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【社説】

点滴医療事故 緊急時への対応が鈍い

2008年6月13日

 鎮痛薬の点滴を受けた多くの患者が体調を崩し、一人が死亡した三重県の医療事故に、警察の強制捜査の手が入った。医療が抱える問題点を検証して、再発を防ごう。

 問題の三重県伊賀市の整形外科診療所では三年、二年前も点滴中やその後に患者が体調不良を訴え、昨年十月には点滴の数日後に死亡するトラブルがあった。今回は対象患者が桁(けた)違いに多い。

 三重県によると、診療所では看護師が点滴液を作り置きし、余ると次の診療日に使った。作り置きの点滴液で雑菌が繁殖、体調の異常を起こした疑いがある。

 三重県警は業務上過失傷害の疑いで診療所などを家宅捜索した。警察の捜査は当然だが、県や関連の医療機関も協力し、過去のトラブルも含め、まず原因を徹底的に究明すべきだろう。

 最初に体調を崩した患者が別の病院に入院したのは先月二十三日だが、保健所に連絡があったのは今月九日午後だった。当初は点滴を問題にしなかったからだが、診療所も入院先の病院も、住民の医療を預かるものとして鈍感過ぎないか。連絡が早ければ死者の発生は防げたかもしれない。

 問題の診療所は医師一人、看護師八人で、毎日約三百人の患者を治療した。そのうち約百人が点滴を受けていた。技術や設備面の差を考えると即断できないが、診療所が超多忙だったのは確実だ。一人一人の患者に十分な時間をかけていただろうか。

 百人に点滴が過剰診療かどうかとは別に、スムーズな処理には点滴液を作り置きしないと間に合わないことは、容易に想像できる。点滴液が抗生剤や抗菌剤でない場合は、作り置きの中に雑菌が入り繁殖することは考えられる。

 多数の患者を扱う中で、点滴用器具の管理、点滴前の看護師らの手の洗浄、患者の局部の消毒など院内感染防止に必要な基本的な手順は厳格に守られていたか。再検証が必要である。

 個別の医療施設の反省とともに考えるべき問題がある。

 医療施設で働く整形外科の医師数は内科、外科に次ぐが、病院勤務医の減少、開業医の増加の傾向は変わらない。医師と患者の数が不均衡となる地域も多い。

 極端な患者の集中を避ける診療所の適正な配置、基本的な診療と高度医療の役割分担など、国や自治体、医師会などが協力してその実現を急ぐべきであろう。

 

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