労働あ・ら・かると

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今月のテーマ(2008年5月 その4)

日雇派遣は禁止されるべきものだろうか

  新聞報道によれば、いくつかの政党で日雇派遣を禁止する法案が検討されていると報じられている。中には、労働者派遣法を小泉構造改革の前の状態に戻すべきだと主張する人たちもいる。このような人たちには、憲法で保障する職業選択の自由について、どのように考えられているのかを問うてみたい。憲法では、公共の福祉に反しない限りは、すべての人に職業選択の自由が保障されているからである。

 日雇派遣には、日雇労働者という要素と派遣労働者という要素の2つの要素がある。

 日雇労働者は昔からある働き方で、少し古くなるが、平成14年の就業構造基本調査によれば、日雇労働者は157万人おり、日雇派遣労働者は36,500人いる。日雇労働者については、社会保障制度にも雇用保険の日雇労働被保険者制度や健康保険の日雇特例被保険者制度がある。また、中小企業退職金共済制度の特定業種退職金共済(建設業、林業、清酒製造業)制度も日雇労働者を対象とした制度である。日雇労働者という働き方が公共の福祉に反しているとは思えない。

 それとも、派遣労働者という働き方が問題なのだろうか。平成19年の労働力調査によれば、派遣労働者は133万人に達している。派遣労働者という働き方を規制している労働者派遣法に問題がないとは言えないが、さすがに公共の福祉に反しているから、派遣労働者という働き方は全面禁止すべきだということにはなっていない。

 それでは、日雇労働者という要素と派遣労働者という要素の2つの要素が組み合わされることによって、問題が生じているのだろうか。グッドウィルの事件などに代表されるように、日雇派遣に問題がないとはいえないが、それは労働者派遣法や労働基準法が守られていなことが問題なのである。このため、厚生労働省も日雇派遣労働者指針を公表しており、法令遵守の定着を図るとともに、さらに問題があれば制度の見直しがなされるべきであって、そのことがただちに禁止ということにはならない。

 平成14年の就業構造基本調査では日雇派遣労働者の数は36,500人であるが、現在ではもっとその数は増えているであろう。このような日雇派遣労働者や日雇労働者派遣事業の事業者だけが言われのない非難の対象になっているように思えて仕方がない。
日雇派遣労働者はワーキングプアやネット難民の代表的な存在と位置づけられ、そのことが禁止の根拠にもなっているようだが、日雇派遣が禁止されたら、彼らはどのような方法で働く場を確保し、どのように生計を立てるのだろうか。それこそ、収入を得る道が途絶えて、一層困窮化するのではなかろうか。

 また、もし現在日雇派遣が担っている機能をハローワークに期待するのであれば、現在のハローワークにそのような機能を果たすことを不可能であると思われるし、仮に本当にそういう方法を選択しようとすれば、膨大な人員、つまり膨大な国費の投入を余儀なくされることになることも認識しておかなければならない。

 かつて、売春防止法が制定された時には、売春婦として働いていた人たちの生活をどのように保障するのかが議論になったといわれているが、もし、日雇派遣を禁止するのであれば、そういう議論が最低限必要であり、それより前に日雇派遣を禁止するということは、日雇派遣労働者という働き方が、風俗営業適正化法の規制の下に適法に働くことのできるソープランドの従業員の働き方よりも公共の福祉に反しており、売春防止法で禁止する売春婦の働き方並みであることを立証しなければならないのではないか。

 労働者派遣法の制度見直しのほかに、日雇派遣労働者がネット難民などにならないようにするための方策として考えなければならないのは、雇用保険の日雇労働被保険者制度や健康保険の日雇特例被保険者制度を日雇派遣労働者にきちんと適用することであり、さらには中小企業退職金共済制度の特定業種退職金共済制度の対象に労働者派遣事業を対象とすることを検討することであろう。

 日雇派遣労働者のみならず、労働者派遣事業や業務請負事業のような新しい産業については、既存の制度がカバーしきれていないことが問題であり、その意味では、これらの制度のみならず、既存の労働に関する制度に関与する人たちが積極的にこれら新しい産業にアプローチしていく必要があるのではないか。

【木村大樹 国際産業労働調査研究センター代表】