NHK番組改編訴訟判決要旨 最高裁第1小法廷NHK番組改編訴訟で最高裁第1小法廷が12日、言い渡した判決の要旨は次の通り。 【多数意見】 放送事業者は、法に定められた権限に基づく場合以外は誰からも干渉、規律されない。番組編集に当たっては(1)公安および善良な風俗を害しない(2)政治的に公平(3)事実を曲げずに報道(4)意見が対立する問題はできるだけ多くの角度から論点を明らかにする-という条件が放送法で規定されている。番組編集は表現の自由の保障の下、放送事業者の自主基準に基づく自律的判断に委ねられる。 番組は放送事業者の内部でさまざまな立場、観点から検討され編集されるのが当然で、その結果最終的な放送内容が当初の企画と異なったり、放送に至らなかったりする可能性があるのも当然だ。このことは国民一般に認識されている。 放送事業者は番組制作に当たり、自ら、あるいは協力を依頼した制作業者とともに放送の可能性がある素材を広く集めて取捨選択し、意見、論評を加えた上で公表する。その編集は自律的判断に委ねられており、取材を受けた対象者が、取材担当者の言動などから、素材の使われ方や内容などに期待し、信頼したとしてもそれは原則的に法的保護の対象にならない。 取材対象者は担当者から取材の目的などを説明されて応じるかどうか意思決定するので、期待や信頼がどんな場合も保護されないとはいえない。対象者にとって取材を受けることが大きな負担になり、それを取材担当者が認識した上で「必ず一定の内容、方法で取り上げる」と説明したことで、対象者が取材に応じることを決めた場合、その期待、信頼は法律上保護される利益となる。 そのようにして取材に応じたのに、事前説明と違う番組内容となった場合は、放送事業者や制作業者に不法行為責任が認められる余地がある。 制作会社の担当者は原告に番組提案票を交付し、番組が女性法廷をありのまま視聴者に伝え、昭和天皇への判決内容も放映すべきだと説明して女性法廷の全部と準備活動を取材、撮影したいと申し入れた。だが実際の取材活動は、取材するかどうかにかかわらずほとんどが当初から予定されたもので、原告に大きな負担をかけるものではない。 また担当者の説明、申し入れは、その時点で予定されていた番組の趣旨、内容か担当者の個人的意見を述べたにすぎない。原告も番組の編集段階で説明と異なる内容になる可能性があると認識することができた。 そうすると原告の主張する本件番組の内容についての期待、信頼は法的保護の対象にはならない。こうした場合、放送事業者側と取材対象者の側に、番組内容の説明について合意があったり、説明を約束するなど特段の事情がない限り、途中で内容が変更になっても放送事業者側に法的な説明義務はない。今回のケースでそういう特段の事情はなく、原告の請求には理由がない。 【横尾和子裁判長の意見】 多数意見の結論に賛成するが理由は異なる。取材対象者が抱いた期待、信頼を表明しなければ取材担当者は認識できない。それなのに放送した番組の内容が対象者の期待、信頼と異なるから違法と評価される可能性があるというなら、取材活動の萎縮を招き、報道の自由の制約にもつながる。 こうした期待、信頼を保護すれば、放送事業者がそれに沿った番組制作、放送を求めることになり、放送番組編集への介入を許す恐れがある。番組編集は放送事業者の自律的判断に委ねられているのだから、取材対象者の抱く期待、信頼を法的保護に値するものと認める余地はない。
【共同通信】
|