 年々、注目度と視聴率が落ちるレコ大。審査委員長失踪で大波乱?(昨年の授賞式から) |
「第47回輝く!日本レコード大賞」(主催・社団法人日本作曲家協会など)の審査委員長で、音楽評論家の阿子島たけしさん(65)が行方不明になっていることが、15日までに分かった。阿子島さんが失踪(しっそう)した翌日には自宅が全焼し、音楽業界には阿子島さんがレコード会社からタカリを繰り返していたと告発する怪文書が出回っていた。「これはブラフではない」という怪文書が物語るものはなにか。阿子島さん自身にもきな臭さが漂うなか、神奈川県警は失踪の状況から事件に巻き込まれた可能性もあるとみて本格捜査を始めた。
【戸塚駅で最後の目撃】
県警戸塚署の調べによると、阿子島さんは12日午前9時ごろ自宅を出て、都内の事務所に出勤。同日夜、歌手の懇親パーティーに出席した。
同署で最寄りの駅のJR戸塚駅の防犯ビデオを確認したところ、12日午後11時ごろ、阿子島さんとみられる男性が改札口を通過する姿が写っていたことが判明した。
 レコ大まで2週間あまり。忽然と消えた阿子島たけし審査委員長の全焼した自宅では、警察と消防の現場検証が行われた=15日午前10時10分、横浜市戸塚区吉田町 |
阿子島さんは帰宅途中か、帰宅後の自宅で何らかのトラブルに巻き込まれた疑いもある。
最後の消息から数時間後の13日午前5時半ごろ、横浜市戸塚区吉田町にある阿子島さんの自宅から出火し、木造2階建て約77平方メートルを全焼。延焼した近所の民家5棟も全半焼した。1階居間付近が火元で、玄関の鍵は掛かっていた。
阿子島さんは妻(56)と2人暮らし。出火当時、妻は同県葉山町の実家を訪れていた。同署は1階居間から出火したとみて放火の可能性も含め、捜査を進めている。
一方で、家族は阿子島さんと14日になっても連絡が取れず、「家出する理由は思いあたらない」として、14日に警察へ捜索願を提出した。日頃から携帯電話は持ち歩いておらず、連絡がつかない可能性もある。
【辞退勧告書】
 阿子島さん周辺には怪文書も飛び交っていた |
阿子島さんは8月からレコ大審査委員長に就任。だが、10月下旬から「音楽業界有志一同」と名乗る人物から怪文書が本紙を含め、マスコミ各社へ再三、郵送やFAXで送りつけられた。
怪文書は9月半ばに阿子島さんに対し送ったという「辞退勧告書」の写しと、「レコ大委員各位」と題され、「人間性を看過できない」などと阿子島さんを非難する文章の2通。
「勧告書」は「有志一同は会合を開き、貴殿に対して下記の件について次のとおり決議した」とし、(1)阿子島さんの親が死去した際、レコード会社社員に香典を要求した(2)一昨年9月に行われた「東京音楽記者会50年の集い」の幹事だったが、決算書を公表せず、余剰金が不明(3)韓国やゴルフツアーをメーカーに強要した(4)業界の有力筋に顧問料をねだった−と主張。「辞退なきときは、必ずマスコミ各社にスキャンダルとして送られることになる」と脅迫めいた表現で結んでいる。
【阿子島さんは否定】
行方不明になる前、阿子島さんは今週発売の週刊新潮に、「全く根も葉もないこととまで言いませんが、事実関係を捻じ曲げている」と怪文書の指摘を否定している。
阿子島さんは宮城県出身。昭和39年、早大第1文学部を卒業し、報知新聞社へ入社。文化部で芸能記者として活躍した後、47年に退社。音楽雑誌編集部などを経て、51年にフリーの音楽評論家として独立する。
著書には、「イワテケンより世界へ−これが『ザ・ビッグマン』千昌夫だ!」や吉幾三さんとの共著で「酒よ、歌よ、津軽よ−ふるさと創生歌手・吉幾三の人生宅急便」などがある。
【当分はオレの時代】
古くから阿子島さんを知る音楽業界関係者は、こう証言する。
「阿子さんはつい最近も、『大手プロダクションからあいさつがない』と漏らし、担当者が慌てて、そのプロダクションのトップと一席もうけたそうです。その際も、『あそこの寿司がいいな…』といった調子でした」
レコード大賞を代表とする「賞レース」が激しかったのは、20年も30年も前の話だという。「当時は、評論家に現金を運んだ、などという話も先輩から聞いたこともありますが、今は少なくとも現金を渡すということは聞かない」(大手レコード会社宣伝マン)という中で、阿子島さんは業界でも古いタイプといえるかもしれない。
レコード大賞の審査は、在京の音楽担当記者を中心に行われるが、現役の記者でもない阿子島さんが委員長をやることへの反発も内部にあったことは事実だ。
先の関係者が、その点を阿子島さん自身に質すと、「オレは作曲家や作詞家に好かれているから、と。そして、自分の後に委員長をやる人はいないだろうから、当分オレの時代だね、と胸を張っていましたね」という。
「阿子さんは、明るくて面白い人。内部から批判があったとしても、気にするような人ではないから、自ら行方不明になるとは思えない。やはり事件に巻き込まれたのでは…」と先の関係者は心配している。
■「そんな悪い人じゃない」近所の主婦
阿子島さんの“謎の失踪”から3日たった15日、近所住民らは阿子島さんの安否を気遣っている。全焼した阿子島さんの自宅は、骨組みがむき出しとなり、火災のすさまじさを物語っていた。焼け跡には、燃え残った新聞紙、音楽雑誌、ビールの缶などが散乱している。
関係者によると阿子島さん夫妻には子供が2人いるが現在は2人とも独立しているという。
子供同士が同級生だったという主婦(58)は「阿子島さんについて変なウワサが立っていたのはなんとなく知っていたが、そんなウワサの立つ悪い人ではなく、とてもいい人。家にお邪魔したこともあるが、とても質素で派手な感じではなかった」と話した。
別の主婦(61)は「火事が起きたときうちの息子たちもホースで消火にあたったが、火の勢いがとても強かったので駄目だった。警察の人は不審な人物が阿子島さんの家に入っていなかったかを聞いて回っていたようだ」と振り返り、依然行方の分からない阿子島さんについて「早く戻って来てほしい」と話した。
■「紅白」に並ぶ国民的番組も…
日本レコード大賞は、日本作曲家協会(遠藤実会長)などの主催、TBS後援で1959(昭和34)年から始まり、今年で47回を数える日本で最も有名な音楽賞。
60年代後半から80年代初めの歌謡曲全盛期には、大みそかの大賞発表の授賞式は、NHKの紅白歌合戦とともに、国民注視の番組だった。77年の19回では平均視聴率も50.8%にも達した。
しかし、音楽賞の乱立と消滅が相次ぎ、J−POPアーティストの台頭でリスナーの趣向も多様化などしたことから、年々、視聴率も低下。89年から紅白の放送開始が午後9時から午後7時台に繰り上がったことも影響し、近年の視聴率は10%割れ目前の状況になっている。
既に、今年の大賞候補となる金賞10組が発表されており、氷川きよしや倖田來未が大賞の有力候補とみられている。
ZAKZAK 2005/12/15