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生保受給者を守れ!―通知事実上撤回の舞台裏

 「舛添要一厚生労働相に今すぐ電話して、これから会って話そう」―。生活保護受給者が通院時に支給される交通費の「通院移送費」削減問題で、自民党の有志の国会議員は6月10日、問題となっていた厚労省の通知をすぐに撤回するよう求める要望書を厚労相に提出することを決めた。「今、確認した。きょうの14時45分だ。(生活保護受給者が)通院できなければ命にかかわる。すぐに撤回させなければ」。世耕弘成参院議員は携帯電話を机上に置き、ほかの議員に同日午後の厚労相との会談への参加を呼び掛けた。会談で世耕議員らの要望を受け入れた厚労相は事実上、通知を撤回するとの意向を表明。生活保護受給者の医療を受ける権利をめぐり、事態が急転回してからわずか半日で、通知が事実上の撤回に追い込まれた。(熊田梨恵)

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 「通院移送費」削減問題をめぐっては、今年2月に北海道滝川市で発覚した、元暴力団員がタクシー代などの交通費として約2億円を不正受給していた問題を受け、厚労省は4月、都道府県などに対し、支給の基準や範囲を厳格化する内容の社会・援護局長通知を出していた。国民健康保険で支給される「災害現場などからの緊急搬送」などのほか、「へき地などで交通費が高額になる」「身体障害者などで電車・バスの利用が困難」などの場合に「例外的」に支給を認めるとの内容だが、「へき地」や「高額」などの基準があいまいで、自治体の判断に委ねられるため、「事実上、通院移送費の削減だ」との指摘が現場から出ていた。実施は7月からの予定だったが、生活保護受給者は生活費として支給を受けている生活扶助などから交通費を工面しなければならなくなるため、「生活を圧迫し、必要な医療を受けられなくなる」として、通知の撤回を求める声が上がっていた。

■午前8時、党本部で勉強会

 同日午前8時、世耕議員が主宰している「生活保護の通院移送費削減の再検討を求める勉強会」が開かれ、党本部の会議室に国会議員13人と、厚労省社会・援護局の伊奈川秀和保護課長らが集まった。中には元厚労相の尾辻秀久参院議員や、税調副会長の塩崎恭久衆院議員の顔もあった。

 世耕議員は冒頭、「(前回6月6日に開いた勉強会では)通知そのものを撤廃するという見解がほとんどだった。その前に、4月の通知について(支給範囲や基準の)解釈を都道府県などに直ちに出すようにお願いした」と述べ、その後の経緯を伊奈川課長に尋ねた。

■「解釈通知、きょうは出せない」

 
伊奈川課長は「厚労相には基準をクリアにする通知を出すということでご了解いただいていたが、厚労相の方から『もうちょっと時間をくれ』と話があった。また、わたしたちは滝川の(不正受給)事件以降、地方の高額な移送費の支給実態を調査している。全国の自治体に4月以降の状況や、基準をどう考えているかを聞きたい」として、不正受給対策を検討しているために対応が遅れていると述べた。

 厚労省側の見解を聞き、世耕議員は「急いで通知の解釈を出すことと、通知そのものの撤廃をお願いしたが、それがつながっていない」と述べた。

 伊奈川課長は「解釈通知を出しておらず、ご意向に沿っていない点は申し訳ない」と陳謝した上で、「例外的」についての解釈を示す資料を提示した。「原則、福祉事務所管内の医療機関を受診」については、「疾病などやむを得ない場合は、境界付近で管外の方が近い場合はそれも認められる。地域医療計画を踏まえ、『管内』を妥当な範囲に設定してよい」、「身体障害等」については、「例示であり、知的、精神障害、難病などが一律に排除されるものではない。電車・バスなどの利用が著しく困難な事案は個別に審査が必要」、「へき地などで交通費が高額」については「必要な医療を受けられる最寄りの医療機関への通院が阻害されないよう適切に給付する。都市部であっても一律に排除されるものではない」としている。

 森まさこ参院議員は、厚労省の示した解釈を見て声を荒らげた。「前回、(生活保護受給者の声を)直接聞き、一日も待てない状況だった。現場ではこの通知が出たことで『出し控え』が生じ、生活に直結する影響を与えている。生活費を削らないと病院に行けない。病院に行かないか、食べないかの選択肢しかない。行かなければ病気がもっと重くなる。(生活保護を受けて)社会復帰を頑張ろうとしている人に対して厚労省が日ごろ言っている『自立支援』に反する。前回決まったのに通知を出していないのは問題だ」と、解釈を示す通知を急いで出すよう求めた。

■「厚労相は何を考えている」

 
尾辻秀久議員は「前回、自分たちで『その日のうちに出す』と言ったのだから、難しいことではないはず。それをやらないから、やってほしいと言っているんだ。(伊奈川課長ら)皆さんは『きょう(6月10日)の閣議後の記者会見で厚労相がそう言います』と言った。2、3日の違いなら、厚労相がはっきり意思表示した方が分かりやすいと思ったから、いいと思っていた。そしたら今の話だ。『何で』という思いが極めて強い。厚労相は何か考えていることがあるのか。『時間をくれ』と言う意味がさっぱり分からない」と疑問を呈した。
 他の議員からも「厚労相は何を考えているんだ」との声が多く上がった。

 伊奈川課長はこれに対し、「厚労相はこれ(解釈の通知を出すこと)自体に異存があるのではない。滝川に至らないまでも不適切な事例が過去にあったから、防止対策を考えて出さないといけないと聞いている。(解釈を)明確にすることと防止対策をセットで出したいという意向だと聞いている」と回答した。

■「不正受給防止と解釈基準は別の問題」

 
石井みどり参院議員は、「不適切な事例は過去もあった。現場のケースワーカーに聞いたが、役人は(暴力団などに)強圧的に出られると、あってはならないが(不正受給を)認めてしまう。一方で、弱い人には強い態度に出て、必要な人に(支給を)切ってしまう。そこに歯止めを掛けることと、今回の(通知について)『これは認める』とするのは別のこと。不適切な事例と混在してはいけない。本来出すべき人には速やかに出さないと、日々の暮らしに困る事態になっている責任を弱い方にかぶせている」と、不正受給防止と今回の通知の問題は別に考えるべきと主張した。

■「舛添厚労相の意図と違う動きでは」

 
菅義偉衆院議員が「直接厚労相と接触したのか」と尋ねると、伊奈川課長は「秘書官から聞いている」と答えた。
 「(厚労相に)内容をこう修正したいと直接言わないのか」と、菅議員がさらに尋ねると、伊奈川課長は「大臣にはこの会議のことは直接伝えている。一度了解を取っているが、秘書官経由で『もうちょっと待ってくれ』と、話が週末にあり、秘書官に接触して、もう一度直接秘書官に聞いた。そうすると今申し上げたようなことだった」と答えた。

 菅議員は伊奈川課長に対し、「厚労相が意図していることと、全く違うことが行われているのではないか」と指摘。同課長は「大臣も必要な医療を受けられる人が受けられなくなってはいけないと従来から言っている」と応じた。

■「きょう厚労相に直談判しよう」

 
尾辻議員は「人の命は先延ばしできない。きょう医者に行かなければならない人に『不祥事のことも一緒に考えるから待ってくれ』という考えは絶対にまずい。きょう医療が必要な人が受けられなくなってはならないから、急いでいるんだ」と訴えた。その上で、「先延ばしにするなら厚労相とじかに話さねば、同じことを繰り返す。厚労相と話して結論を出そう」と、直談判が必要だと述べた。

 塩崎議員は「厚労相は気になることがあるなら言えばいい。問題を直すことが大事。不正への注意は(通知の中に)言葉で入れればよいではないか。きょうにでもやろう」と加勢した。ほかの議員からも「ここで問題になっていることに時間を置く理由はない。早くやった方がいい。厚労相を呼ぼう」などの声が上がった。

 菅原一秀衆院議員も「弱いところにしわ寄せが来るなんて、本来の厚労相らしくない。そうなら役所側の論理に染まった理屈かな、という懸念を持つ。こっちからは何時でもいい、早い時間に直談判しに行こう」と呼び掛けた。

■通知撤回求め、要望書提出を決定

 
世耕議員は「伊奈川課長は大臣の意向もあって袋だたきになっているが、これ以上はお気の毒なところもある」と述べた。その上で、「通知を撤回する要望書を厚労相に出したい」と述べ、通知撤回を求める要望書の案を出席者に配布した。

 尾辻議員は伊奈川課長に対し、「今すぐ厚労相に連絡を取ってほしい。われわれが『時間をくれ』と言っていると、秘書官と連絡取ってほしい。わたしが電話を代わってもいいから」と声を掛けた。

■携帯電話でアポ調整、即日会談へ

 
伊奈川課長は携帯電話を取り出し、着席したまま電話をかけた。「事務の秘書官が、今話せないので折り返すとのこと」と報告した。

 代わって世耕議員が「政務秘書官なら分かる」と、携帯電話をかけた。しばらくのやりとりの後、世耕議員は「きょうの14時45分に国会連絡室で大臣と会談が決まった。できる人は参加してほしい」と、時間調整ができたことを報告し、厚労相に要望書を提出するために再び議員が集まることを確認した。

 また、通知を厚労相が待つように求めたことを政務秘書官に確認したと述べ、「今の通知があるままでもう一つ出すと、余計分からなくなるという、ポジティブな意味だった」と付け加えた。
 これを聞いた尾辻議員は、「ポジティブに考えている間に人の命がなくなったら困る。その間のことを考えねば」と漏らした。

 勉強会終了後、尾辻議員は参加していた生活保護受給者や支援者に対し、「厚労相に会うことになったから大丈夫だ」と声を掛けた。
 世耕議員は記者団に対し、「官僚のやり方は分かっている。『自治体に聞いてから』と言った時点で、先延ばしにする手だと思った」と語り、そうさせないよう早急な対応を取ったとした。

■14時45分、要望書を厚労相に提出

 
14時45分に国会内で、国会議員23人の連名による通知撤回を求める要望書を厚労相に提出。会談後に記者会見した世耕議員は、「大臣は新しい通知を本日付で出すとして、事実上撤回すると明言した」と述べ、厚労相が要望を受け入れたことを明らかにした。

■16時半、厚労相「通知を事実上撤回」

 
16時半、厚労相は国会内で記者会見を開き、「必要な医療を受けられなくなるということがあってはならない。(新しい通知は)事実上撤回と同じような効果を持つ」と述べ、解釈基準を柔軟にする通知を同日付で出す意向を表明した。

 厚労省は11日、10日付の社会・援護局保護課長通知「医療扶助における移送の給付決定に関する留意点(周知徹底依頼)」を都道府県などに対して出した。


更新:2008/06/11 22:51   キャリアブレイン


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