厚生労働省「人口動態調査」により年間自殺者数の推移を見ると、最近30年間では、1986(昭和61)年に2万5千人を超える水準となった後、2万人から2万5千人の水準で推移していたが、1998(平成10)年に3万人を超え、それ以降ほぼ横ばいとなり、高水準で推移している。最近の動向をみると、高齢化の影響もあり60歳以上層の占める割合が高止まっていること、厳しい経済・雇用情勢を反映してか50歳層の占める割合が上昇傾向で推移していること、男性の割合が上昇する傾向にあることが目立っている。
警察庁資料により、原因・動機別(家庭問題、健康問題、経済・生活問題、勤務問題、男女問題、学校問題等)の構成を見ると、健康問題が一貫して最も高い割合を占めているものの、1990年以降、その割合は一貫して低下している。一方、経済問題は、1990年以降上昇傾向で推移し、2002年には、健康問題が5割弱、経済・生活問題が2割5分となっている。2002年の遺書ありの自殺者数について、年齢階層別に自殺原因・動機の占める割合を見ると、40歳以上60歳未満の層では経済・生活問題が、60歳以上層では健康問題の占める割合が最も高くなっているなど、年齢層によって特徴がある。これを男女別に見ると、男性では「経済・生活問題」の割合が最も高くなっており、特に40歳以上60歳未満の層では5割を超えている。一方、女性はすべての年齢層で「健康問題」が最も高い割合を占めている。こうした男女や年齢層による自殺原因・動機の相違には、生活の主たる場が職場又は地域であるか、家庭内での役割がいかなるものか等が影響を与えているのではないかと考えられる。
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自殺死亡率の動向
最近30年間の自殺死亡率の動向を見ると、1986(昭和61)年にピークとなった後は1990年代初めまで低下したが、1998(平成10)年には人口10万対で25.4と最高値となり、その後は横ばい傾向で推移している。また、その変動を細かく見れば、おおむね景気循環に沿った動きをしている。男女別に見ると、女性はこの30年間、若干の変動はあるものの、ほぼ一定で推移している一方、男性は、もともと女性と比較して高い水準で推移してきたが、1998年以降の高止まりが目立っている。2002年には男性(同35.2)は、女性(同12.8)の3倍弱の自殺死亡率となっている。年齢階層別の自殺死亡率の動向をみると、特に男性では、バブル崩壊後の1993年以降、現役層である50歳代層が最も高い層となっており、1998年(同67.9)には前年に比べ20ポイント以上上昇した後、高水準(2002年は同66.2)で推移している。
こうした動きには、近年の厳しい経済情勢、特に完全失業者数との相関がみられるところである(注)。これは、雇用環境が厳しくなったことや、失業といったことを契機として特に中高年男性に対して大きな精神的ストレスが負荷されることとなり、結果としてうつ病などの精神疾患、さらには自殺の発生に結びついている可能性があることを示している。
(注)男性自殺者と完全失業者数や負債総額の間に有意な相関関係を認めることができるとする研究がある(産業医科大学「労働者の自殺予防に関する調査研究Ⅱ」)。なお、生きがい、収入家計、家族関係、自分の健康等によるストレスを感じている人の割合が失業率が増加する以前に増加する場合に自殺率の高まりが見られ、これを緩和・予防することが失業による自殺防止対策として重要であるとの指摘もある(国立社会保障・人口問題研究所「自殺による社会・経済へのマクロ的な影響調査」より)。