文発表した価値があるというものだ。